CASE.13 ロベリアって真っ直ぐで杓子定規なところがあると思っていたのだけど、案外柔軟に規則を破るところもあるのね。 by.リナリア

<Side.リナリア/一人称限定視点>


 午前の授業を終え、あたし達は上級貴族専用テラス……というより、最早ラインハルト王太子殿下御一行専用テラスと化した三階テラス席に集まっていた。

 それぞれが昼食を購入して(学園に一人までは連れて来ていいことになっている従者に購入させることもできるけど、このメンバーは王族や上級貴族が集まっているにも拘らず「自分達で見て食べたいものを選びたい」からと自分達で注文している)、席で料理が届くのを待っている。


 料理が届くまでの間に、ロベリアはヘリオドールへの聞き込みを終わらせてしまうつもりのようね。紙と羽ペン……ではなく、ロベリアが愛用しているボールペンと手帳を鞄から取り出している。

 ……これも多分前世の知識を基に作らせたのよね。被害者は……機械ではないから村木さんじゃないか。


 後から聞いた話だけど、村木さんも月村さんと同じ転生特典持ちの転生者のようね。


 月村さんは「犯罪心理学」に限り、前世の世界で発表した論文や本の全文が追加される『犯罪心理学全書』をどこからでも取り出すことができる能力。この本に論文翻訳機能はないから読めないものも多いと聞いているわ。


 村木さんは「機械の作成と魔改造」。実は本人が改造元の機械や改造の理屈を知らなくても魔改造が可能になるっていう意味不明な能力なのよね。


 この転生特典っていうのは本当に謎よね。二人とも感覚でどういうものなのか理解していたそうだけど、乙女ゲームの世界には存在しない物理法則を逸脱した能力だし、正直どういう理屈の能力かは分からない。

 あたしも転生者ならこういう能力を持っているかもしれない……って思うのだけど、今のところ何もないのよね。聖女の適性を持つ主人公に転生したということそのものが転生特典なのかしら?


「ヘリオドール様、少々時間よろしいかしら? お聞きしたいことがあるのだけど」


「あまり私にロベリア様のお力になれることはないと思うけどね。昨日、ロベリア様とリナリアさんが夕方に二人して職場に行ったことに関係しているのかな?」


 ところで、魔法学園は午前に三コマ、昼食を挟んで二コマと夕休みと呼ばれる昼食より短い休憩を挟んで一コマという六時間の構成になっている。

 昨日は夕休みの時間にディル君から事件発生の情報をもらって一コマ分休んだということになるわね。


 ちなみに、魔法学園の授業は一コマ分休んだくらいでは大した問題にはならない。

 実際、あたしも自重なしでやって最初の考査ではロベリアに次ぐ二位だったし(ちなみに、三位がラインハルト、五位ヘリオドールという流れだった。正直、完璧超人のラインハルトに勉学で勝てたのは嬉しい)、レポートの提出さえできれば代替え評価がもらえる訳で、休んでも特に痛手はない。


 ……ちなみに、考査順位四位はアドリエンヌこと、村木護さん。

 通常、学園生と学院生は王族、大公から伯爵の貴族と至高天エンピレオ教団の教皇から大司教クラスの子女までが入ることを許される上級寮と、それ以下の貴族位、平民などが入ることになっている下級寮の二つがあるのだけど、なんでも「お貴族様の娘とか大富豪の娘と一緒にいると、どこぞのお嬢を思い出してストレスが溜まる」という学園からしたらよく分からない理由で寮生活ではなく屋敷生活を送っている寮外生で、極力人と関わらない生活を送っていることから、ロベリアと共にミステリアスな人物で密かに注目されていたみたいだわ。まあ、アドリエンヌは子爵家の三女というあまり高い身分ではないし、本当に一部の人から半分やっかみ混じりで注目されていたってことみたいだけど。


「捜査官には守秘義務がありますわ。どの道、社交界に戸は立てられないものですし、いずれ情報は広まると思いますので、それまでお待ちくださると助かりますわ。ヘリオドール様は既に宰相様のお仕事を手伝っておられるとお聞きしております。この国の政治面の知識も豊富で多くの情報を持っておられるのではありませんか?」


「私も父の仕事を少し手伝っているというだけだからね。ロベリア様のご期待には応えられそうにないけど」


「またまたご謙遜を」


 ヘリオドールの魔性の魅力を悉く躱すロベリア。ヘリオドールの姿を見た階下の令嬢達だけじゃなくて、令息達まで次々と「ズキューン!」って撃破されていっているけど、これだけの色気を目の前にして全く顔色変えずに職務を全うするロベリアって本当に大物よね。あたしも少しクラッとしてきた……。


「お兄様はきっとロベリアさんのお力になれると思いますわ! 自信を持ってください、お兄様!」


 ヘリオドールのことが大好きな超絶ブラコンのアクアマリンの援護射撃もあって、ヘリオドールもロベリアの質問に答える気持ちになったみたいだね。

 「お兄様♡ 大好き♡ お兄様♡ お兄様♡ お兄様♡♡」と桃色の空気を振りまいて幸せオーラを爆発させているヘリオドールの隣に座り、さりげなくヘリオドールと机の上で恋人繋ぎをしているアクアマリンのことはとりあえず放置して、ロベリアはヘリオドールに質問を始めた。……っていうか、ヘリオドールとアクアマリン、もうお前ら禁断の恋だろうがなんだろうが速やかに結婚しろ!


