第19話.裏社会への扉

前回のあらすじ

遺跡の中で出会ったのはカイトの師匠。師匠は不思議な生い立ちを持っていて、今は過去を探るために遺跡の研究をしているんだそう。会話の中で彼が漏らした'始祖の墓'。そこは地図にも乗っていない未知の場所だった。




 山のふもとに建てた拠点で、3人はひとつの地図を覗いていた。


「リクウ帝国は縦に長い帝国で、地中海から流れるジャーニ川で南部と北部に分かれている。シショーの言っていた最北部にはリクウ帝国の帝都マーゲンがある。おそらく師匠の言った'始祖の墓'はそのさらに北にあるのだろう。」


「そもそも始祖の墓って何なのかしら?」


「多分、訳三百年前にリクウ帝国を作った初代皇帝、ナップの墓か何かじゃないか?始祖の墓なんて呼び方は少し気持ち悪いが。」


「未知の場所を目指す!ワクワクするね。」


「でも、そこができたのが三百年前だとしても、英雄にも災厄にも関係ないんじゃないかしら。」


「まあそうかもしれないが、地図にも乗ってない場所じゃないと英雄の情報を知るのはできないんじゃないか?何より、ペニーも言う通り、楽しそうだ。」




翌日、カイトたち一行はサルカン領の町、ラゴの町についた。


「リクウ帝国は領の境界に関所があってかなり金がとられると聞いた。」


「じゃあまたヨシノちゃんの出番?」


「いや、この国は実力主義ってのもあって自分勝手に暴れる奴が多い。町の掲示板に賞金首が多く張られている。それを捕まえるってのもいいんじゃないか。ヨシノとペニーがいればすぐに見つけられるだろ。」


「そうだね。あ、掲示板ってあれ?」


町の中心の広場にのど真ん中に、大きな掲示板があった。


「でも指名手配は張られてないわね。店の宣伝ばっかだわ。」


「裏側にあるんじゃないか?」


彼らは掲示板の裏に回り込んだ。長く捕まっていないであろう古びた賞金首の張り紙がずらりと並んでいた。その中に新しい紙が二枚。


|身元不明の旅人、兵士を傷つけ、立ち入り禁止の遺跡を荒らした罪。|

|            生け捕りのみ             |

|命令元 サルカン領主 報酬 未定               | 


「これお前じゃないか。」「これあなたじゃないのよ。」


カイトとヨシノの完璧な似顔絵が張られていた。


「最悪だ。師匠がふざけやがった。しかもかなり権力を活用してる。」


ヨシノは周りの家が騒がしくなっているのを聞き取った。


「このあたり、そろそろ起床時間みたいよ。身を隠しましょう。」




カイトたち3人は路地裏に身を隠し、せっせと防寒具を改造し、身を隠す衣に仕立て上げていた。


「それもシショーから教わったの?」


「ああ、そうだよ。無理やりだけどな。いきなり"俺の服を直せ"なんて言われて。いつもは自分の魔法で直すくせにな。…ああできたよ。」


「でも三人ともこんなの着てたら怪しさ満点にならないかしら。」


「しょうがねえだろ。はあ、ここでも俺たちは犯罪者扱いか。関所も使えなくなったし。最悪だ。」


「別に関所なんか最初から使わなくていいんじゃないの?野道を行けばいいだけでしょ。」


「ペニーは知らないだろうが、リクウ帝国の領主たちは常に領主同士で争っている。領境の警備も厚いし、それを破ったとなると、かなりの指名手配犯になって面倒くさい。それにリクウ帝国の魔物はかなり手ごわいことで有名だ。」


「じゃあどうするの?カイトくん。」


「こうなったら俺達も賞金首側の世界に入るしかない。そっちのほうがいろいろ手口を知ってるはずだ。もう一度、あの掲示板を見に行こう。」




 広場には多くの人が集まっていた。特に新しい賞金首の顔を見ようと掲示板に人が押し寄せていた。一般人も多く居たが中には賞金稼ぎらしき屈強な奴らや、杖など物騒な得物を持つ奴もいた。そんな人間たちの間に入ったのだから衣で全身を隠している三人もあまり怪しまれることはなかった。


|身元不明の旅人、兵士を傷つけ、立ち入り禁止の遺跡を荒らした罪。|

|            生け捕りのみ             |

|命令元 サルカン領主 報酬 未定               | 


「報酬は決まってないのか。情報も少ないしこいつらは見送るか。」


そんな声がどこかから聞こえてきてカイトは少し安心した。カイトは手帳に犯罪集団の頭を中心に出撃情報を書き込んだ。そして三人は広場の長椅子で地図と手帳を見比べて接触しやすそうなやつらを探した。


「こいのディクソンってやつはどうだ?近くのチルタの森にいるみたいだが。しかもほかの領地にも手を伸ばしてる集団の幹部らしい。」


「いいかもね。」


「君たち見ない顔だけど賞金狩りに来たのかい?」


とんがり帽子をかぶった、いかにも魔法使いという男が彼らの前に立っていた。


「失礼、ボクはナディ。隣、座っていいかい?ああ、君たちに何か事情があるのはわかっている。その辺は訊きはしないさ。」


「何か話したいことがあるなら場所を変えさせてくれ。」


カイトは地図を見たまま返事をした。


「それじゃあボクの家に来ないか?心配しないで、変なことはしないさ。」


「大丈夫なの?」


「…ナディ、お前も賞金首だろ。しかも本当の名前はちょうど話していたこれだろ。」


「おっと、バレてるなら話が早い。ついてきてくれるね?」




 カイトたちはチルタの森のナディ、もといディクソンの隠れ家に案内された。彼の部下が頭を下げて彼を迎えている。カイトたちは客間らしき場所に招かれ、彼の部下が茶を淹れた。


