2
『こちら第二隊一班! ゴブリン共、副団長の魔術を受けると……爆発せずに倒れました!』
「……
『はっ!』
通信が途切れる。眼前に数多の敵を認めながらも、ヒディルは小さく笑みをこぼした。
(これだけ離れていても、
ヒディルが目を開ける。
同時に魔波が
「全隊聞け! 光属性の攻撃を用いればゴブリン共の自爆を不発に出来ることが分かった! 光属性を得意とするものを主軸に展開せよ!」
『了解ッ!!』
言いながら、ヒディルは右手に持った
「負けてはいられんな――私も」
閃光。
弾けるような光が、鉄剣の刃を根元から切っ先まで覆う。
輝く剣身をまとった
それは先の傭兵らの突撃と比べれば、あまりに地味な侵攻。
ゴブリンの一体もそれを知ってか高笑いしながら、
『!!?』
驚愕。
それは周囲の傭兵や騎士だけでなく、
斃れたゴブリンに走り迫っていたはずのヒディルは気が付けばゴブリンの背後に移動し――一太刀でその個体の首筋に
そして当然、その
光属性を前に、起爆剤たるゴブリンの血は、その体は
「――決して
剣を持つ手で、ヒディルは
「せめて
剣光が、
「エクター副団長に続けぇッ!!」
――――発射された輝く剣が突き刺さったゴブリンは、
エクターの背後に
と――
「ッ――副団長ッ!!」
「ヒディル様ッ!!」
ヒディルの足元で突如ひび割れ、
団長の危機を悟った新米騎士の叫びはしかし、
「不意打ちとしては悪くない。だが――私を狙ったのが運の尽きだ」
新米騎士が体をふらふらさせながら目を見開く。
彼の足元には、砕け飛び散った岩盤の欠片。
ヒディルは、真後ろから迫った鋭利な
ヒディルの周囲の岩盤は、残らず砕け吹き飛んでいる。
それは不意打ちを仕掛けた魔族――――オークの中でも一際
「オ――オーク!!? 馬鹿な、この硬い岩盤を魔波も感じさせず進むなど――」
「貴様の後ろを見るに――ずっとそこに潜んでいたという訳か?」
オークの背後に見える地下の
「暗がりばかりでは気が滅入ろう。真の安息を受けよ」
一突きで、オークの
輝く聖剣は、背後から伸びたオークの槍と腕を串刺しにした。
四年に渡り、極限まで
「惜しかったな。その
オークの額に聖剣が突き刺さり、緑の巨体は完全に沈黙した。
周囲から歓声が上がるが、エクターはそれにも鋭い目を向ける。
「歓喜する
『はっ!!』
「では任務遂行を再開しろ! 戦えぬ傭兵共は本陣
◆ ◆
『!!』
周囲の治癒術師たちがぎょっとするも――血は赤い。
「起爆する血液はオレンジ色」――伝わっていたその情報とは違う色でであることを認め、彼らは知らず
「て……テレリアちゃん……」
「大丈夫ですか。今治療していますよ。もうすぐ助かりますよ。だから気をしっかり――」
「たすけてくれぇ…たすけ、て」
――簡易ベッドに寝かされた傭兵の手が重力に負け落ちる。
テレリアが治療に当たっていた、ゴブリン爆弾により欠損した臓器の修復が間に合わなかった
テレリアの治療の腕が、特段悪かったわけではない。
治療に当たった者、
テレリアは落ちた傭兵の両手を取り彼の胸の上で重ね、自らの胸元にあるテネディアの
テレリアにとっては初めての前線だ。次々指の間を
「気に病まないで、テレリア。あなたは最善を尽くして――」
「? いいえ、気に病んでなんていませんよ?」
くるり、と振り返ったテレリアが、黒い前髪の向こうでにこやかな――にこやかな笑顔を浮かべ、頬の血を
固まってしまったのは話しかけた治癒術師の方だった。
「む――無理しなくてもいいのよ? 精神的に、」
「いえ……何ともありませんよ? だって彼はもう、私のアイを必要としていない。テネディアの腕に抱かれたんですから」
……その言葉が正確に聞こえた者達が、残らず真顔でテレリアを見る。
当のテレリアは求めに応じ、既に次の患者へとそのアイを向けていた。
◆ ◆
大量のゴブリン達が
周囲から飛ぶ危機を知らせる声にも応じず、エクターは自らの周囲全方位に無数の
空中で逃げ場のないゴブリン達は残らず光の剣に貫かれ、地に落ちる前にただの黒ずみと化し、霧散していく。
そんな勇姿を見た者達の
「すげぇぞナンバーツーの野郎ッ!!」
「辺りのゴブリンを一匹残らず消しちまいやがった!!」
「英雄だぜぇ!!」
「行くぞッ!! 上級魔族共に我らの強さを思い知らせるのだッ!!」
『おおうっ!!』
――既に戦況は
