元悪役令嬢捜査官ロベリアと相棒リナリアの事件簿〜高慢令嬢から一転推理大好き捜査官になっていた悪役令嬢のロベリアの相棒に選ばれてしまった聖女でヒロインのリナリアはハーレムルートを捨てて難事件に挑む〜
CASE.30 悪役令嬢が断罪されてめでたしめでたし、ふざけんじゃないわよ! 悪役令嬢よりもタチの悪い魑魅魍魎が跋扈しているじゃない!! 裁かれるべき人が他にいるでしょう!? by.リナリア
CASE.30 悪役令嬢が断罪されてめでたしめでたし、ふざけんじゃないわよ! 悪役令嬢よりもタチの悪い魑魅魍魎が跋扈しているじゃない!! 裁かれるべき人が他にいるでしょう!? by.リナリア
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無数に存在するオムニバースという矛盾を孕んだ世界――その全ての魂の循環を管理する転生システムが存在する神界に住まう神々ですらその全貌を掴んでいない、あるオムニバースのみに存在するとされている超高次元システムである。
遥か上位の存在が作り上げたシステムか、あるいは人類外の文明の遺産か……巨大で超高度の情報ネットワークシステムであるこの「
様々なバリエーションの世界を創造し、そのデータを集める……その行為の最終目的もまた不明。しかし、そのような神々にも理解できない実験がいつからか始まり、結果として無数のオムニバース内に誕生――メタバースとゼノバースが拡大し、結果としてオムニバースそのものの肥大化に繋がった。
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月村葵、日畑空といった者達が暮らす地球という星もまた、複製元となった地球のある宇宙から複製され、様々な歴史改変が行われた世界であり、例えば日本という国が存在する場所には大倭秋津洲帝国連邦なる数多くの植民地を抱えた巨大国家が存在している。
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例えば、それは世界内部で作られた創作の世界の創造といった実験も幾度となく行われてきている。
例えば、リナリアやロベリア達が転生した世界は大倭秋津洲帝国連邦の存在する世界――つまり、虚像の地球と呼ぶべき世界の乙女ゲーム「リナリア〜平民少女のシンデレラストーリー」を複製し、内容を補填することによって誕生した異世界ということになる。
図式的には複製元の地球を親世界とすると、虚像の地球のある世界が子世界であり、乙女ゲームの世界が孫世界であると言うべきか。
しかし、創作を基にした世界にはある問題が存在した。それは、史実が一つに固定化されていること。決まり切った一本の歴史が存在し、物語の登場人物や背景キャラを基にした世界の住民達もまたその歴史の中で動く人形に過ぎない。
そのままでは、「
そこで「
勿論、これは一つの手段であり、他には世界への影響を与える手段にはその世界の神々にメタ視点を与え、『管理者権限』を与えることで掻き回すといったものもある。
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物語に縛られない転生者というシステムによって、最初にこの世界に転生したのは松蔭寺辰臣という男だった。
大倭秋津洲帝国連邦において、警視庁の立ち位置にある首都警察――その内部で高い地位にあった松蔭寺辰臣だが、彼のことを疎ましく思う何者かによって殺害された。
アダマース王国の隠された史実によれば、彼は何も特殊な能力を持たずに転生した存在となっているが、彼は着の身着のまま――死亡した当時の格好で、傷だけが修復された状態――で当時建国したばかりのアダマース王国への転生を果たした。
死んだままの姿で転生したのだから、異世界転移に近い状況であったと考えることもできるかもしれない。
当然、松蔭寺辰臣は奇妙な人間として扱われ、敵国の間者かと疑われた彼は初代国王の御前に連れて行かれ、そこで事情を説明することを求められた。
◆◇◆◇◆
松蔭寺は国王の求めに応じ、元の世界に関する様々な話をした。特に国王が興味を持ったのは松蔭寺が所属していた警察機関という組織だった。彼がこの話題について特に熱く語ったことが大きく関係しているのは間違いない。
ある時、松蔭寺はアダマース王国に警察機関の設立を進言した。
国王も松蔭寺の意見に特に異論は無かったため、警察機関の設立を認め、王国刑事部門が誕生することになった。異世界に司法と捜査官という概念が持ち込まれた瞬間である。
それ以前も事件に分類されるようなものが起きたこともあったが、それらは国の役人や地方の役人が対処していた。それを専門の機関が一手に引き受けるというのは役人達の負担軽減に繋がるのではないかという国王の考えもあった。
事件に関する下調べには余念がなく、現場においてはどんな些細な証拠も見逃さない鋭い観察眼を持っていた警察官だった彼は、前世でその力を存分に振るって捜査一課長にまで上り詰めた。
その彼の力は異世界でも健在のままで、王国内で起きた様々な難事件を解決に導いた。
例え「水清ければ魚棲まず」と嫌われても常に正しさを追求し、真実を明らかにするのが我々警察の役目であると生前よく口にしていた彼は、その生き方が嫌われやすいものであったこともよく自覚していたのかもしれない。
国王は松蔭寺を相談相手として、様々な意見を求めた。その中には国王や貴族への批判が含まれていたことも少なくはない。
例えば、賄賂が横行し、貴族同士の利害関係を重視するあまり腐敗し、一方で民に対して過度の締め付けを行う国王の治世を批判し、「民があってこその国である」と強く訴えたこともあった。
