元悪役令嬢捜査官ロベリアと相棒リナリアの事件簿〜高慢令嬢から一転推理大好き捜査官になっていた悪役令嬢のロベリアの相棒に選ばれてしまった聖女でヒロインのリナリアはハーレムルートを捨てて難事件に挑む〜
CASE.31 月村さんを苦しめた貴族達や聖職者の末路に相応しい最後だとは思いませんか? by.村木護
CASE.31 月村さんを苦しめた貴族達や聖職者の末路に相応しい最後だとは思いませんか? by.村木護
子供の頃、誰もが一度は画面の向こうのヒーロー達に憧れたことがあるのではないだろうか?
例えば戦隊ヒーロー、スーパー戦士、魔法少女や
或いは、悪の組織の幹部や、悪の魔法少女、敵役、宿敵、そういったヒーロー達と戦う者達に憧れを抱く子も少なからず居るかもしれない。
どんな逆境を前にしても挫けない姿、勇ましく戦う姿、周りを支える優しさ――戦いのある世界でも、戦いのない世界でも、その世界の中心で輝く特別な存在に憧れ、そんな彼らのようになりたいと願う。現実を思い知らされた子供達が次々と大人になる中で捨て去ってしまう憧れ。
年の離れたこの兄はとても裕福とは言い難い家に生まれながらも、三大難関と言われる三大帝国大学を一次、二次共に満点で入学し、首席で卒業したという謎の経歴を持ち、天才投資家として巨万の富を築き上げていた。
別名大阪と呼ばれる摂河泉の出身で一度も定職に就いたことはなく、バイトで溜めたお金を元手に株式投資を始めてその資産は数百億を超えるという。
高校生時代にノストラダムスの予言から、大学卒業後に大倭秋津洲帝国連邦に大きな影響力を持つ百合薗グループと協力してマヤの終末論で示された人類滅亡の窮地から、それぞれ人類を救った経験があり、その半生は画面の中のどんなヒーローよりも華々しいものだった。
照夫が悠里と関わりを持った機会は意外なほど少ない。年末年始にも家に帰ることがほとんどなく、思いついたように家に帰って来ては、本当か冗談か区別のつかない話を悠里や家族とするといった程度の繋がりしかなかったが、家族仲が悪かったということはなく、毎月家には少なくない仕送りがなされ、悠里が憧れたものの家の経済的に通うのが不可能だと諦めていたお嬢様学校への進学も兄である照夫が必要な費用を全て出してくれたという。
その小学校で、悠里は掛け替えの無い親友とも出会いを果たした。
小学生になった彼女の中で、その兄への憧れは愛に変わり、ブラコンを拗らせていった。
「私、お兄ちゃんと結婚する♡」と会う度に照夫に言っては、あの完璧超人な兄を本気で困らせるほどだった。
そんな悠里も中学生となり、憧れから始まった照夫の気持ちは更に一変することになる。
百合薗グループが開発に関わったMMORPGで照夫がランキング上位ギルドのギルドマスター、ウンブラとして活躍していることを悠里は知り、同じゲームを始めることにしたのだ。
バイトを掛け持ちして貯めたお金を注ぎ込み、MMORPGの世界に飛び込んだ悠里は、そこでこれまで真面に関わることができなかった
そして知った自由な生き方に隠された裏世界での彼の生き様の片鱗。
次第に影澤照夫は妹としての尊敬する兄から一つの理想へ、目指す到達点へと変わっていった。
病で倒れ、異世界に転生した悠里にとっても兄、影澤照夫が理想であることは変わらない。
影澤照夫の分身、ウンブラを真似た服や帽子、小物を選んだ。この世界に自分ではなく影澤照夫が転生したらどのような選択をするか、ということを第一に考えて行動した。
清濁併せ呑み、胡散臭い風態と口調で飄々と世界を影から救う影澤照夫ならきっとこうすると、悪陣営の暴走を抑えて善と悪の均衡を保つために犯罪組織を纏め上げ、「
『神出鬼没』の称号を得る以前は「
◆◇◆◇◆
アダマース王国、
各地で起こった戦争は反王国派貴族連合、
アダマース王国、
そんな先の見えた戦争が続く中、この四巴の戦争を混乱に導く第五勢力が上空に姿を現す。
「猛スピードで水上と空中を進む魔法の船」へと改造された「ジーベック号mark.Ⅱ」だ。
突然上空に現れた船に、戦場で戦っていた者達の視線が集まる。
「……村木さん、本当にやるんですか?」
