元悪役令嬢捜査官ロベリアと相棒リナリアの事件簿〜高慢令嬢から一転推理大好き捜査官になっていた悪役令嬢のロベリアの相棒に選ばれてしまった聖女でヒロインのリナリアはハーレムルートを捨てて難事件に挑む〜
CASE.24 武の除夜の力無き今、お前はこの国を蝕む三毒にどう対峙する? by.身体臭穢
CASE.24 武の除夜の力無き今、お前はこの国を蝕む三毒にどう対峙する? by.身体臭穢
「貪瞋痴の三毒を破る智恵の利剣は我が手中にある。東の国に転生した近世の名工、
白魚のような指先が最上大業物十二工の一振り「倶利迦楼羅」に触れる。
「まあ、俺には大して関係のない話だがな。国破れて山河あり……共同幻想はいとも容易く崩壊するものだ。そんなものに執着するなど、実に愚かだ。ましてや、共同幻想と心中するなど、愚の骨頂。仕える人間などいくらでも変えていけばいい。より、素晴らしい生活を手に入れるために……前世で地獄の十六倍以上の苦しみを味わった俺達には、その権利があるのだから」
垢と汗の濃い匂いに塗れ、ボロボロの服でスラムの一角で暮らした生活から一転、シャボンの香りと清潔な暮らしに恵まれた人影は、更なる向上心を胸の内に秘め、扉を開けて一歩を踏み出した。
◆◇◆◇◆
<Side.リナリア/一人称限定視点>
ロベリアが幸せなら、もうそれでいいんじゃないか?
そんなやさぐれた感情を抱きながら、あたしは学園に戻った。
ラインハルトの婚約者の座についた……そのことに対して嫌味を言ってくる貴族令嬢達は居なかった。
でも、「貴女にラインハルト王太子殿下のお相手など、務まる訳がありませんわ」と突っ掛かってきてくれたら、あたしの心は幾許か和らいだかも知れない。
ラインハルト、ヘリオドール、ザフィーア、アレキサンドラ、アクアマリン、スカーレット、アウローラ……攻略対象やライバルキャラ達との繋がりは未だに残っている。昼食を毎日上級貴族専用テラスで共に摂っている……だけど、会話という会話はほとんどなく、お通夜ムードだ。
ロベリアは、新しい世界で自分の幸せを見つけていた。
新たな相棒にも恵まれ、冒険者兼私立探偵として新たな道を進んでいる。
本当に親友なら、新しい人生を歩み始めたロベリアを……いえ、アルシーアを祝福するべきなのでしょうけど。
あの、相棒の場所にあたしが居られたら……そう思うと胸がチクチクと痛む。
願っていた幸せを手に入れたと思っていたのに……いえ、本当に願っていた幸せはそんなものでは無かったのかも知れないわね。
ロベリアと共に笑い合える――陽だまりのような彼女が中心にいて、攻略対象達とライバルキャラ達と、みんなが楽しく過ごす学園生活。
ロベリアに沢山振り回されて……そんな当たり前の日常が、あたしの宝物だったんだ。失って初めて気づくなんて……もっと早く気づいていたら。
ラインハルトもあの日から激しく落ち込んでいる。
ロベリアと再会したあの冒険者ギルドでぶつけたかった感情を、結局ぶつけられなかったからだと思う。
あれほどロベリアのことを愛していたのに、結局ロベリアはそれに気づかないまま、あたしとラインハルトが幸せになることが一番の幸福だと信じて疑わなかった。
……考えれば考えるほど、後悔が浮かび上がってくる。
ラインハルトがロベリアのことが好きなことを、最初から伝えていれば……あの冒険者ギルドで本当のことを伝えていれば……。
ラインハルトに転生者であることを、この世界の秘密を話してしまったことを、あたしはロベリアに隠したかった。
親友だと、相棒だと言ってくれたロベリアとの約束を破り、ラインハルト側に寝返ったことを知られたら幻滅される……その恐怖が常にあたしの中にあった。
ロベリアが幸せなら……その気持ちが最後の防波堤になっていたのは間違いない。
あたし達は、そう思っていたから踏み止まれた。あたし達がロベリアの友達なら、ロベリアの幸せを願わないといけない……そう強く思い込もうとしていたんだと思う。
だけど、その我慢も新たな絶望によって粉々に打ち砕かれた。
いえ、これまでのものが仮初の絶望だと言わんばかりに、真の絶望があたし達に牙を剥いた。
「……
世界はロベリアに唯一残された幸せすらも、奪い取ろうとした。
きっとこれには、ロベリアが療養所の設立に関与していることも大きく影響しているのだと思う。……
アレキサンドラの話はこれで終わらない。既にこれだけであたし達を絶望させるには十分なのに……。
「
