元悪役令嬢捜査官ロベリアと相棒リナリアの事件簿〜高慢令嬢から一転推理大好き捜査官になっていた悪役令嬢のロベリアの相棒に選ばれてしまった聖女でヒロインのリナリアはハーレムルートを捨てて難事件に挑む〜
CASE.33 世間がどうかじゃない、世間の評価なんて気にする必要はない。結局、本人たちが幸せなら、それが一番なんだから。 by.リナリア
CASE.33 世間がどうかじゃない、世間の評価なんて気にする必要はない。結局、本人たちが幸せなら、それが一番なんだから。 by.リナリア
<Side.リナリア/一人称限定視点>
「あら、珍しいわね? こんなところにお客さんなんて……」
扉を開けたロベリアはあたし達の姿を見て驚き顔で固まった。
……流石にあたし達が来ることは予想できなかったみたいね。
「推理するまでもないわね……。ユウリさん、全く何を考えているのかしら? こんなところに二人を連れてくるなんて。ささ、上がって。部屋の中は暖かいわよ」
ロベリアはあたし達を部屋の中に招き入れた。
辺境の山小屋としては潤沢過ぎるほど物が揃っている。暖炉代わりの魔道具が丁度良いくらいの温度で部屋を温めていて中は快適ね。
来客用と思われるカップや食器、併設されている寝室には三つほどベッドが用意されている……一応来客も想定されているのかしら? こんなところに客なんて来るとは思えないけど。……地球と違って山が観光地化されている訳じゃないんだし。
ロベリアは、白のブラウスに桃色のフレアスカートという冒険者ギルドに居た頃と全く同じ服装だった。これで冒険者やっているって聞いた時は本当にやる気あるのと内心思っていたけど、山でもこの格好なのね……厳しい環境に普段着って本当に大丈夫なのかしら? 迷宮ならともかく山は涼しかったり、もっと上に行くと寒かったりするからこんな薄着じゃ耐えきれないと思うのだけど。
ロベリアは紅茶と手作りのお菓子を出してくれた。既に一服を終えているからなのか、ロベリアの分は無い。
あたしがお茶の用意くらいするって言ったんだけど、「お客様にそんなことはさせられないわ」と止められてしまった。……本当に申し訳ないわ。
「それで、お二人はどんなご用事かしら? わたくしは貴族でもなければ捜査官でも無い、ついでに冒険者資格も剥奪されたただの山小屋に棲む隠居の身よ」
「月村さん。あたし達は月村さんを連れ戻しに来ました。あたしにとって、月村さんは大切な人です! あたしは月村さんに相棒に選んでもらえたこと、とても嬉しく思っています。あたしは大好きな月村さんともっと沢山の時間を解きたい! もっと沢山の時間を共有したい! 一緒にいたい! お願いです、戻ってきてください!」
「……お気持ちはとても嬉しいわ。わたくしみたいな人にそんなことを言ってくれるなんて。沢山振り回したし、肝心なところで置いて行ったりもした……それは日畑さんの身に危険がないようにと思ってのことではあったのだけど。身勝手なことを沢山してきたから愛想を尽かされて当然だと思っていたのだけど。……私だって、もっと日畑さんと一緒に事件を解きたいわよ。魔法学園で出会った友達とも一緒に居たかった……でも、そんなこと許されないわ」
「推理小説の模倣事件のことを気にしているのですか? あれは、王国刑事部門が月村さんを邪魔だと思って仕掛けたものです。月村さんが気にすることではありません! 悪いのは王国刑事部門です」
「えぇ、それくらいは知っているわ。私を疎ましく思った王国刑事部門が模倣事件を引き起こさせたことも、その黒幕がローレンス総監であることも、リーブラさんが私のことを探るためにローレンス総監から派遣されたことも全部」
やっぱり、月村さんは全部知っていたんだ。全てを知った上でその理不尽を甘んじで受けた。
「何故だ! だったらロベリア、お前は自分は間違っていないと、罪などないと、そう反論すれば良かったではないか!!」
「……いえ、確かに王国刑事部門による陰謀があったかもしれません。ですが、仮に王国刑事部門が動かなくても模倣事件が行われていた可能性も否定できませんし、私の推理小説が事件の切っ掛けになると予想できなかったのは大きな落ち度です。裁かれる理由は十分にあります」
ロベリアが仮に推理小説を書かなくても、別の方法で事件は起きていたと思う。
でも、ロベリアは自分の書いた『完全犯罪』が事件に用いられる可能性を予測できなかった……そのことを悔いている。
ロベリアが断罪に意義を唱えなかったのは、ロベリアがその罪を自覚していたから、裁かれて当然だと思っていたから。
……本当にロベリアは真っ直ぐよね。どこまでも自分の行いを見つめていたのはロベリアだというのに、そんなロベリアを嵌めた黒幕はのうのうと総監の椅子に座っている。
「月村さんって本当に阿呆よね。……確かに、月村さんの本は事件の切っ掛けにもロベリアさん自身を蔑めることにも使われた。それを予測できなかった貴女にも落ち度はあるわ」
……正直、あたしはロベリアが悪いとは微塵も思っていない。落ち度だってあったとは思わない。自分の行いがどう転ぶかなんて、そんなの全て予測できる訳がないもの。
ロベリアはただ大好きな推理小説をこの世界に産み落とそうとした、ただそれだけ。
でも、ロベリアがそれを罪だと思っているのなら無理にあたしの意見を押し通す必要はないと思う。
「でも、このままで本当に良いと本気で思っているの? 貴女の書いた推理小説を利用して、事件を引き起こさせた黒幕は今も健在だわ。何一つ不利益を被らず、総監の椅子に座っている。……貴女は、それを許せるとでもいうの!?」
ロベリアの目が見開かれた気がした……でも、その目の輝きもすぐに消えてしまう。
「私はもう捜査官ではないわ。誰かの罪を告発して、裁く権利なんてない。……日畑さんの気持ちは嬉しいけど、もう無理なのよ。どの道、『魔女』認定された私がアダマース王国に戻ることはできないし。……推理の病魔に取り憑かれた私は結局、その物語で誰かを殺しても推理を捨てられなかった。自分で自分が情けないけど、私はこういう人間なんだから、もう仕方がないわよね。……全く別の新しい場所でやり直す。安心して、自分で自分の命を絶ったりはしないわ。折角拾ったら命だもの……だから、お願いよ! 私のことはもう忘れて!!」
「ふざけるな! 全くお前は、いつもいつも……高い推理力と観察力を持ち合わせているのに、周りのことは全く見えていない。この私がお前の愛していることにも全くと言っていいほど気づいていないだろう?」
「…………はっ? 日畑さん、どういうことです? 悪役令嬢のわたくしがラインハルト殿下に好かれる訳がないですよね?」
「……月村さん、その無いと思っていた可能性が正しかったそうよ。まあ、心を入れ替えた悪役令嬢を攻略対象が好きになるっていうのは定番なんだけど」
「……ちょっと待ってください。わたくしは婚約解消の話をエドワード陛下に持ち掛けてから極力ラインハルト王太子殿下とか変わらないようにしていましたわ。婚約者を避ける人を好きになる人がどこにいるのですか? 理解不能ですわ」
「私は最初、我が儘放題のロベリアに辟易していた。傍若無人な悪魔のような女に振り回される人生を送ることになると思うとゾッとしたほどだ。決まってしまった婚約を取り消すことはできない、だから貴族の婚約者をあてがおうという作戦から身を守る防波堤に利用しようというくらいにしか思っていなかった。……だが、お前が婚約解消を父上に願い出たあの日、真っ直ぐ向けられたその瞳が、これまで見たどの宝石よりも輝いていて、美しいと思った。これが人間の信念なんだと、正しい在り方なのだと、一目見た瞬間に私は理解した。あの宝石を、私は手にしたいと本気で思った……だが、それは私と婚約を解消しようと願ったお前の瞳に宿っていた輝きだ。ようやく私の心を満たしてくれる、つまらない灰色の世界に彩を与えてくれる存在に出会えたというのに、お前は私の元を去ろうとしている……私はお前のことずっと愛していた。婚約が解除された今でも、だ。私はその気持ちを伝えるためにここに来た」
