実に面白い。
まず外伝以外はほとんど主人公の一人称なのだが、それに徹底した描写ができている。
例えば、召喚を企てた王国の名前はまだない。そんなもんは書籍化する時に考えればいいと、潔く余計な描写がない。それでいて読んでも気にならない、つまりしっかり没入できるのだから尋常ではない。
ドラゴンを倒したい王国、元世界に帰るか異世界で自立したい被召喚者、それをゲスでストイックという独特な第三者視点で傍観する主人公。
外界描写が限定的なこともあり、安部公房の「箱男」を思い出し、リスペクトしているならば筆者の腕にも納得がいく。
そしてその主人公は、やっていることがゲスで英雄譚から外れるからモブと言っているのだろうが、しかし悪党であっても無法ではない。
悪事であろうと行為にはきっちり筋を通し、助ける相手にも善行だの徳目だのといった余計な観念もない。
こういう作品にとやかく言う方もおられるが、似たようなゲスでモブな小生としては面白いと言わせていただこう。作者の益々の活達を願う。
簡単に言うと、いわゆるクラス転移で、勇者たちを召喚した異世界、王族に道徳観念がなきに等しい場合。
その無情で凄惨で残酷な世界でそれぞれはどうするのか。
個人によって違う選択をし、それぞれの境遇で足掻くというお話。
現代日本では、不当なことをされても不当にしかえすと犯罪となりますね。反撃で許されるのは証拠を集めて正当な方法で処罰を求めることくらい。
それが正しいし、どうしてそうしないといけないのか、言われなくたって分かってますよ、でも一思いにぶん殴れたらどんなにいいかって思うときあるでしょ。
その枷を取っ払った時、人はどうなるのか。
全員が違って、どうしてそれを選んだのか、それぞれの性格や思考も丁寧な描写による根拠が有ってとても興味深いです。
主人公はオタク知識があったお陰で初めから警戒しており、開幕からまんまと姿を隠し、スキルを伸ばしていきます。
身を隠しながら着々と自分を優位に持って行き、いつの間にか影に潜む恐怖のような圧倒的な存在になるスタイルは見どころ。
そうして誰も手を出せない存在になりながらも、自分なりの判断基準でシビアに冷静に行動するところもよいですね。
個人的にはこの主人公は大好きです。
容赦なくざっくりいく爽快感も見どころですが、主人公が得た能力をどう伸ばし、どう使っていくのか、その思考、選択や判断も興味深くてオススメですよ。