「……残念だが、アダマース国王は
アレキサンドラの言葉を補うように、ヘリオドールが鎮痛な面持ちで絶望を突きつける。
アレキサンドラもヘリオドールも、ロベリアのことを友達だと思っていた……そんな彼女の立場を悪くすることをきっと二人も口にしたくはない。
「……サピロス・アステリズム・コランダム様は、ザフィーア様のお父様でいらしたよね? ……サピロス様から何かお聞きになっていますか?」
声が震えているのが自分でよく分かる。それでも、確かめないという選択肢はない。
「父は、例え息子の友人だとしても、国王の命令であるならば従うほかないとロベリアさん追討の意思を固めている。……すまない」
「ザフィーア様が謝ることではありませんわ」
ザフィーアが謝ることじゃない……ザフィーアだって、自分の力ではどうしようもない状況に歯痒い思いをしているのだから。
「……アア〜ッ!! もう、我慢なりませんわ! なんでロベリア様がこんな仕打ちをされなければならないのですか! ロベリア様は夢を叶えようとしただけなのに……捜査官の地位も、貴族の立場も、何もかも奪われてッ! 今度は命まで! ふざけるのも大概にしろ、ですわッ!!」
「……スカーレット」
スカーレットの怒りがついに爆発した。ここまでずっと我慢してきたのよね。……ザフィーアのことを慕って、ザフィーアに相応しくなれるような己を磨いていった努力家で、決して淑女の姿勢を崩さない完璧な令嬢。
そんなスカーレットの仮面が崩壊するのだから、その怒りは相当なもの。
……あたしだって本当は怒りたい。でも、その怒りを誰にぶつければいいというの?
もう、分からないよ……どうすればいいか、あたしには。
「紫蘭推理愛好会の会員達を招集して、会議を開きますわ。そこで、ロベリア様の追討に反対の方々と共に各家の当主に気持ちを伝えます。こんな回りくどいやり方をするしかないことに既に歯痒さを感じていますが、それくらいしかわたくし達にできることはありませんから」
「……アダマース王国はその意見に耳を傾けるとは思えない。最悪、魔女の味方をしたということで社交界から爪弾きに……いや、最悪の場合は一族郎党皆殺しにされるぞ」
「だったら……アダマース王国を滅ぼさなければなりませんわね。ラインハルト王太子殿下には大変申し訳ありませんが、今のわたくしはアダマース王国に不信感しかありませんわ。この国は目障りな者をもっともらしい理由をつけて排除する国……ロベリア様の一件でそれがよく分かりました。明日は我が身です、いつロベリア様のように消されるかも分かりません。前例を作ればどうなるかは、貴族の皆様ならよくお分かりな筈、きっとロベリア様の追討に反対の姿勢を見せる貴族の方々もいる筈です。彼らの背中を後押しして、この国を終わらせる……そんな覚悟はとうの昔にできていますわ」
「スカーレット様、申し訳ございません。……わたくしはきっとお役に立てないと思います。わたくしの家は
「アウローラ様、お気持ちだけで十分ですわ。……それでは、皆様、失礼致します」
カーテシーをしてから、スカーレットはラウンジを去っていった。
彼女に追随するように、オレリア、ベルティーユ、クレール――紫蘭推理愛好会の会員達が次々とラウンジを後にしていく。
「……我が父、ベリルも宰相の辞職することを決めた。この国に不信感を抱いているのはスカーレット様だけではない。父はハーバー伯爵の不正を暴いたロベリア様の手腕を高く評価していたからな。……私からも父に話してみよう。あまり力になれるか分からないがな」
「わたくしもお供しますわ、お兄様。ロベリア様を絶対に殺させたりしません!!」
ヘリオドールとアクアマリンが席を立ち、ラウンジを後にした。
スカーレットが、ヘリオドールが、アクアマリンが、それぞれのできることをやろうとしている……それなのに、あたしは。
あたし、ラインハルト、ザフィーア、アレキサンドラ、アウローラ……五人だけになった席は、いつもより寂しい。
長らく沈黙が続いた……その沈黙を破ったのはザフィーアだった。
「
「正直な話、ロベリアさんが負けるなどとは微塵も思っていませんわ。
聡いロベリアが王都から逃げない、なんてことはない。
素直に討ち取られるような人でもないし、きっと、どこまでも逃げて……あたし達の手の届かないところに行ってしまう。
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