CASE.06 ワンコな後輩捜査官と腹黒王太子殿下から露骨に嫌われているんだけど、あたしってヒロインなのよね!? ……本当に自信が無くなって来たわ。 by.リナリア

<Side.リナリア/一人称限定視点>


「はぁ〜む♡ 甘くて美味しいわ♡」


 なかなかのペースで匙を口に運び、思わず惚れてしまいそうな幸せそうな満面の笑みを浮かべるロベリア。

 ……ち、違うわよ! あたし、そういうんじゃないからね!!


「それだけ食べてよく太らないな」


「もう、ザフィーアさん。デリカシーがありませんわ! しかし、本当に素晴らしい食べっぷりですわね。ロベリア様はいつもこれだけ食べるのですか?」


 ザフィーアにジト目を向けた後、スカーレットが呆れを通り越して寧ろ天晴っという顔でロベリアに質問している。……確かに、もしこんな大盛りパフェを食べているなら体型を維持できないわよね。でも、ロベリアって太っているようにはとても見えないし……流石に毎日これだけ食べている、なんてことはないわよね? もし、それが本当なら食べても太らない全世界の女性が憧れるチート持ちということになるわ!!


「流石に毎日という訳ではないわよ? なんというか、ちょっとムシャクシャした時に甘いものを沢山食べたくなるのよね。美味しい甘いものを沢山食べて、ストレスを撃退しよう! みたいな感じかしら? そういえば太らないわね……この頃、胸のあたりが少し苦しくなって来た気がするのだけど」


 アクアマリン、スカーレット、アウローラが「羨ましい!」という視線をロベリアに向けた。私も「羨ましい! 妬ましい! ヒロインのあたしにはどうして食べ過ぎたら太るのに、なんでロベリアは太らないのよ! どう考えてもおかしいわよね!!」という視線を向けたけど、ロベリアは全く気付いていないみたい。本当に鈍感過ぎると言うか、大物というか。

 案外、自分の容姿に無頓着なのかもしれないわね。悪役顔ってサイトの紹介文には書かれていて、実際にそういう評価がネットに溢れていたけど、実際に相対してみると美しい系の美人というイメージだし、スイーツを食べる時とかに見せる無防備な笑顔がギャップ萌え……最強過ぎないかしら!?


「ロベリア、そんなにストレスを溜めることがあるのかな。私がストレスの原因を排除してきますよ」


 ……そして、もう完全にロベリアに攻略されている感ありまくりのラインハルトが満面の笑顔で物騒なことを言い始めているし。


「ラインハルト殿下、ご心配には及びませんわ。ちょっと職場で時代錯誤の捜査方法が定着し過ぎていて、それに全力で抗議したら孤立しちゃったというだけですから。まあ、おかげで事件に関する情報は全くと言っていいほど回って来なくなり、こちらから精力的に事件に首を突っ込んでいかないと事件の担当をさせてもらえなくなってしまいましたけどね。まあ、勝手に首を突っ込んで事件を解決できるので随分と捜査の自由度は上がりましたが」


「なんだか、特命係みたいですね」


「でも、相棒はいないわよ? ……あっ、でも次の事件からは最高の相棒と一緒に事件を解決できるのよね! 楽しみだわ!!」


「ロベリア様は学園に通っている学生ですよね。あの……お仕事って」


 アウローラの疑問は当然よね。だって、このメンバーでロベリアが捜査官であることはあたししか知らないもの。……そういえば、ラインハルトは知っているのかしら?


「そういえば、お話ししていませんでしたね。わたくしは学園に通いながら王国刑事部門で捜査官の職に就いていますわ。階級は二等捜査官です」


 捜査手帳を取り出して見せ、そのまま嬉しそうに制服のポケットにしまうロベリア。そういえば、前に見せてもらった時も嬉しそうだったわね。捜査官であることに誇りを持っていることが分かるわ。


「お兄様、王国刑事部門は学生でも所属できるものなのですか?」


「いや、前例は無いと思う。王国刑事部門は王国の組織の中でも王国近衛騎士団、魔法省、王国内務局、王国外務局と共に五本の指に入る入所難易度の組織だったと記憶している。最低でも学園卒業程度の学力を有し、更にそれ以上のものを求められる試験を突破したものが三等捜査官の資格を得られる。更に実績を重ねることで試験を受ける機会をようやく得られ、二等捜査官、一等捜査官と昇格していくと聞いている。毎年、この学園からも挑戦者は多数いるが、一発合格できるのは一握り。その先で諦めずに何度も挑戦して入れればまだいい方で、多くは挫折し、別の道に進んでいくものだ。ロベリア様は手帳を見る限りでは七年前……つまり、八歳でこの難関試験を学園卒業生や浪人生達、一般挑戦者達に混じって勝ち抜き、捜査官の資格を勝ち取ったということになる。俄には信じ難いな」


 ヘリオドール、表情筋が死滅して動かないせいで全く驚いている雰囲気が感じられませんよ!