「マレハーダ・フライングダッチマン・ハーバー伯爵という方について色々と聞きたいことがあるわ。社交界での評判や領地経営者としての評判、それからハーバー領に関しても何か知っていることがあれば教えてくださらないかしら?」


「もしかして、ハーバー伯爵がその事件に関わっているのか?」


「コメントは差し控えさせて頂くわ」


 ロベリアさん、それもうほとんどYESって言っているようなものよ!!


「ハーバー伯爵は質素倹約を心得ている真面目な貴族だと聞いている。夫婦仲もとても良く、鴛鴦夫婦としても知られているな。貴族の中には高い税を徴収し、私腹を肥やす者も残念ながら多い。国が土地の価値に合わせて定められた税を領主は毎年納めることになっているが、それよりも遥かに高い税を徴収すれば私腹を肥やす悪役貴族と揶揄されても仕方のないことだ。ハーバー伯爵の治めるハーバー領は、海に面した三つある領の一つで、海に面していることから津波等の水害も多く、海賊もできることからかなりの危険な土地だ。その分、他の領にはない実りもあるだろうが、リスクの方が遥かに多い。あの地を任せられるのは、貴族の中でも信頼厚い者のみだ。ハーバー伯爵家は代々その土地を任せられた、信頼ある貴族の家柄ということになるな。そのリスクも考慮し、ハーバー伯爵家を含む海に面する三領地のうち、二つの領地の貴族には特別に減税が行われている。残る一つの領地は我が国と他国の貿易を行っていることから、総算だと他の領地よりも税を支払っていることになるが」


「なるほど……海の実りとリスクね。津波は、まあいいとして、問題は海賊かしら? 漁をするのに襲われたら大変だし、そういう危険があるということは確かに減税に値するリスクかもしれないわね。それを踏まえても海洋資源というのは大きな旨味だと思うけど」


「ハーバー領の領民から領主に対する不満が出たという話も聞いたことがない。やはり、容疑者の方か?」


「ところで、毎年のハーバー領の納税額と平均的な貴族領の納税額がどれくらいか、というリストってもらうことはできないわよね?」


「伯爵の仕事にも関わるものだからな。公にされていない資料を第三者に開示することはできない。仮に証拠として王国刑事部門が提出を求めてきたとしたら、提出する必要もあるだろうが。ロベリア様が言う守秘義務に抵触する。……だが、その資料がどうしても必要なのだろう?」


「えっ……えぇ。まあ、あくまで可能性の一つですが、あれば一つの可能性を潰せるという意味では欲しいですわね」


「ならば、交渉だ。今回のロベリア様とリナリアさんが担当する事件の話を聞かせてくれ。そうすれば、私も多少なり職権を濫用しよう」


「わたくしは職務を全うに行ってもらいたいと思いますが……確かに、多少のルール違反も互いに許容しないといけない時もあるのかもしれませんわね。仕方ありませんわ……ここだけの話ですから、皆様絶対に広めないでくださいね」



 ◆◇◆◇◆



 ロベリアはハーバー伯爵が殺害されたことと、現在の捜査で判明している情報を攻略対象達とライバルキャラ達に話した。

 あのハーバー伯爵が殺害されたというのは誰もが衝撃を受ける話だったようね。しかも、鴛鴦夫婦と言われるほどハーバー伯爵と仲が良かったハーバー夫人が疑われているということが、更なる衝撃になったみたいだけど。


「それで、ロベリア様は誰が犯人だと思っているのだ?」


 まどろっこしいことが嫌いなザフィーアは単刀直入に誰を疑っているかロベリアに尋ねた。

 まあ、一番気になるのはそこよね。


「さあ、今の段階では何も言えないわ。現時点では具体的な捜査が行われることもなく、殺害されたと思われる夜に屋敷にいた三人をとりあえず重要参考人として事情を聞いているのだけど、まだ現場検証も行っていないし、そこからどういった証拠が見つかるかは分からないわ。それに、今の段階で判明している三人には動機という動機がないし。分かっているのはハーバー伯爵が鋭い刃物のようなもので、ブスッ、一刺しされたということかしら? 残念ながら凶器も、血のついた服も見つかっていないようだけどね」


 ところで、食事前にこんな話をして、本当に良かったのかしら? アクアマリン、アウローラ、スカーレットの三人がかなり青い顔をしているけど。


「まあ、明日現場検証に行けば分かることよ。約束通り事件の内容は教えたわ。約束のもの、楽しみに待っているから」


「ああ、約束だからな」


 事件の話が終わったところで、全員の昼食が到着した。

 それぞれ食べ始めたのだけど、アクアマリン、アウローラ、スカーレットの三人は食欲を失ったようで、あまり食が進んでいない。それから、アレキサンドラもあまり食べていないようね。


 ……そういえば、かなり隈が濃いし、少しやつれている気がするわ。あの事件の話を聞いてショックを受けて食欲を失ったという訳ではどうやらなさそうね。


「アレキサンドラ様、どうされたのですか? お疲れのご様子ですが……」


「最近、少しな。……至高天エンピレオ教団の教会を次々と信徒達が襲う事件が起きていて、その対応を手伝っていたら少々寝不足になった。リナリアさん、貴女が心配するようなことではないから気にしないでくれ」


 少々、というか、かなり大変な状態だと思うけど……本当に大丈夫なのかしら!? そういえば、昨日も少し疲れている様子だったわね。何故気付かなかったのかしら?

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