CASE.18 「猛スピードで水上を進む魔法の船」も「スーパーアルティメットグレーテストハイパージーベック号」もネーミングセンスはどっちも大差ないと思うわ。 by.リナリア

<Side.リナリア/一人称限定視点>


「魔導収束砲、船腹への着弾を確認しました」


「容赦なさ過ぎよ! あの船にはロベリアさんが乗っているかもしれないのよ!!」


 「猛スピードで自走する魔法の四輪」――あたしは、魔導四輪と呼んでいるのだけど――に備え付けられた主砲から放たれた魔力を収束した一撃が船腹に容赦なく風穴を開けた。

 当然、普通の馬車にこんな機能はない。これは、亜音速で自走する機能や、内部に亜音速走行の弊害を一切生じさせない機能、緊急脱出機能や自動操縦機能、光学兵器などの魔導四輪改造時に加わった機能ね。

 ……というか、なんなのかしら? これ。最早馬車の原型を留めていないし、無駄に廃スペックな気がするのだけど。


「ご安心を、ちゃんと透過視機能で人がいないことを確認した上で、船が沈まない場所を狙い撃ちしましたから。船室がいくつか黒焦げになり、しっかり向こう側まで風穴が空きましたが、何も支障はありません。大体、うちのお嬢がアウトローな連中のアジトに殴り込みをかけた時はもっと過激でしたよ? あの時はお嬢に付き従って隣にいただけで何もしていませんでしたが、壮絶な戦いで吐き気を催しました。もう二度とあのような荒事にはお関わりになりたくはありませんね」


 ……この人の仕えていたお嬢様ってヤのつく職業の元締の娘とかだったのかしら? というか、この人もこの人で大概よね? 自分で自分の感覚が狂っていることに気付いていないようだし……気付きなさいよ! 貴女の言葉には大いなる矛盾があるわ!!


「それでは、海賊船に乗り込みましょうか?」


 それを、さも当然のように言う時点で真面じゃないわよ! いえ、これからあたし達は海賊船に乗り込むのだから間違ってはいないのだけど!!


 海賊船に繋がるように、何故か氷の階段が掛けられていた。熱で溶けていないところを見ると、水の魔力によって作られた氷のようね。

 あたしを先頭に、アドリエンヌが付き従うように甲板まで登ると、船にいた全員がロベリアとロッテンマイヤーを含めてギョッとした形相でこっちを見た。


「リナリアさん? 村木さん? どうしてここに? もしかして、置き手紙を見なかったのかしら? ……まさか、あの手紙を読んで来たなんてことはないわよね?」


「何がまさかよ! そうに決まっているでしょう!? なんであたしを置いていくのよ! 相棒なんでしょう!? 貴女が言ったのよ! 相棒になってって!!」


「えっ、ええ……そうね。でも、危険なところに連れて行って怪我をさせたら申し訳ないでしょう?」


「それを言うなら、貴女の方が危険な場所に行ってはダメだわ! ロベリアさん、貴女は公爵令嬢なのよ! 平民のあたしが傷つくよりも、貴女に万一のことがある方がよっぽど問題なのよ!」


「公爵令嬢も庶民の娘も関係ない、一人の命に違いはないわ。喪われて良い命なんてないのよ。……心配掛けてごめんなさい。そうね、確かにちゃんと説明してから行くべきだったわ。正直、わたくし一人でもどうにかなると思っていたし、寧ろリナリアさんを守りながらの方が苦戦を強いられると思っていたのだけど」


「まあ、確かにそりゃそうだな。そんだけ強けりゃ護衛も援軍も必要ねぇな。だが、俺はそこの嬢ちゃんの気持ちをもっと考えてやった方が良かったと思うぜ?」


 何故か海賊さんの船長らしき人があたしに賛同して、他の仲間達も「そうだそうだ!」と囃し立てた。……これ、どういう状況なのかしら? なんで、海賊達の援護を受けているの、あたし。


「しっかし、船が大破しちまったな。俺達の航海の夢が」


「ご愁傷様でございました」


「ってか、お前らだろ! 俺達の船に、なんつーか、良く分かんねぇ凄え奴撃ち込んだの!」


 語彙力がクソザコになっているわね! この海賊船長さん。


「大体俺達は麻薬の密輸、武器の密輸、貿易船への攻撃、なんでもしてきたが、それでも人身売買だけは死ねぇ海賊だ! 貿易船の乗組員だって全員生かしたし、お前らだって殺さずにお帰り頂くつもりだったんだよ。……まあ、殺さずに戦うなんてことが通用しない猛者だって分かったからどうしようかと思っていたんだけど。なんか、もっとスマートに解決できなかったか?」