「はぁ……そう言われても婚約は解消されていますし、今更どうしようもありませんよね? それに、ラインハルト殿下に熱烈にラブコールをされましても、わたくしは正直ラインハルト殿下をお友達として見られませんので……いきなり好きだと言われましても困ってしまいます。確かに、記憶を思い出す前のロベリアは殿下のことが好きだったのでしょうが、転生の際によりインパクトの強かったわたくしの感覚が上書きされてしまったようなので……そもそも、前世でも恋をしたことなんてありませんでしたし、どうすればいいか正直よく分からないのです。……申し訳ございません」
あっ……思いっきり玉砕したわね。ご愁傷様、ラインハルト。
「私のこの気持ちはどうすればいいと言うのだ。このままロベリアのことを諦めるなど、絶対に不可能だ。……私のこの気持ちは私でも制御することはできない……私の気持ちに応えてくれないのなら、このまま遠くに行ってしまうのなら、このままロベリア、貴女を監禁してしまいそうだ」
「……私の前世では監禁の法定刑は三月以上七年以下の懲役ですわ。……お気持ちは分かりましたから、罪を犯すことだけはおやめください」
「……ふふっ、あははははは!!」
思わずあたしは腹を抱えて笑ってしまった。ロベリアとラインハルトがギョッとした顔でこっちを見ている。
「どうしたリナリア、気でも触れたか?」
「い、いえ……すみません。ラインハルト殿下が監禁してしまいたいほどロベリアさんのことが好きと言ったら、月村さんは前世の監禁の法定刑を持ち出して咎めるんじゃないかと思っていたのですが、予想通り過ぎて笑ってしまいました。……月村さん、ラインハルト殿下は本気です。流石に月村さんを監禁するともれなく殿下の首が飛ぶので、流石にそのようなことにはなりませんが、この方の独占欲は半端ないですから逃げれば逃げるほど不利になりますわよ。まあ、月村さんならラインハルト殿下の腹黒い作戦の悉くを涼しい顔で突破してしまいそうですが」
「日畑さんはそれでいいの? ラインハルト殿下のことを好きだったんじゃ?」
「あたしも思い切って前世の話をした時に玉砕覚悟で気持ちを伝えたら、月村さんのことを一番に愛していると宣言した上で、あたしに側妃になって欲しいとお願いされてしまいましたわ。……女心が分かっていないというか、王太子だから我が儘が通用すると思っているのか……確かに、ラインハルト殿下にそう言われたら二番手でも構わないと思ってお受けする令嬢もいるでしょうし、二番手の座からスタートして寵愛を集めて正妃の座を掠め取ってやろうという野心を持ってお受けする強かな令嬢もいるわよね。でも、この心底あたしを馬鹿にしたような申し出をあたしは受けた。平民であるあたしがロベリアさんとこれからもずっと一緒に事件に挑むためには、あたしにも立場が必要だったから」
「なるほど、考えたわね。……でも、王妃になったら事件の捜査をする時間なんて無くなってしまうわよね? 婚約解消の理由は、それなのよ」
「……分かった。王妃になっても捜査官として働けるように私がなんとかしよう! 王妃になった以上、国母の務めを果たすことが求められるだろうが、私の方が無理を言ってお願いをしている身なのにその上国母の務めに雁字搦めにしたとなれば、二人から激しく幻滅されてしまいかねないからな。それに、私の好きなロベリアは捜査官としてのロベリアだ……その輝きが失われてしまっては意味がない」