質問したアンは心の底から怯えていた。これまで人殺し以外の様々な悪事に手を染めてきたアンだが、これほど恐ろしいことは思い付いたことも実行したこともない。
「えぇ、そのためにこれまで準備してきたのですから。……それとも、まだ未練がありますか?」
全く動じた素振りを見せない村木に、アンは全力で首を横に振る。今の村木には逆らい難い迫力があった。
「さて、始めましょうか。アダマース王国はこれでおしまいです」
村木のその言葉を合図に、海賊達は覚悟を決めて袋の口を一斉に下へと向ける。
袋の中から出てきたのは金貨や銀貨、銅貨……アダマース王国で使われていた貨幣だった。
「……空から、お金の雨が!!」
最早戦いどころではない。空から降り注ぐ大金を手に入れようと武器を捨て、我先にと拾い集めようと、或いは掴もうと手を伸ばす。
だがその瞬間、次々と貨幣が爆発し始めた。小規模な爆発で掴んでいた腕が一本吹き飛ばされる程度の威力だったが、その動揺は戦いをやめた全ての者達に伝播していった。
「隊長! この貨幣は間違いなく本物のアダマース硬貨だと思われます。偽造貨幣ではありません」
「なんだと!?」
爆発しなかった貨幣を鑑定したどちら陣営か分からない騎士の言葉は更なる動揺を巻き起こす。
本物のアダマース硬貨が爆発した。中には爆発しないものもあるが、爆発したものも正真正銘アダマース硬貨であり、なんらかの小細工がされていた形跡はない。
「アダマース硬貨はアダマース王国で鋳造された硬貨だ。他国との貿易にも使われるが、専ら国家内での取引に使われる。この食べられない金属塊が食べ物と交換できるのは、この硬貨にそれだけの価値があると国家が保障し、それを効果を使う一人一人が信用しているからに過ぎない。だが、もし仮に硬貨が爆発するとしたら? 危険なものだとしたら? そんなものを果たして信用できるのか? ……えげつないこと思いつくよな。アダマース王国の経済はこれでおしまいだ」
「アダマース王国の貨幣が本当に危険か、危険じゃないか、そんなことは大して問題にはなりません。少しでも危険じゃないかという不安は伝播し、アダマース硬貨は価値を失うことでしょう。金属を鋳潰するといった方法も爆発する可能性があるなら取ることはできませんし、爆発する可能性のある貨幣は価値のない金属片の山と成り果てます。そんな無価値な金属片を御大層に持っていても意味がないという訳です」
貴族の巨万の富の中には宝飾品や豪華な衣類などもあるが、やはり大多数を占めるのは金である。
その金が力を失えば貴族達は没落を免れないだろう。それに貴族達は自らの力で生産することはできない。村や街で暮らす農家のような生産能力を持つ者達は自分で自分の食い扶持を賄えるだろうが、貴族にはそれが不可能だ。
「月村さんを苦しめた貴族達や聖職者の末路に相応しい最後だとは思いませんか? まあ、先祖代々お金持ちの大富豪の庚大路家はそのような自らの首を締めるような愚策を行うことはないでしょうが、私は失うものは何もありませんから」
直接魔導収束砲をぶっ飛ばすよりも恐ろしい経済破壊作戦を容赦なく行う村木に、ティーチ達は戦慄を禁じ得なかった。
その後、「ジーベック号mark.Ⅱ」は各地を巡り、硬貨の雨を降らせた。
村木が一つ一つ「機械の作成と魔改造」の力で改造したアダマース硬貨爆弾は、アダマース王国全土を恐慌状態に陥らせることになる。
「ところでこんな作戦実行して、リナリアさんとか大丈夫なのか?」
「…………リナリアさんは賢いし、逞しいからきっと恐慌の世界でも大丈夫だと……思いたいですね」
「ノープランかよ!! アン、メアリ! 悪いが魔法学園まで行ってリナリアさん達に説明してきてくれ!」
「「了解!!」」
途中で慌ててアンとメアリを下し、リナリアに事情を説明させるために向かわせるという第三勢力として現れたにしては締まらない海賊さん達であった。
「次にこんな無茶をするときは、もっと考えて行動してくれよ!」
「…………すみません」
これには、村木も謝るしかない。
アンとメアリに希望を託し、「ジーベック号mark.Ⅱ」はアダマース王国に絶望を振りまくために、空上を猛スピードで進んでいく。
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