国王が松蔭寺に殺意を抱いたことも一度や二度では無い。
だが、国王は松蔭寺がこの世界で息を引き取るまで、彼を重用し続けた。松蔭寺には野心がなく、その言葉の全ては彼の中にある「正義」から発せられるものであることを認識していたからである。
自分の政治を正せるのは、松蔭寺の諫言しかないと、国王は信じて疑わなかったのだ。
だが、時代が変わると松蔭寺の正しさを恐れる者が現れた。
貴族社会は繋がりで成り立っている。その中ではどうしても正しさを曲げなければならない時がある。貴族同士の繋がりによって国が成り立っているのだ。……その中で発生した腐敗や正しくない行いを一々処罰していたら国家は崩壊してしまう。
そう考えた歴代の国王達は代々松蔭寺辰臣という存在についての記録を継承しつつ、同時に松蔭寺辰臣に関する一切の記録を抹消、或いは封印した。
こうして、彼の名は忘れ去られ、初代総監のことを探ることは禁忌であると暗黙の了解がなされるようになった。
王国に対して発言権を有する王国刑事部門は大きな利権を持つことから、様々な貴族達が捜査官の地位を狙うようになる。
王国に対しても発言権を有する組織でありながら、貴族達の繋がりに雁字搦めにされる組織。
松蔭寺の「正義」そのものの形であった王国刑事部門は長い時間の中で腐敗し、彼の理想とは掛け離れたモノへと変貌してしまったのだ。
◆◇◆◇◆
<Side.リナリア/一人称限定視点>
「松蔭寺辰臣……初代国王の相談役で王国刑事部門の初代総監か。……父上はその松蔭寺を恐れていたのだな」
「ラインハルト殿下のお話を聞く限りだとそういうことになりそうね。……まあ、それも無理はないと思うわ。誰だって耳の痛い話は聞きたくないもの」
この世に間違えない人間なんていない。誰もが間違える中で学び、成長していく。
時には自分が間違っていることに気づかないことや、自分は間違えていないと頑なに信じてしまうこと、間違っていると分かってもそうせざるを得ないこともある。
人には様々な事情がある。それを知らないで良かれて思って振りかざされる赤の他人の正論にイライラすることは前世でもあった。
甘い言葉に、耳当たりの良い言葉に包まれて生きていたい……あたしだってそう思うし、人間誰しもきっとそう思っているとあたしは思う。叱られるよりも、褒められる方が嬉しいわよね……そういう特殊性癖の方は別として。
「お前に何が分かる!」、「あたしだって言われなくても分かっているわよ!」、そう反論したくなる気持ちは分かるし、耳を塞ぎたくなることだってある。
中には「自分の理想の押し付け」や「正義を行う自分に酔いしれているだけ」、そういったものも残念なことにあるのだけど、その中には「その人のために」と心の底から思って行う諫めや注意も少なからずあるのよ。
誰もが認めて欲しいと思う。そんな人間の承認欲求の対極に位置する諫めは、人を不快な気持ちにさせる。
でも、耳を塞いでいたからって何かが変わる訳じゃない。諫めを受け入れ、自らで考えて行動し、良くしていく――そうして、人は成長していく。
松蔭寺を重用した初代国王は本当に凄い人だと思うし、耳を塞いで聞きたくないことを除外した耳当たりの良い言葉の世界から足を踏み出さない歴代国王は、「嫌だ嫌だ」と駄々を捏ねる駄々っ子のように思えてくる。
「勿論、正しいことだけで、綺麗事だけで政治を動かせるなんて、そんな頭の中お花畑なことは思っていないわ。必要なのはバランス――正しさも、それ以外も、どちらも大切なのよ。道を間違えそうになった時に、それを止めてくれる誰かがいること。……初代国王陛下は、きっと幸せ者だと思う。本当の意味での忠臣に、出会えたのだから」
「……そうだな」
「ただ、問題はここからなのよね。月村さんって、松蔭寺さんと同じタイプだと、ラインハルト殿下は思うかしら? もし、そうなら、わざわざ回りくどいことをしないで、
三者三様の身勝手な理由で、月村さんは全てを喪った。
彼女に非なんてどこにもないのに、ただ推理をしたかっただけなのに、なんで、彼女ばかりが酷い目に遭わないといけないの? 苦しまないといけないの? 彼女が悪役令嬢だから? そんな理不尽が罷り通っていいとでも思っているの!?
「こんなエンディング、あたしは絶対に認めないわ! 悪役令嬢が断罪されてめでたしめでたし、ふざけんじゃないわよ! 悪役令嬢よりもタチの悪い魑魅魍魎が跋扈しているじゃない!! 裁かれるべき人が他にいるでしょう!? 悪役令嬢だから裁かれなければならないとでもいうの!?」
「……日畑さん」
あたしがここで怒ったところで何も変わらない。……そんなことは分かっている。
あたしは、無力なあたしが憎い。何がヒロインよ……肝心な時に何もできないんじゃ、意味がないじゃない。
「月村さんを見つけないと……彼女を引き留めないと……。このままだと、本当に遠くに行ってしまう。――あたしは、もっと沢山ロベリアさんと一緒に事件に挑みたいの! あたしは、ロベリアさんの相棒なんだから!!」
「……だが、ロベリア様の行方は未だ分からないままだ。ロベリア様を連れ戻そうにも、どうしようも」
「アレキサンドラ様、たった一人だけいます。ロベリアさんの居場所を知っていそうな人を。……ユウリさんなら、彼女ならきっと」
「お呼びでっか?」
大きなカバンを背負った、不思議なほど存在感のない黒髪糸目の帽子を被った行商人風の出で立ちの少女。
――ロベリアの親友が、遂に臨時捜査本部に姿を見せた。
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