大半の
しかし、当のエクターの顔は
『エクター。聞こえるか、エクター』
「――ヒディル様。副族長らしきゴブリンを見ましたか」
『いや、見ていない。各所から、既にゴブリンはほとんど
「……どこにいるのでしょう、奴は。私は奴を――」
『そんなものより、今見えている現実に目を向けた方がよい――と、普段のお前なら
「………………」
ヒディルの言葉にエクターが黙り込む。
ややあって、次に口を開いたのはヒディルの方だった。
『……エクター。君には本陣の警護についてもらいたい』
「…………今何と言われました?」
『聞こえているはずだ』
「っ、ゴブリンに
『今の言葉だけで判断しているのではない。――ただ
「危惧……ですか?」
『敵は、我々が予想もしなかった戦法――ゴブリンであるとはいえ、同族の命を
「それは
『本隊は既に大きく進軍している。これから別の隊を本陣に戻すとなれば、敵からの追い打ちは免れない。それだけで我々の被害は
「…………」
『騎士団
「…………」
――正論だった。
万が一本陣――ベステア有数の治癒術師・魔術師が結集している場所が陥落するようなことがあれば、戦争の敗北どころか――下手をすれば全滅の
もちろん、あらゆる事態を想定した
しかし、この戦いは魔族にとっても
そして現状は――使い捨てられる魔族が、ゴブリンだけで終わる確証も無い。
「……了解しました、団長」
『……エクター、』
「本陣へ向かいます」
エクターが通信を断ち、目を閉じる。
(……戦局と敵の覚悟をうかがっての判断だ。しくじれば滅亡への道が開かれてしまう。異論を差し
〝う……うわあぁぁぁああぁっっっ!!〟
〝やめてくれ……こ、殺さないでくれっ……!!〟
(――余地など、
遠く、
その先に、宿命の相手が待つことになるとも知らず。
◆ ◆
「うっひょー! 見ろよ、とうとうお出ましだ!!」
「第十三次攻略の時に出たコボルトの王だ!」
「コボルトの族長が出たぞおおぉぉっっ!」
強敵の出現に
しかしヒディルの心は、今も
〝ゴブリンに
(…………。そうだ。エクター、お前は
風。
毛を逆立て、牙を
彼はひとまず、私的な
〝死ねッ……
(……いずれも、
「ヒディル様ッ!!」
新兵の叫びと共に。
コボルトの牙が――危なげなく構えた、ヒディルの首を狙って迫る。
◆ ◆
荒い息、ガシャガシャとうるさい足音。
一人の教会騎士が本陣へと駆け込んできた。
その
「な――なんだ、一体どうした?
騎士は兜の中で息を荒げたまま、無言で魔術師長の男を見つめる。
大きな薄いカーキのローブを身にまとった魔術師長はとにかく彼を休ませようと、手近に居た魔術師隊の者に水を持ってくるよう指示を出す。
それが、致命的な
「――――――――――▒░▊▒▒██」
「――え?」
悪寒。そして確信。
振り向きざま、
しかし最強を放った男の眼前で、
「――――――げ、ァ゛、」
騎士は、男の
『――――!!?』
その光景を目撃した魔術師・治癒術師たちが揃って目を
魔術師長の反撃を
左手には――今しがた握られた、これまた歪に曲がった紫色の杖。
その杖を、騎士が強く握ったかと思うと――暗色の魔力が杖に収束し、右手と同じ刃を持つ剣へと変容した。
「……▊▎▎▂▒▓……」
魔術師長に撃たれた最強の魔術を受け、兜が真っ二つとなり血だまりに割れ落ちる。
ヒディルと同じく、歴戦の勇士であった魔術師長を
「な――――!!?」
「ひっ―――」
――
毛髪の少ない頭。
曲がった腰に低い
手と同じくらいの大きさの目。
そして――
「……▊▒▒▊▎▓▅▒▇▂▒▓ッッ、」
――同族の
人々は直感する。
「ゴッ――――ゴブリンの族長だあぁァァァァァッッッッ!!!!!!」
本陣は今、陥落の危機に
「█░▊▊▒▎▎▊▒▒▊▎▓▊▊▊▊▊▊――――――――ッッ!!!!」
◆ ◆
「……ぇ……?」
(……なんで? 待ってよ、だって、この方角は……あっちには、テレリアが……!!)
――
傷だらけの身体など忘れ、ファナは弾けるように本陣へ走り出した。
半魔 はっとりおきな @hato_go_home
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。半魔の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます