元悪役令嬢捜査官ロベリアと相棒リナリアの事件簿〜高慢令嬢から一転推理大好き捜査官になっていた悪役令嬢のロベリアの相棒に選ばれてしまった聖女でヒロインのリナリアはハーレムルートを捨てて難事件に挑む〜
CASE.35 地獄で受ける苦痛の十六倍もの苦悩を前世で味わった俺達には、天人のような苦しみのない世界を味わう権利があると思いませんか? by.身体臭穢
CASE.35 地獄で受ける苦痛の十六倍もの苦悩を前世で味わった俺達には、天人のような苦しみのない世界を味わう権利があると思いませんか? by.身体臭穢
<Side.ロベリア/一人称限定視点>
その後、山小屋に現れたユウリの協力でわたくし達は魔法学園のラウンジに転移した。
そして現在、ユウリはラウンジの一角でお茶菓子やお茶をパカパカと、馬のように飲み食いしながら、我が家のように寛いでいる。
まあ、それだけの仕事をしたということになるし、「
学園に戻ったラインハルトとリナリアが学園長や学園上層部に掛け合ってくれた結果、わたくしのことをアダマース王国に突き出さないと約束してくれた。
魔法学園は王族派にも反王族派にも所属せず、中立の立場を貫いてきた。わたくしを突き出すことで、王族派側に鞍替えしたと思われるのを恐れたというのもあるだろうけど、二人が一生懸命わたくしの無実を訴えてくれたということがこの決断の大きな後押しになったのは間違いないわね。二人には本当に感謝してもし切れないわ。
と、言っても世間的にはわたくしの立場が改善した訳ではない。
わたくし達が立場を回復させるためには、王国刑事部門の決定の撤回と、王国の平民堕ちの撤回、
ユウリが学園を去ってから、わたくし達も推理小説模倣犯連続殺人事件の真相を確かめるために、黒幕候補筆頭のローレンスの下に直撃する作戦を立て始めた。
リーブラによれば、ローレンスは総監として各地の事件の情報を纏めたり、総監としてやらなければいけない雑務を片付けるために毎日午前六時に出勤しているそう。ちなみに、一般的な捜査官の勤務時間は九時から十七時までの八時間、間に一時間の昼休憩を挟むという実質の七時間出勤が採用されている……流石はブラックじゃない現代人が創設した組織ということかしら? ……まあ、総監は完全にブラックな勤務時間だけど。
他の捜査官や事情を知らない者達と会うことになれば、面倒なことにしか発展しない。となれば、仕掛けるのは午前六時から捜査官が出勤する午前九時までのどこかがベスト……丁度その時間は王都で活動する人も少ない筈だ。
王国刑事部門に赴くメンバーは、わたくし、リナリア、ラインハルト、ザフィーア、ディル君、ナーシサス、ヴァリアン、スピーリア、リーブラの九人。万が一戦闘になった場合に備え、ラインハルトとザフィーアは剣を携帯することが決まった。
ディル君は風魔法、ナーシサスは光魔法、ヴァリアンは火魔法、スピーリアは水魔法の使い手で、捜査官試験を通過した時点で最低限の戦闘力があることは分かっている。
リーブラも土魔法の使い手で魔法を制御することはできるものの、戦闘でどこまで生かせるかは未知数……今回は非戦闘員枠と考えておいた方がいいわね。
こちらのメンバーには光系統の回復役が二人いるし、万が一戦闘が起きた場合もなんとか切り抜けられると思うけど……まあ、王国刑事部門に秘密兵器なんていないし、何も起こらないわよね? 別にフラグを立てた訳じゃないのよ?
◆◇◆◇◆
翌日、午前六時――普段は活気のある王都が静まり返っている中、わたくし達は行動を開始した。
王国刑事部門を目指し、ロッテンマイヤーを含むクヮリヤート家の護衛三人を加えたメンバーで馬車を使わず進む。
万全を期しての行動だけど、そこまでする必要は無かったんじゃないかと思うほど王都は静まり返っていて、人の気配が全くと言っていいほど無かった。
このまま順調に王国刑事部門に辿り着ける……そう思っていたのだけど。
「やはり来ると思っていました。お久しぶりです、ロベリアお嬢様」
薄い蒼髪に氷のような冷たさを内包した碧眼の女性。
その服装はヘッドドレスと黒のワンピースに純白のエプロンというメイド姿から、北斗九星を象った髪飾りに天女を彷彿とさせる羽衣姿に変わっていたけど間違いない、彼女は――。
「……なんで、ここにいるのかしら? デルフィニウムさん」
そこに居たのはわたくしの専属メイドだったデルフィニウムだった。
わたくしが断罪されるその日まで、メイドとして仕えてきた筈の貴女が、何故。
「私はお嬢様のことを過大評価し過ぎていたようですね。いえ、元々その片鱗はありました。お嬢様は自分の興味を持たれた事件の関係者以外に興味を持たない……ラインハルト王太子殿下やリナリアさんの気持ちにも気づかない、身内に対しては本当にその高い洞察力が働かないのではありませんか? 私はお嬢様の性格が一変したことを知った瞬間に、お嬢様が転生者であることを見抜いていたというのに……嘆かわしいことです。十万億土、六道輪廻……あれほどこの世界には伝来していない仏教用語を用いたのに疑うことすらしないとは」
……まあ、確かによくよく考えればおかしいわよね。
今なら分かるわ……貴女もまた転生者だった。そして、転生者であることを隠していたのね。
「デルフィニウム……貴女は何者なの? いえ、前世は何者だったの? と問いかけるべきかしら?」
「私に名前などありません。……俺は、貴女達のように恵まれた生を受けることができませんでしたから。汚れたスラム街に生まれ、不幸せな出生で苦痛に塗れた半生を送った俺に名前なんてものはありませんでした。そうですね、前世の所属していた組織――武装思想家組織「天人五衰」のコードネーム、身体臭穢と呼んで頂いても構いませんし、今まで通りデルフィニウムとお呼びくださっても構いません。名前なんて所詮は記号、通じれば良いのですよ」
天人五衰……また、仏教用語ね。
六道最高位の天界にいる天人が、長寿の末に迎える死の直前に現れる五つの兆しで、衣裳垢膩、頭上華萎、身体臭穢、腋下汗出、不楽本座がある。……そういえば、デルフィニウムが天人五衰の名称も挙げていたわね。
もしかして、この程度のことは推理しろという期待も籠もっていたのかしら?
