第6話 大衆食堂クソまみれ


 昭和五五年一月


「いらっしゃい!」

 店主の威勢の良い声が閉めたガラス戸を揺らす。店内には馴染なじみの客が数人、それぞれ黙々と食事をしていた

 男はいつもの席に着いた。

「クソまみれ定食、大盛りで」

 少しこもった声で注文するとスポーツ新聞「白旗」を広げニュースを目で追った。

「はいよ! クソまみれ定食、てんこ盛り一丁!」

 店主の返答を耳にしながら男がプロ野球選手の脱税、賭博、不倫など比較的明るいニュースに目を通していると、つけっぱなしのテレビニュースの声が耳に入った。


「先日、三鷹市、下連雀しもれんじゃくにある八幡様で賽銭ドロをはたらいた男の映像が地元警察により公開されました。男はグレーのトレーナーにジーンズ、黒の帽子をかぶって犯行に及んだ模様です。年齢は四〇歳前後とみられます。今後は警察庁に本部を設置し全国指名手配として捜査に望む方針です」

 男はチラッとテレビに目をやり、また新聞記事へと目を落とした。


「いらっしゃい!」

 店主の声が昼時の店内にひっきりなしに響く。

 この食堂を利用する客のほとんどが真向かいにあるパチンコ店「都市開発」の客でもある。

「今日も黒の帽子被ってるな」

 入って来た客が男の前に座り声をかけた。

「着た切り雀だよ。いつも一緒。グレーのトレーナーにジーパンそれに帽子は黒さ」

 男は新聞から目を上げて元気よく答えた。



(つづく)


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都市開発列車 しお部 @nishio240

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