「飲めよ。クスリなんかは入っていない。何ならボクが先に飲もうか?」


「…いや、いいよ。」


カイトは茶を一気に飲んだ。


「それで何の話だ?」


「ボクはね目がいいんだ。隠しているつもりだろうがバレバレだよ。キミたち二人が賞金首にされて困っている。それを助けてあげようって話だ。」


「そうか、じゃあそっちの要求は?」


カイトがディクソンと話を進めているのをよそに、ペニーとヨシノがしゃべっていた。


「カイトくんってホント頼りになるよね。」


「カイトは私たちなんかより経験豊富だからね。私も結構旅してきたと思うけどこういう悪党と会った経験はないわね。」


「…お前らマジでバカだな。名前を言うなよ…」


「あっそうか!」「おっとそうね。」


「ハハハ、キミはかなり面白い仲間を持ってるね。カイト君だね。覚えておくよ。」


「早く要求を言えよ。」


カイトはキレ気味に話を進めた。


「キミ達には運び屋をしてほしいんだ。まあ、そんなにたいそうなものを運んでほしいわけじゃない。これを、ボクたちの団長に渡してほしいだけだ。」


ディクソンは一つの黒い箱を取り出した。それは魔力とも違う、不思議な力を発していた。その場にいる全員がその箱に吸い込まれるような感覚を覚えた。


「その箱…いったい何が入ってるんだ。」


「ああ、やっぱり感じるよね。この中にあるのは宝石さ。別に大きな魔力を持っているわけじゃないけどね。」


「はあ?じゃあこの感覚はなんだ?」


「美しさだよ。これはボクたちお抱えの職人に、最高に大きなダイアモンドを加工してもらったんだ。この美しさは心の弱い奴が直接見たら理性が抑えられなくなるくらいさ。あまり見ないほうがいいかもね。」


「そんな貴重なものを、俺たちに任せてもいいのか?」


「この宝石はさ、持ってるだけで周りの魔物を引き付ける。それほどの美しさがあるってことさ。ボクが運んでもいいけど、ボクは魔物との戦闘はちょっと苦手でね。だから旅人のキミたちに任せたいんだ。まあキミたち二人の顔は覚えたし、一人の名前を握っている。キミたちが宝石をくすねても、約束を破っても、一応ボクたちは帝国中にいる。まあ後は言わなくてもわかるよね。それにキミたちは約束を破るような人じゃないでしょ?」


「…わかったよ。ただ俺たちは帝国の最南端まで行きたいんだ。そこまで関所をすり抜ける手引きをしてくれるな?」


「そのぐらいお安い御用さ。ボクが一筆、紹介状を書いておこう」


ディクソンは部下から紙と万年筆を受け取り、スラスラ筆を動かした。


「ほら、これを持っていけばボクたち'蛇の手'の一員なら協力してくれるはず。」


|団長のもとに、この宝石の入った黒い箱を運ぶ。その道を案内しろ|

|任務完了後、リクウ帝国最南端、皇帝領まで関所を超える手引きをしろ  ディクソン|


「完了したら団長から任務完了の署名をもらえ。こっちから約束を破るなんてことしないからさ。」


「その団長はいったいどこにいるんだ?」


「それは教えられない。ただ次に進むべき場所は教えられる。領界付近の支部に向かってそこからヤビ領へと行くんだ。その支部で次に向かう隠れ家の位置を教えて貰え。地図はあるか?支部の位置を書き込もう。」


「ああ、頼む。」


ディクソンはカイトの地図にバツ印を小さく書いた。地図と一緒に彼は箱を渡した。カイトは二つとも腰の鞄にしまった。ペニーもヨシノもその箱にある種の魅力を感じた。


「道案内はもういらないかい?部下にさせることもできるけど。」


「こちとら生粋の旅人だ。案内なんかいらない。」





 カイトたちはチルタの森の外までディクソンとその部下に見送られた。そこに宝石の魅力に引き寄せられたのか、魔物が集まってきた。


「なにあれ、気持ち悪いわ。」


ヨシノがそれを見てすぐ口に出したように、この魔物はかなり気味が悪い見た目をしている。名前はティム。魔力の塊であるバブルの一種だが、特徴的なのは筋肉質に見えるその両腕だ。本来腕などないこの種族にあまりにも人間的な腕が二本生えている。そして顔は^v^こう。あまりにも^v^。魔物の表情に意味などないが、笑っているようで不気味だ。ただその戦闘力は本物で、訓練された兵士が束になってもかなわない程だ。


「2匹いるね。ボクも手伝うから、ここで実力を見せてくれ。」


 2匹のうち、少し小さいほうのティムが突然カイトに跳びかかった。が、その魔物は空中でピタリと停止した。ディクソンが少し苦しそうな顔をして、魔物に向かって手を構えていた。魔物から漏れる魔力の色からして闇の魔法だ。魔物は手をばたつかせてもがく、そこにヨシノが魔物の顔面目掛けて思いっきり音叉を振った。魔物はもう一匹のティムに吹き飛んでぶつかった。それから二匹ともしばらく振動し続け、はじけ飛んだ。


「これで終わりよ。実力はわかったかしら。」


「ばっちり分かったさ。じゃあ、後は頼んだよ。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法の世界の歩き方 サバナ @savana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