第5話 八反、トコロテン見つける

 新聞配達はそういうことになったので今日は休刊にした。販売店の所長も「それでいいんじゃない」と必死にパソコンをにらみつけ、いつも出している「極秘ニュース」の作成にいそしんでいる。


「疲れたな。寒いし。土台新聞なんて毎日配るもんじゃないしね。九分九厘くぶくりん読んでないだろうし。実際配ってる俺が一度も読んだことがないからね」

 八反はったんが呟く。

「そのとおりだ、八反。ジャーナリズムの本質が分かってきたな。俺も今日は半分だ。頑張った方だよ」

 他の配達員が言う。


「リーン、リーン」

 そのとき販売店に電話が鳴り響いた。

「なに、いまごはん食べてるからあとにして・・・。なに新聞? 休刊だよ」

「ガチャン!」

 八反はきっちりと仕事を終えたようだ。これから探偵業再開に向けて動かなければならない。こんなことに構っていられない。しかしどこから手をつけていいか分からない。調査依頼が一切ないのだ。仕方がないので事件をでっち上げることにした。また八反は正解に辿り着いたようだった。


 八反は街に出た。どこかで一騒動起さなければならない。どうしたものかと、駅前のパチンコ屋に並ぶ行列を眺めていた。するとひとりの男が急に行列から飛び出し駆け出す姿が眼に入った。それを追いかける数人の男たち。

「あっ、鐘突かねつきでトコロテンだな。拉致らちられて詰められるな、あいつは。自業自得だね。銀玉で金稼ごうなんて気持ちがそもそも間違ってる」

 優しい気持ちで八反はそう思ったが、そこは探偵である。事件の匂いもいでいた。

 八反は男たちのあとを追いかけた。



(続く)


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