元悪役令嬢捜査官ロベリアと相棒リナリアの事件簿〜高慢令嬢から一転推理大好き捜査官になっていた悪役令嬢のロベリアの相棒に選ばれてしまった聖女でヒロインのリナリアはハーレムルートを捨てて難事件に挑む〜
CASE.32 ライバルキャラを攻略できる百合ルートがあるってことは……もしかして、この乙女ゲームの世界では百合が認められているの!? by.リナリア
CASE.32 ライバルキャラを攻略できる百合ルートがあるってことは……もしかして、この乙女ゲームの世界では百合が認められているの!? by.リナリア
<Side.リナリア/一人称限定視点>
「こんちわー。本業は歌って踊れてベタも塗れる商人やけど、副業で悪の組織のリーダーやっとりまっす「
「「
「あー、やめといた方がいいと思うわ。……ヴァリアンさん、今一歩でも動くと死んじゃうわよ?」
ヴァリアンの周囲に張り巡らされた糸のことを指差して教えてあげると、無念の思いを滲ませながら攻撃を諦めた。
ヴァリアン、スピーリア、ディル君、ナーシサス、リーブラの五人は雲上人の大犯罪者に警戒を強め、ザフィーアはこの中で最も守らなければならないラインハルトの方に視線を向けた。
アレキサンドラとアウローラは二人して怯えている。
「……リナリア、どうやら彼女と知り合いのようだな」
「えぇ、「
「まあ、自分は枢機卿以上の高位神官か侯爵以上の貴族、即金で金貨十万枚を用意できる資産家でなければ交渉の余地を与えへんのやけど、転生者は特別やからね。同郷の仲間に贔屓もしたくなりまっせ。ちなみに、貴族も当主限定やから生憎ジブンら対象外やで。残念やったね」
その割には海賊さん達の前に現れたり、自分を安売りしている機会は結構ある気がするけど……。
「相変わらず神出鬼没よね。一体どうして毎回ここぞっていうタイミングで現れるのかしら?」
「助けて! っていう心の声が聞こえたから?」
「……まるでヒーローみたいなセリフを言うのね。まあ、やり方はどうであれ、貴女は貴女なりに世界の秩序を守ろうとしているのだからヒーローに違いはないかもしれないけど……こういうの、アンチヒーローっていうのかしら?」
「お上手やね。褒めても何も出まへんで」
「ところで、ユウリさんって、もしかして月村さんの居場所を知っているんじゃないかしら?」
「なかなか鋭いねんな。今の月村さんの滞在先を用意したのは自分やから……さっきも美味しいアップルパイをご相伴に預かってきましてん」
……この人達、この戦時下に一体何しているのよ!? なんで優雅にお茶しているのよ!! 『魔女』認定されて追われているのに、アップルパイ優雅に焼いてユウリさんとお茶するなんて、本当に月村さんはどんな心境なのよ!?
「とりあえず、月村さんが無事なのが確認できて良かったわ。……ユウリさん、あたしを月村さんのところに連れて行ってくれないかしら?」
「喜んで……と言いたいところやけど、自分は月村さんの友達やからね。友達が望んでおらへんことをするのは気が引けます。そもそも、自分に何のメリットがありまんねん? まあ、リナリアさんがどうしても、っていうなら引き受けてもええやけど」
……本当にこの人何しにきたのかしら? あたし達に力を貸してくれるつもりじゃなかったのなら、もしかして「アップルパイ美味しかったよ!」って飯テロしに来たの!?
「それじゃあ、あたしがお願いすれば引き受けてくれるということなのね?」
「まあ、リナリアさんが月村さんを大切に思うとることはよく知っとりますし、聖女様に恩を売ったらどこぞで役に立つかもしれまへんからね。ただ、交渉については協力はしまへんで」
「それで構わないわ。……お願い、ユウリさん!」
「交渉成立やね」
これで、あたしは月村さんに会いにいくことができた。
勿論、この中にはあたし以外にも月村さんに言いたいことがあるメンバーが沢山いる。
だけど、全員が尽く断られた。転生者でもなければ、侯爵以上の貴族の当主でもない、枢機卿以上の高位神官でもない、自力では即金で金貨十万枚なんて大金を用意できない……ロベリアに会って謝りたいと思っていたリーブラもにべなく断られてしまった。
「ほな、行こか?」
「待て、私のことも連れて行け」
「……王太子だか何だか知りまへんが、今の貴方には何の力もありまへんで? 愚かな選択で国は潰れかけ、王位継承以前に最悪国が滅ぶかもしれまへんで? アダマース王国が無くなれば貴方はただの人。自分が手伝う価値を全く見出せまへんし、連れて行くことはできまへんね」
確かに、王太子という立場は貴族子女と同じ、親が王位や爵位を持っているからこそ、その継承者、或いは家族として尊重されるというだけ。国家が潰れたら、お家が潰れたら、持て囃されることは無くなる。
だから、不確かな立場の貴族子女はお目通りの対象外なんだと思う……そもそも、自分の立場じゃないしね。
「私は必ずこの国を建て直し、次の国王となる。次期国王との繋がりが手に入る……これでどうだ?」
「その国家の屋台骨が三毒の浸食で揺らぎに揺らいでいますけど、まあ、及第点としておきまひょか? ……自分は月村さんの親友やから、彼女を悲しませることは許しまへん。月村さんを自分だけのものにするとか、束縛するとか監禁するとか、夢を奪うとか、そういうことをしたら貴方のその首を飛ばしに行きよるさかいに、心得ておいてくださいね」
胡散臭い笑みを浮かべるユウリのその眼だけは全く笑っていなかった。……これ、冗談じゃなくて本気で王太子暗殺するつもりよね。まあ、実際に神出鬼没なユウリさんなら王太子暗殺でも国王暗殺でも何でもできてしまいそうだけど。
……そういえば、ラインハルトもゲームではドSな腹黒王子だった筈なのに、ここまで腹黒さを全く見せてないわよね。まあ、実際に腹黒で腹芸を仕掛けようにもロベリアは器用に躱してしまうだろうし、酷く歪なサディスティックな情欲を持っていようとあの超鈍感暴走推理ヲタクを閉じ込めてしまうなんてことはできないと思うけど……籠の鳥や深窓の令嬢という表現が一番似合わない人なのよね。例え出世しても現場主義を貫きそうだもの……どこの一課長なのかしら?
もし、彼女の意思を無視して繋ぎ止めようとすれば「監禁は法定刑はなんとか以上なんとか以下の懲役が設けられていますわ」とか真顔で論理的に抗議しかねないし、それ以前にユウリさんとかに殺される。……まあ、あたしもそんなことをラインハルトがしたら本気で幻滅するけどね。
「ほならリナリアさん、月村さんを頑張って落としたってぇやぁ! ヒロインの底力見せる時やで」
「えっ、ちょっと待って!? なんであたしが月村さんに告白するような流れになっているこよ!?」
「えっ、ちゃうの? てっきり、リナリアさんは月村さんのことを好きだと。ええカップリングやと思いまっせ? それに、相思相愛やし」
「あたしは月村さんの相棒であって、だ、断じてそのような感情は、い、抱いていないわよ!」
「本当でっか? 動揺が言葉の節々から感じられまっせ。……まあ、そういうことにしておきまひょか?」
「待て! そもそも、女同士で結婚はできないだろッ! それに、ロベリアは私の婚約者だ!」
「百合に挟まる男が嫌われるってご存知ない? 『男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきやと思うの』ちゅう偉大な言葉もありまっせ? ……しかし、事実婚っちゅう概念が無いなんて、異世界は遅れておりますな」
「……事実婚って比較的新しい概念だし、異世界にある方が不思議だと思うわ」
というか、それって乙女ゲームを崩壊させかねない概念よね。……でも、ライバルキャラを攻略できる百合ルートがある訳だし……えっ、それってつまり? この乙女ゲームでは百合が認められているってこと!?
「ほな、行こか? お二人さん」
そして、今度こそあたしとラインハルトは、ロベリアの滞在するどこかに転移した。
◆◇◆◇◆
「ここは……どこ?」
ユウリの力で転移したあたしとラインハルトが辿り着いたのは、どこかの山だった。
ここがどこか聞こうにもユウリの姿はない。
「……これほどの高さの山となると、エーデルベルクしか思い当たらないな」
エーデンベルク――この世界で最高峰の霊峰で、極めて清い魔力を有することから魔物が近づくことはできないと言われている。
極めて過酷な環境で、独自の進化を果たした生態系が存在し、それらが魔物に代わる脅威として存在しているため、どっちが良いかと問われると微妙なところ……環境が厳しくないだけ魔物の危険があっても地上の方がいいかもしれないわね。
山頂付近には神話に出てくるような
こういった精霊の設定は、世界観を共有した隣国エーデルワイス王国が舞台となる一作前の乙女ゲームのものだった筈だけど、やっぱり異世界化によって二つの乙女ゲームの内容も融合しているのかしら?
エーデルワイス王国は精霊の加護によって栄える国だという。
精霊には様々な属性があるものの、その最上位に位置する始祖精霊は地・水・火・風・空の五柱しか存在しないそう。その一つ下の上位精霊となれば氷の属性の精霊もいるらしいから、エーデンベルクの山頂付近にいるとすれば、この氷属性の上位精霊かしら?
エーデルワイス王国の創世神話は聖霊、或いは星霊と呼ばれる者から零れ落ちた五つの概念が始祖精霊となり、その後様々な精霊を生み出したとされている。その精霊達によって世界が作り出された……と。
まあ、あたしもそっちの乙女ゲームをプレイしたことがあって面白かったからこっちも買って……積みゲーにしてしまっていたから知っていただけで、地図上では隣国同士でもエーデンベルクを挟んだ二国は互いに全くといっていいほど交流がないのよね?
もしかして、前作の乙女ゲームヒロインがエーデンベルクを越えてアダマース王国に来るとかあるのかしら? ……流石に、過酷な地形に加えて難敵が溢れ返っていて、総合的にエベレスト以上に登頂難易度高そうな山越えなんてしないと思うのだけど。
「さて、ラインハルト殿下。ここは寒いですし行きましょうか?」
「確かに……ここは少し寒いな。……あの山小屋にロベリアが」
標高が高いからなのか少し肌寒く感じた。……ここって何気に標高千メートルくらいあるんじゃないかしら?
そんな人が訪れなさそうなところに山小屋が一つポツンと立っている。まあ、ここに月村さんがいるってことよね?
あたしとラインハルトは覚悟を決め、山小屋の戸を叩いた。
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