「リナリアさん、何故私は海賊からジト目を向けられているのでしょうか?」


「そもそも、船の中にロベリアさんが乗っているのに、魔導収束砲なんて物騒なものを躊躇なくぶっ放すからじゃないかしら? ……それで、ロベリアさん。どういう状況なの?」


「交渉しようとして、上手くいかずに戦闘になったということですわ。わたくしの推理では、ハーバー伯爵は闇のマーケットの支配人を務めていたんじゃないかしら? 勿論、ハーバー伯爵以外にも何人かそういう人はいるのだと思うのだけど。……わたくしはこの推理が正しかったかということと、そのオークションの場所がどこで行われていたのかを確認したかったのだけどね」


「俺達は海賊だからな。取引相手の情報を王国刑事部門の捜査官に教える訳にはいかねぇよ」


「と、無駄に任侠があるから困っていたのよ。既に義理立てするべきハーバー伯爵はこの世にいないし、ハーバー伯爵の殺害の動機に今回わたくしの聞きたいことが大なり小なり関わっているのにね。本当に困ったわ」


「おい、ハーバー伯爵が死んだだと!? そいつはどういうことだ!! まさか、「影道化ジョーカー」はそれを知った上で俺達に今日、寄港することを求めてきたっていうのか!?」


「あー、十中八九そうだとは思っていたけど、やっぱりユウリさんがマッチングしたのね」


「まさか、ユウリって俺達裏の世界の人間も知らない「影道化ジョーカー」の本名か!? つまり、「影道化ジョーカー」は俺達に証言をさせるためにこの港に来させたってこと……アハハハ、俺達は見事に嵌められたってことか」


「ユウリさんは今回の事件の犯人が裏側の世界の人間ではないことをティーチさんに証言させる予定もあったのかもしれないけど、その必要はないわね。ハーバー伯爵殺しの下手人は、裏の人間でもなければ、外部の人間でもない……屋敷の中の人間なのだもの」


「その様子だと、ハーバー伯爵殺しの犯人が分かってんだな? 悪いが、俺達はソイツに制裁を加えないといけねぇ。俺達のマーケットが一つなくなっちまった訳だからな」


「あっ、そういうのは必要ありまへんで」


 ナチュラルに会話に混じってきたのは、大きなカバンを背負った、不思議なほど存在感のない黒髪糸目の帽子を被った行商人風の出で立ちの少女だった。

 この人がロベリアに情報を渡した友人で、ティーチほどの裏の人間が恐れる「影道化ジョーカー」?


「ハーバー伯爵が死んでも闇市場はまだまだあるさかいにね。それに、今回は裏とは全く関係ない私怨で殺されたんやろ? そないなことでまで人を殺しとったら、この星から人がいなくなってまうわ」


「……まあ、「影道化ジョーカー」さんがそう仰るなら」


 ……良く分からないけど、とにかくこれで今回の事件の犯人が裏の人間から恨まれて殺害される可能性は無くなったのね。


「それで、俺達は闇市場の現場に案内すれば良いってことですか?」


「そういうことやね。ロベリアさんが望むままに捜査に協力してあげてもらえへんかな?」


「……「影道化ジョーカー」さんのお願いでも正直お断りしたいですね。俺達の船はここまで派手にぶっ壊されてしまいましたから、正直捜査に協力する気にはなれません。もし、ロベリアさん達が船の修復のための資金を出してくれるのなら、検討してあげても良いですけどね」


 ……村木さん? さり気なく自分は関係ないみたいに他の方向を見て目を合わせようとしないけど、どう考えても容赦なく魔導収束砲をぶっ放した貴女の責任よね?


