第4話 隻眼
1
「
「なっ……何言ってんだ、オイ。み、耳が、よく聞こえね――」
物理・魔法障壁を展開する間も無く、
巨漢の傭兵は閉じた目元から大量の血を流し、
そんな巨漢の周囲から――実に十数体ものゴブリンが石の剣を突き立てる。
「ッッ!! っわ、ぁ――――て、てめえらっ」
無論、そんな刃は通らない。
歴戦で
しかし、それが
しかもそれをほぼ零距離で、
「し、障壁っ――障壁ッッ」
動転し、敵との距離さえまともに測れないまま、巨漢が
その中に、大量の
「ば――馬鹿野郎ッ!!」
「――へ?」
魔破。発光――――――そして爆散。
巨漢の展開した物理障壁内は、一瞬にして大爆炎に包まれ――――中身は肉片となり果てた。
「ちっ……ちくしょおおおおぉぉぉぉっっ」
「よ、寄るな寄るなッ!!」
「う、嘘よ、ゴブリン相手に攻撃も出来ないなんてッ……!」
「
『!!』
後方から飛んでくる声。
それは
傭兵達は我先にと敵に背を向け退却を始め――騎士たちをすれ違う。
「――距離十分です! 団長!」
「――魔術師隊――第一弾撃てッッ!!」
ヒディルの声と共に傭兵の、騎士の頭上を赤く小さな光がいくつも走り――ゴブリンの群れへ次々着弾、球形の大爆炎が壁のように連なり
爆炎の弾幕は無数の「ゴブリン爆弾」を
「こちら第二隊
『こちら第四隊二班! ゴブリンの自爆を防げるのは物理障壁! 魔法障壁は効果ありません!』
『第四隊四班、負傷傭兵多数! 応援願います!』
「各部隊長は任意に展開、まずはゴブリン共を掃討せよ! 敵
「はっ!」
「ちょ――ちょっと待ってくださいヒディル様! 総大将である
「いいんだよ新米。団長はアレで」
「よ、よろしいんですか隊長!」
「まあ――団長の実力を間近で見てないんじゃ、そう心配するのも無理はないがな」
「ヒディル様の……実力?」
第七隊部隊長は慌てる新兵をなだめ、もう小さくなっているヒディルの白いマントを見つめて笑う。
「何故ベステアが、この数十年でギアガロク
◆ ◆
切っ先だけがわずかに刺さり、
ファナは剣と共に振り回され、地上に投げ落とされた。
「ふっ、ふっ……ふ、あっ……!!!」
足がすくむ。息が上がる。
再び体勢を整え、その鋭い眼光でファナを見下ろしてきた怪鳥に、少年の心はすっかり
これまで、自分より
「っ……!!」
だがそれでも、
おめおめと逃げ帰ることだけは――この戦いに限り、ファナにはできない相談だった。
怪鳥の、虹色の羽毛が生え散らかした頭が急に視界の
それに目を奪われたときには――ファナは、怪鳥の尾によるなぎ払いをモロに受け、乱回転しながら地を吹き飛んでいた。
「あぁ゛ぐッ――――!!」
固い地面に
痛みから剣を取り落とし、くすんだ
己の情けなさに、地を叩き付けるつもりで放った拳も――音一つ漏らさず、ただ
それもまた当然。
彼は、人間が魔族・魔物と戦う際には
傭兵として基本となる能力を持ちあわせていない――彼が
それを承知の上で――それでも彼は、この戦場にだけは参じなければならなかった。
「っ――」
眼前に羽が舞い込む。
地に映る影が濃くなる。
その意味を悟ったファナはなんとか地の上で身を
少年は、まるごとその口に飲み込まれた。
のど
――ボン、と。
怪鳥ののど袋が、球形に
次の瞬間――怪鳥だった魔物は、
「ごほっ……ご、ごほっ……」
千切れ落ちた怪鳥の頭から――ひび割れた球形の
怪鳥の
「はぁ――はぁ、は……っ!?」
鼻をひくつかせ、息も絶え絶えな少年が振り返る。
怪鳥とファナの血の匂いを嗅ぎつけたか――振り返った先には、まさにファナへと飛び
しかし、魔なる一族は――――ファナと目を合わせるなり、得物を振り上げたまま制止した。
『――――――――――』
表情一つ変えず、ただ
ファナは悲痛な表情で硬直していたが――やがてそれを振り切って腰に手を
「――――――……」
「……頼むよ、」
しかし、それでもゴブリン達は彼に襲い
邪悪な、しかし不思議そうな顔で武器を振り上げたまま、不規則に鼻をひくつかせるのみである。
その状況に耐えられず、言葉を
「頼むから、僕を襲ってよ……襲えないなら帰れよ……っ!」
――――目を
「せめて
彼の額から「
「!!!」
剣と認識するのに数秒を要した程の輝きを放つ
ファナがそれを辛うじて宝剣と認められたのは、前のめりに
あふれんばかりにみなぎった剣の魔力が、死んだゴブリンの額からあふれ出る血液を
ファナと
「我が聖剣――『シュヴァリエ』の属性は『光』。貴様等の闇に根差した殺意など、
最後の、小柄な中でも一番体格のいいゴブリンが倒れる。
その先に現れたのは、白い鎧に
騎士の
「――――ぁ、」
少年は一瞬、そこが戦場であることさえ忘れてその聖なる姿に
間違いなく、彼に差して見える
それは彼が、真に
教会騎士エクター。
少年が、自分もかくありたいと願ってやまない
「まだ動けるのか、少年」
近付く耳を通り抜ける言葉に、少年は何とかうなずいてみせる。
「ありがとうございます」と、少年はただ一言をなんとか
「なら逃げろ。ゴブリンさえ殺せない者などこの戦場には必要ない。早々に立ち去れ」
己から急速に離れていく光に、突然の無力感を覚えて立ち尽くした。
「…………」
蒸発するような音と共に、眼前のゴブリンの
光の魔力で
光属性の対極に位置する「闇」属性に根差す魔族が
「………………」
――
自分を見ているように思えた目玉が顔から落ち、やがて消えていくのを、ファナは爪が突き刺さりそうな
「……殺せない。やっぱり僕に、ゴブリンは………!!!」
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