「まあ、確かにそう考えると正妃になるというのも案外良いかもしれないですわね。学園を卒業してからもリナリアさんと正妃側妃コンビを組んで事件の捜査をすることもできますし! それなら、ラインハルト殿下と再度婚約するメリットもありますわね」
「私との婚約は、リナリアとの対等なコンビ結成だけが目当てか」
「神聖魔法目当ての、悪びれることなく二股かける
「だから、リナリアとの婚約は神聖魔法目当てではないと何度言えば分かるのだ!?」
まあ、そうなんだけどね……ラインハルトの気持ちは分かっているし、あくまで一般論だよ、一般論。
別にハーレムが悪いなんてあたしは思わない。……実際にあたしだって異世界転生したってことを知ったら逆ハーレムを狙っていた訳だし。
重要なのはやっぱり誠実さだと思う。
誰も不幸にしないこと、誰もが愛されていると思うこと。
みんなが幸せになれないのなら、自分が娶った全員を幸せにできないのなら、誠実に一人とお付き合いするべきだと思う。
世間がどうかじゃない、世間の評価なんて気にする必要はない。結局、本人たちが幸せなら、それが一番なんだから。
一番寵愛を受けていないからと嫉妬する……それは至極当然のこと。
一人の果たして平等に愛すことができるのか? そんなことが本当に可能なのか、あたしにも分からない。一ミクロンの愛の差にだって女は嫉妬するものだから……いえ、男だって変わらないかしら? 寧ろ、男の方が変に嫉妬を拗らせそうよね。
まあ、あたし達には関係ない話だけと。だって、そもそもあたし達が争う必要はない訳だし、下手をすれば王太子が蚊帳の外になりかねないのだから。
随分珍しい正妃と側妃が仲良しで、夫が爪弾きという国が誕生するかもしれないわね。
「……それでも、現状は変わりませんわ。私に捜査権がないどころか、『魔女』として追われる立場……この状況から立場を回復するなど、不可能です」
「幸か不幸か、アダマース王国は戦時下で混乱の最中だ。戦いの決着は未だつかず、今後の情勢がどうなるかは分からない。……『魔女』追討もそれどころではなくなっている。今の混乱の最中に王国刑事部門に向かい、総監と対面することは十分に可能だ。……それに、そもそも捜査官の資格剥奪も、平民堕ちも、『魔女』認定も全く正当性の無いもの、そんなお前を貶めようとした奴らが決めたものなど無効だ。……それでもまだ正当性が足りないというのなら、ロベリア、お前を王太子権限で俺だけの捜査官に任命する。……お前が解決するべき事件をお前の手で解決しろ」
「……随分と身勝手な宣言ですわね。王太子権限なんて、そんなもの正当性の欠片も無いものですわよ。……でも、嬉しいですわ。もう逃げるのは止めにします。
これでようやく月村さんが向き合う覚悟を決めてくれた。
良かった……このままお別れになったら、あたし、きっと耐えられなかったと思う。
「……そういえば、リナリア。ロベリアの攻略に協力してくれるという約束だったが、これまでこれという協力をしてくれたことは無かったな。乙女ゲームで培った恋愛テクニックを私に教えてくれ」
「乙女ゲームのテクニックってあんまり実際の恋愛には向かないものですし、そもそもロベリアルート自体が乙女ゲームには存在しないのよね。……まあ、中身が月村さんになっている以上、仮にロベリア攻略法があっても通用しないのだけど。……というか、ロベリアさんも耳塞いで聞かないフリしなくていいのよ!? 目の前で堂々と協力を持ち掛けているこの王太子殿下が阿呆なだけだから」
……この二人、どっちも超の付くほどの恋愛初心者だけど、本当に大丈夫かしら?
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