「分かったわ。船の修復には協力するけど、その代わりに闇市場への案内と捜査のお手伝い、お願いできるかしら?」


「流石はロベリアお嬢様、よく分かっていらっしゃる。おい、野朗共! 船が直り次第、ロベリア捜査官御一行様に全面協力する! 分かったな!!」


「「「「「「「うぉーーー!!!!!」」」」」」」



 ◆◇◆◇◆



 修復に必要な木材や、焼けてしまった生活用品などは「影道化ジョーカー」が譲ってくれることになった。

 ティーチ達はロベリアに後で物凄い請求が行くんじゃないかとヒヤヒヤしていたみたいだけど、「お友達から金を取る奴がおるかよ」とジト目を向けられ、「それはそれで、狡くねぇか!」と突っこみながらロベリアを恨めしそうに見ていた。……しかし、海賊と聞いて恐ろしい人達なのかと思っていたけど、案外良い人達なのね。

 それに、掌返しが俗っぽさを感じさせるし……恐ろしい海の支配者のイメージは跡形もなく消え去ったわ。


 海賊船を破壊した村木さん主導で行われた船の修復は、水上で五千六百ノットもの速度で航海する規格外のエンジンや、亜音速に耐え切れる超耐久力、亜空間収納機能を応用した大容量貯蔵庫、自動操縦機能と緊急脱出機能、などなど多くの魔改造を「猛スピードで自走する魔法の四輪」のことを聞いたティーチが次々と注文して行った結果、帆を必要としない帆船という意味不明なチート級海賊船が誕生してしまった。……これ、後々面倒なことにならないかしら?


「完成しましたね。猛スピードで水上を進む魔法の船……というところでしょうか?」


「おい、村木さん! 俺達の船にクソネーミングセンスのない名前を付けんなよ! スーパーアルティメットグレーテストハイパージーベック号だ」


 正直、どっちのネーミングセンスも大差無いように思うわ。

 他の阿呆な男子共はこの小学生みたいなネーミングセンスの黒歴史になりそうな船の名前を押しまくったのだけど、船の紅一点ならぬ紅二点、アンとメアリに悉く却下され、紆余曲折を経て「ジーベック号mark.Ⅱ」という名前に決まった。「ジーベック号改」も良いところまで行ったのだけど、ネーミングセンスの無い男子共が「改」の方を推してしまったのが敗因ね。……この船の力関係がよく分かったわ。


 ちなみに、どさくさに紛れてあたしも「アン女王の復讐号」を推してみたのだけど、アンに「あたしは女王じゃないわ」と却下されてしまった……黒髭エドワード・ティーチの有名な旗艦なんだけどな。

 ……もしかして、少し捻って「コンコルド」という名前を提案すべきだったかしら?


 数日を掛けて約束を果たしたあたし達は、二日後、ティーチ達と共に闇市場の開催場所だったという海岸の洞窟に向かった。大昔は海の中にあったみたいで、長い間海水に浸食されてできた天然の洞窟のようだけど、地殻変動で海から切り離されて、鍾乳洞が美しい大洞窟になったみたいね。

 この天然の洞窟には海水が溜まっていたそうだけど、現在は除去されて大きな改造が施されている。普段は土魔法を使用して隠されているこの洞窟で、裏世界に身を置く非合法な者達の商売が行われていたそう。その場所を取り仕切っているのが、代々この地を治めるハーバー伯爵だった。


 ハーバー伯爵は主宰者として場所の提供の代わりに上前を撥ね、巨万の富を築いていたそうだけど、その財宝が一体どこに隠されているから裏世界の人間達も分からなかったみたいね。

 それが、ハーバー伯爵の大秘宝の正体であった……というのは、ほぼほぼ正解だったみたいだわ。ただ、ハーバー伯爵の大秘宝の全てが裏の金という訳ではなく、中にはハーバー伯爵が民達にも分からないように他の領よりも若干大目に掛けた税と、納めることになっている減税された税の差額も含まれていた。これは間違いないわね。


 この二日間の間にシルキーが持ってきたハーバー伯爵領で一年の間に徴税された額とヘリオドールが持って来てくれた税金の書類、この二つを見比べた結果、ハーバー伯爵がかなり計算高く質素倹約な民を大切にする領主を演じながら、巧みに民を騙して富を増やしていたことが分かった。……微々たるものだけど、本当にクソ野郎ね。マレハーダ……いえ、歴代のハーバー伯爵は。


 ここまで掴めれば、残るは一つ――このハーバー伯爵の大秘宝が果たしてどこにあるか、それを掴むことでこの事件の謎が全て解き明かされる。

 さて、長い年月を掛けて貯め込まれたこの大秘宝、一体どこにあるのかしら?

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