第18話.遺跡の扉を開けると?
前回のあらすじ
これからも共に旅を続ける約束を交わした三人は近くにある遺跡に何か英雄や災厄への手がかりがないかと考え、近くにあるという遺跡に向かう。
一行は遺跡があると地図に示された地にたどり着いた。しかし遺跡は一向に見つからなかった。
「本当にその地図あってるの?」
「まあ地図ってのは大雑把なもんだから。きっと近くにあるはずだ。」
彼らはそれぞれ周辺に何かないか探す。ペニーが獣道の様なものをその目に捉えた。
「ねえ、あそこに道があるよ。」
「あの山に続く道か?よく見つけたな。」
その獣道はかなり荒れていて、道が中途半端に舗装されていた。一行はこのくねった道に沿って山を登り、洞窟を石で無理やり補強したような遺跡を見つけた。
入り口の前には馬車が数台止まっていて兵士が駐留していた。彼らは面倒ごとになるのを避けるため、木陰に身を隠した。
「遺跡はあったけど、もう占有されてるみたいだね。」
「ペニー、お前はとりあえずこれで体中隠せ。お前の姿は見られたら面倒だ。」
カイトはペニーに防寒着だったものを投げ渡した。
「えー暑いから嫌だなあ。」
「そう言うと思って、中から綿を抜いてある。雑だが体を冷やす魔術も刻んでおいた。お前の姿を隠す専用にな。特別だぞ?」
「仕事が早いわね。」
ペニーは袖に深く腕を入れ爪を隠し、頭巾も深くかぶり、はたから見たら普通の人間の様な見た目になった。
「まあこれで大丈夫だな。ちょっと入場交渉してくる。」
「なんだお前は。ここは立ち入り禁止だ。」
「旅の者なんだけどさ、遺跡があるっていうから気になって。ちょっと見学させてくれないかな?」
「いや、ダメだ。サルカン領主の命令だ。誰一人中に入れるなと賜っている。」
「あー、ここってリクウ帝国だよな?一応許可とっとくが、力ずくで通るぞ。」
「やってみろ。」
兵士たちが一斉にカイトに襲い掛かる。カイトは両手を大きく広げて寒波を放出した。その波に触れた兵士の体の表面には硬い氷が張り、兵士たちは襲い掛かる姿勢のまま、銅像のように固まった。
カイトは隠れている二人を手で招いた。
「この人たち大丈夫なの?」
ペニーは氷漬けになった兵士たちの身を心配した。
「まあ体の芯までは凍ってないから大丈夫だ。それより俺の魔法が聞いてるうちに探検を済まそうぜ。」
遺跡の壁、天井、床はすべて入り口と同じ石でできていた。壁には壁画が描かれている。龍の姿のような怪物と、何かの儀式のように物を運ぶ人間といった感じの絵が延々と続いていた。
「この龍は氷河の龍だろうが、それ以上の情報はないみたいだな。」
「そうね。この儀式みたいなのが気になるけど。」
「ねえねえねぇぇ、奥に分かれ道があるよょょょ。しかもこっちなんか綺麗だあぁぁ。」
ペニーが遺跡の奥から大声で叫ぶ。彼女は反響した声でカイトとヨシノを急かすので、二人がペニーのもとに急いだ。分かれ道を右に曲がると今までとは全く違う光景が飛び込んできた。ただの石ではなく、大理石になっている床、壁、天井。きれいに補強されていてその奥で鉄製の傷一つない両開き扉が佇んでいた。
「これ、明らかに継ぎ足されてるよな。扉の向こうには何があるんだ?」
「みんなで一緒に見ようよ。」
ペニーは両手で扉を掴み、思いっきり引いた。しかし何も起こらなかった。
「ペニーちゃん。押戸よ。それ。」
ペニーは一瞬固まった。おそらく今着ている衣の下ではいつものように恥ずかしそう耳と尻尾を立てているだろう。
「えー、それでは気を取り直して。えいっ!」
彼女は扉を開き、勢いそのままに前に倒れた。
二人は倒れたペニーと開いた扉の隙間から白い丸天井と広い空間を見た。そして人が暮らすためだあろうベッドに、机に、果ては台所まで、一通りの家具がそろっていた。あらゆる場所に魔術が書き込まれている。カイトはこの魔術の書き方に見覚えがあった。そして彼の目にベッドで寝ている紫色の髪の人間が映った。カイトは汗をかきながらヨシノの肩に手をあてて囁いた。
「今すぐこの空間の音を全部消せ。」
「どうして?」
「いいから早く。ペニーが余計なことをする前に。」
更にカイトは地面の大理石に手を当てた。転んでいるペニーの手足に向けて魔力を送り込み、氷で枷を作り出して彼女を拘束した。そして彼女の足をつかんで引きずりながら扉の手前に引っ張り出してから扉をゆっくり閉め直した。その後、彼はヨシノに向かって「も・ど・せ」と口を動かした。ヨシノは素直に魔法を解除した。
