授業中、校庭に犬が乱入してきて騒然となる教室のお話。
キャッチコピーに偽りなし、まさに神話という趣の作品でした。感想を言語化するのが非常に難しいお話で、何を言おうとしても「すごかった」になってしまうのが困ります。あらすじをうまく紹介できないというか、好きなところに触れるために作品の中身について語ろうとすると、まったくどうしていいか分からなくなるような感覚。お話の筋そのものがかなり前衛的というか、そのまま受け止めると相当に混沌としていて、要約ではただの意味不明な文章になってしまうんですよね。面白いのはわかるんですけど、でも「どこが」「どう」を説明するのがもう恐ろしく難しい。
とりあえずわかることとして、文章がとても最高でした。偉そうになっちゃうのであんまり言わないんですけど、それでも「上手い」と言いたくなってしまう文章。勢いというかドライブ感というか、なんだか読んでいるだけで気持ち良くなるような書きっぷりの良さがあって、それが内容のかっ飛び具合とも合わさり(というかこの内容だからこその文章だと思う)、とにかく読んでいて楽しいという実感がありました。
特に、というか個人的なツボとしては、中盤の山場であるシームレスに神話化していくところが大好きです。世界の外枠を規定するべきタガのようなもの、この場合はおそらく視点保持者の自我が、でも急にしゅわしゅわ溶けちゃう感じ。その上でまったく衰えない主張の火力、食い込んでくる牙の力が緩まないところ。もちろん言い回しの妙や読みやすさもあるのですけれど、とにかく不思議な心地よさがありました。
そしてもちろん、そこに決して負けていないのが物語で、特に中盤を抜けて終盤に入ってからの展開(神話を見せてからの現実的な危機)なんかはもう本当に大好きなのですけれど、でも本当に説明できません。きっと支離滅裂と言ってもおかしくないくらいのはちゃめちゃっぷりなのに、どうしてこんなに筋の通った物語を感じるのか? 危機が本当に危機していて、そこからの解決が本当に強いんです。「訪れた危機の解消」自体が解決であるのは当然なのですけれど、でも同時にそれを成したのが彼であることそのものが、彼の存在をはっきり確実なものへと変化させている、というような。
ここまでどこか現実味のなかったティコ太郎という存在、それが初めて実体を伴ったのがこの話の終幕であり、つまり物語的な状況を解決するのみでなく、彼そのものをも救済してしまっているところがこう、なんですか、本当に〝こう〟なるから困るんです。最初に言った通り、頑張って説明しようとすればするほど、異常な文章が出来上がってしまう……一体どう伝えたらいいんでしょう……。
いやもう、本当に面白かったです。地味にタイトルも好きです。ほんのり感動映画風。そして全然間違いではないところ。でもそこが主人公みたいな扱いだけどいいのかしら、という、細かいツボを突いてくれる作品でした。好きです。