「デルフィニウムといったか? 何故、私達の邪魔をする?」
「俺はただ雇われているだけです。我々「天人五衰」は「不幸せな出生で苦痛に塗れた半生を送ったのだから、後の人生は天人のように素晴らしい人生を送るべきであり、送れる筈だ」という思想を掲げてきました。地獄で受ける苦痛の十六倍もの苦悩を前世で味わった俺達には、天人のような苦しみのない世界を味わう権利があると思いませんか? 俺はお嬢様からより安定した、稼ぎの良い生活が保証されるならその相手に乗り換えただけのこと。「より良い生活のためなら、たとえ前の雇い主であろうと殺す」というのが我々「天人五衰」のスローガンですから、別にいつも通りのことです」
「お前に忠義はないということか……だが、それならより良い生活の保証をされればそちらに乗り換えるということだな?」
「えぇ、王太子殿下の仰る通りです。ただ、この仕事は貴方よりももっと上からの指示ですので、応じることはできません。所詮は王太子に過ぎない貴方の提案では、俺を引かせることはできませんね」
「…………つまり、雇い主は父上か?」
「クライアントの情報を守るのは、我々の責務ですのでお答えできかねます」
これで確定したわ――デルフィニウムを引き抜いて雇い入れたのはエドワード国王陛下。
恐らく、わたくし達がローレンス総監のところに真相を確かめに行く可能性を考慮してのことだと思うけど、もしかしてエドワード国王陛下はこうなることを読んでいたのかしら? それとも、念のために?
「しかし、武装無しで戦うつもりか? 余程魔法に自信があるようだな」
「いえ、確かに俺は土、風、水、火、闇、神聖魔法の六属性に適性を持ちますし、このうち覚醒段階の存在する土、風、水、火、闇は全て覚醒の段階に到達しています。覚醒の段階にも達していないラインハルト殿下を含め、ここにいる全員で仕掛けてきたとしても十把一絡げに制圧することなど欠伸が出るほど簡単なお仕事です。しかし、それでは面白くない――俺は今回、一切の魔法を使わずにお相手致しましょう」
魔法の覚醒段階? 聞いたことがないわね。リナリアやラインハルトも初耳みたいだし……でも、ハッタリではないと思う。そんなことをする必要はないし。
「魔法の覚醒なんて聞いたことがないわ」
「それでは、冥土の土産に一つレクチャー致しましょう。元メイドだけに……なかなか面白い鉄板ジョークだったのですが、ウケが悪いですね。……この世界には六つの系統の魔力があります。土、風、水、火、闇、光、この辺りは皆様もご存知の筈です。この程度の常識が無いのであれば、魔法学園に再入学することをオススメします。さて、ここから先は覚醒者が俺の知る限りでは片手で数えるくらいしかいないので世間一般には知られていない話になります。それぞれの魔法は高い適性を待つ者が覚醒という段階に到達すると環境変化と性質変化という二つの力を得ます。土属性であれば、環境変化は地割れや地殻変動を起こす力、性質変化は鉱物を生成する力、風属性であれば、環境変化は竜巻やダウンバーストを巻き起こす力、性質変化は音や振動を操る力、水属性であれば、環境変化は豪雨や津波を起こす力、性質変化は毒や酸といった液体の生成や操る力、火属性であれば、環境変化は大地を変化させて火山活動を疑似的に引き起こす力、性質変化は熱を自在に操作する力、闇属性であれば、環境変化は極夜を引き起こして永続させる力、性質変化は重力を自在に操作する力となります。環境変化は大規模な破壊を可能とし、性質変化は既存の属性の枠を超えて他の属性の領分への干渉を可能とする力と考えるのが妥当でしょう。鉱物変化は、核融合反応を行わずに鉱物を錬成する錬金術で、火魔法に分類されてもおかしくはない核融合反応の分野に抵触しますし、振動を操る力は土魔法の領分である地震を震動を用いて擬似的に引き起こすことができます。水魔法の液体生成は元素生成という意味では土真帆絵の性質変化と同じく核融合反応の分野に抵触しますし、火魔法の熱への干渉は火の領域を逸脱し、吸熱反応による氷の生成を可能とします。この氷の生成は水魔法の領分です。闇魔法に関しては他の属性への干渉はありませんが、重量を操作しブラックホールの生成すら可能とする力は強大です。極夜も破壊力こそありませんが、日光を遮り、作物を殺す力は厄介極まりないと言えるでしょう。と、まあこのように俺が
街路樹として植えられていた木の枝を適当にポキッと折って見せた。
長さこそ刀と変わらないものの、太い枝を選んだ訳でもなく簡単に剣で切れてしまいそうな少し細め。
正直、「鳴刀・鏡湖」なら簡単に両断できそうだけど……。
「さて、こちらの準備は整いました。ここまでしてあげたのですから、対等な勝負を頼みたいものです」
木の棒を適当に構えたデルフィニウムが、不敵に笑った。
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