「どうしたのよ?」
「おい、向こう側の音は消し続けろよ。」
「はいはい。またビビり症が出てるのね。」
ヨシノは呆れながらカイトの言う通りにした。
「カイトくんどうしたの?そんなに汗かいちゃって。病気?」
「俺の勘違いだったらいいんだけど、たぶんあそこで俺の師匠が寝てる。」
「ん?そんなの全然問題ないじゃない。」
「師匠は自分の時間を邪魔されるとブチギレるんだ。見てしまった以上、このまま帰るわけにはいかないが、少し準備をさせてくれ。」
師匠。名前は俺すら知らない。紫色の髪に茶色い肌で体は子供ほどの大きさだが、とてつもない魔力を持っている。自由奔放、というかよくわからない性格をしていて、俺に魔法のことや世界のことを吹き込んだ後、突然どこかに姿を消した。まさかこんなところにいるなんて。しかもリクウ帝国の領主と何か関係を持っているときた。最悪だ。
「ヨシノ、音を戻せ。そんで二人はここで待ってろ。」
この扉も心なしか重い。俺はゆっくりと扉を開け、寝ているベッドに近きながら「人違いであってくれ」と願う。顔は布団で隠れているがこの魔力の感じはやはり師匠だ。クソ。意を決してベッドのふくらみを叩く。顔にかかっている布が下げられ、俺の目と師匠の目が完全に合った。
「あ?誰だお前。」
師匠が魔法を準備し始めた。
「師匠、カイト、カイトだよ。」
必死に呼びかけたが通じなかった。準備しておいた魔力を上着に集め手を顔の前に構え、内臓と頭を守った。渦のように集まった魔力が大きな爆発を起こした。
カイトは爆発で、扉に向かって吹き飛ばされた。ヨシノが反射的に勢いを打ち消す衝撃で彼の速度を落としてから受け止めた。カイトは完全に気絶していた。
「ヨシノちゃん、ちょっとまずいよ。あいつ、こっちに来てる!」
いくらカイトを揺さぶっても彼は起きそうにない。
「ちょっとカイト!起きなさいよ!」
寝癖が付いたままの男はもう部屋の半分に到達していた。ヨシノはダメもとで久しぶりに'最も不快な音'をカイトの頭に直接流し込んだ。彼は大きな悲鳴を上げたが、目を覚ますことはなかった。ペニーが迫る男のほうを振り向いたら、男は顎を触って首をかしげていた。男は二人に近づき、口を開けた。
「なんかその叫び方、聞いたことあるな。キミ、もう一回やってくれ。」
「え?あ、はい。」
カイトはまた遺跡中に響くような悲鳴を上げた。
カイトの師匠は涎を垂らしている彼に魔法で治療を施した。そしてヨシノとペニーが座っているテーブルの椅子に腰かけた。
「これでカイトはそのうちに起きる。」
「それで、あなたは誰なのよ。」
「誰って、こいつの師匠だけど。」
ヨシノはカイトと同じめんどくささを感じた。ヨシノが返答にひるんでいる間にペニーがいち早く思っていることを口にした。
「そうじゃなくて名前を教えてよ。」
「名前?あー、実は俺、名前ないんだよね。だからここでは'名無し'っていうので通ってる。」
「なんで名前ないのよ。」
話を遮ってカイトが起き上がった。
「ああ…死ぬかと思った。」
「すまん、カイト。お前がまさかいるなんてな。」
「いいよ。師匠。それでなんで師匠がここに。」
「ねえ、名前!そのままシショーでいいんじゃない?」
今度はペニーが話を遮った。
「お、それいいね。採用!」
「は?」
「ああ、気にするな。俺の名前がシショーになっただけだ。先に弟子のお前がここにいる理由を言いな!」
彼は突然テーブルを叩き、音を鳴らした。カイトはヨシノに上から「本当に言っていいの?信頼できるの?」といった顔で見つめられた。
「…座っていいか?」
カイトは椅子を引き、そこに座る。そしてテーブルに肘をつき顔の前で両手を組んだ。
「師匠、この遺跡、何のためのものだったと思う?」
「ああ?俺が思うに、ここは昔のデカい魔物がいた時の避難所かなんかの名残だな。奥の部屋では何やら変な祭壇が使われた形跡もある。」
「じゃあ、師匠はその祭壇の魔法を調べるためにここにいるんだろ。」
「あ!ばれた!」
「俺はそのデカい魔物のことを知っている。そいつが何をして、どうなっているのかも。一番わかりやすい説明は、そうだな。ペニーそれ脱げ。」
「いいよ。」
ペニーの耳に口、毛皮が露わになった。シショーは驚いて椅子ごと倒れた。
「なんだこいつ!?おまえ俺を差し置いて何やって来たんだ!?」
カイトは南獄で体験したことすべてをシショーに話した。もちろん口外するなと添えて。
「はあ?お前マジかよ。で、他の英雄2人を探してる?手がかりはないかって?今研究者やってるけどそんな話聞いたことないな。」
「師匠って研究者だったのか?」
「ああ素性はあんまり…話してなかったか。俺の名前はシショー。さっきペニーちゃんに名付けられた。ただそれまでは名前がなかった。」
「え?名前はみんなあるだろ。」
「それに自分の年もよくわからない。お前と最後にあったのが、…何年前だ?」
「もう十年ぐらい前かな。」
「その時と比べて俺、老けたか?」
「全く変わってないな。」
「俺は意識が生まれてからずっとこの姿だ。俺は自分が何者かがわからない。だから魔法とか研究してみたり、自分探しの旅してみたりで、自分を少しでも知る手掛かりを探しているんだ。」
カイトは少し驚いたが、あの師匠なら十分ありうると納得した。
「あなた一体今何歳なのよ。子供に見えるけど。」
「意識ができてから40年は経ってるな。」
「なんでそんな重要なことをカイトに話してないのよ?師弟関係なんでしょ?」
「いやー、あの時はただ子供を少し育ててみたくなっただけだしな。俺、子育てを経験したかもしれないと思ってさ。でもお前、こんなに立派になったってことは正解だったな。」
カイトは「'あれ'は子育てなんかじゃなかった」と言いたくなったが、話がそれたのを強引に戻そうとした。
「あーもうそういうのいいよ。それでここの研究はどこまで進んだんだ?」
「全然進んでないね。ちょっと前にこの俺の部屋が完成したばかりだ。」
「それじゃあ師匠。俺たちの旅に同行してくれないか?師匠がいてくれると心強い。」
「あーそれは嫌だ。ここの研究を終わらせないと。…頼まれてることだし。まあ陽樹とか英雄とか災厄とかその辺は口外しないから安心しろ。その英雄さんの言ったことなんだし。まあ、お前らが知りたい情報は何も持ってないし、力添えもできない。よし!じゃあこの話は終わり!帰れ!」
彼はまた突然怒鳴った。
「じゃあ師匠。最後に何か怪しいところはないか教えてくれないか?」
「怪しいって?」
「多分、英雄とか災厄とかの情報が残ってそうな遺跡とか、未開拓の場所だよ。研究者が見つけてたらとっくに知られてるはずだろ。」
「あー、じゃあさリクウ帝国の最北端。そこにある'始祖の墓'なんてどうだ?あそこ、かなりやばい場所だからよ。研究者はおろか、まだ誰も立ち入ってないって聞いたぜ。」
カイトは聞いたことのない単語を聞いた。彼は地図で'始祖の墓'なる場所を探す。
「そんなの、地図にも乗ってなくないか?」
「あっ…やっべ、これ言っちゃいけないやつだ!あーお前ら、もう出てけ。俺から'始祖の墓'を聞いたなんて誰にも言うなよ。」
「え、それはどういう?」
「いいからもう行け!」
三人はシショーの風の魔法で遺跡の外に飛ばされた。遺跡の外ではまだきっちりと兵士たちが凍ついていた。
「いたた…」
「じゃあ次の目的はリクウ帝国の最北端でいいのね。」
「ねえ、もう少し話を聞いていったほうがいいんじゃない?」
「ペニー、師匠が気さくな人に見えるかもしれないが、あれ以上絡むとマジで殺される。もうやめとこう。」
「ええ?ホントに?そんな風には見えないけど。」
カイトの妙な早足に二人はついていき、彼らは遺跡から立ち去った。
一方、シショーは一人、部屋でぼやいてた。
「まずい、口が滑りまくりだな…。あいつに知られたら殺されるかも。俺の弟子ってことでだから許されるかな…。」
部屋に入り口を見張らせている兵士が入ってきた。
「'名無し'様、先ほど怪しい人間が入ってきませんでしたか?」
「(そうだなここで久しぶりに試練を与えてみるか)賞金首に出せ。しばらく遺跡の中をうろついて逃げていった。仲間も…(ペニーちゃんはややこしくなるから省いとくか)一人いたな。そいつら顔はこんな感じだった。」
シショーは空中に黒い魔法でカイトとヨシノの似顔絵を描いた。そしてそれを棚から引き寄せた紙に張り付けた。
「こんな顔の二人だ。それと、俺の名前が決まった。これからシショーって呼べ。」
「はあ…わかりました。シショー様」
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