 まあ、でも他の面々の驚きっぷりを見ればこれがどれだけ凄いのか分かる。

 前世の知識や経験が無ければ到達できなかっただろうし、例えあったとしても覚えなければならないことは山のようにある。


 ロベリアから話を聞いたからこそ分かる。破滅フラグ回避のためだけにこれだけのことはできない。

 捜査が、推理が好きだから、凄まじい努力をして一発で捜査官に合格した……本当に凄いわよね、月村さんって。


 そういえば、ラインハルトは特に驚いていなかったみたいね。……何故か更に不機嫌になっているし。

 もしかして、国王陛下とロベリアの契約を……婚約解消の話をラインハルトは知っているのかしら? ……それで不機嫌に。大切な婚約者を自分から奪った捜査官という立場を憎んで。

 これ、尚更ラインハルトと結ばれる可能性が無くなって来ていないかしら? ……もう既にヒロイン補正なんてないことは分かりはじめて来ているけど、このまま友情エンドだったら流石に泣くわよ!


 それに、ロベリアだって夢を叶えて捜査官になったんだから思う存分捜査に打ち込みたいって言っていたし、王妃になって立場に縛られたら彼女の自由な時間もなくなってしまう。

 あたしとロベリアの両方の願いを叶えるために、なんとしてもラインハルトは攻略しないと!!


「あっ、ディル君! こっちこっち!!」


 ……全く、この人は空気を読まないというかなんというか。どこぞの遺留品係みたいなところがあるわよね。

 ラインハルトが張り付いた笑みの裏に燃え盛る怒りの炎を燃え上がらせる中、全く気づいていないロベリアが手を振る先には学園の制服ではなく、薄紺色のジュストコールとジレ、ひざ丈のキュロットという貴族らしい服装をしたあたし達よりも年上の青年の姿があった。


 ラウンジの入り口に現れた青年はそれはもう可哀想なほど汗を拭いながら必死にロベリアを探しているようだった。

 ロベリアがテラス席で手を振っているのを見つけるとそれはもう目を輝かせて階段を駆け上がって来た……この雰囲気、忠犬みたいね。ワンワン。


 階段を上がり、上級貴族専用テラスに辿り着いた彼は王太子殿下をはじめとする上級家族が勢揃いしていることに気づき、直立不動で敬礼の姿勢を取った。


「お初にお目に掛かります! 王国刑事部門三等捜査官のディル・イジドール・プルミエールであります! 王太子殿下、ロベリア先輩の御学友の皆様、どうぞお見知り置きくださいませ!」


 元気で真面目そうな、フレッシュな若者って感じね。……学生のあたし達の方が若いけど。

 三年制の魔法学園を卒業して、その後一発合格したとしても三年以上は歳が離れているわね。


「ディルと言ったね。君はロベリアどういう関係なんだい?」


 天使の笑顔で笑い掛けてこそいるけど、目は飢えた肉食獣のもの。今にもディル君を取り殺しそうな迫力た! 逃げて、ディル君!! (今あったばかりだけど)。


「はっ! 本官は王国刑事部門に入庁したその年からロベリア先輩に職務に関する様々なことを教えて頂きました! 誰よりも正しく事件に向き合い、真実を追求するロベリア先輩は本官の憧れです! このような素晴らしい先輩に教えを受ける機会に恵まれたことが本官の誇りであります!」


 このディル捜査官も凄い胆力ね。ラインハルトの圧力にも全く屈していないし。

 というか、ロベリアに対するリスペクトが凄過ぎる!


「はっ、失礼致しました! ロベリア先輩、事件が発生致しました! 既に容疑者三名が本庁で取り調べを受けております。馬車は既に学園入り口にご用意してあります!」


「ありがとうございます。リナリアさん、約束通りいいかしら?」


「……あの、学園の授業の方は?」


「学園には事前に話を伝えて授業は振替のレポートで大丈夫という話になっていますわ。リナリアさんの方もそのように学園長にお願いしてありますので何も問題はありません。学園に出す書類も二人分書いてありますから、これを学園長に提出すれば何も問題ありませんわ」


「……既に準備万端という訳ね」


「ロベリア先輩、部外者を連れて行くのは――」


「ご安心ください。リナリアさんは今日からわたくしの相棒ですわ! 捜査官が捜査資格のない一般人に捜査の協力を依頼してはならない、という規定は王国刑事部門にはありませんわ」


「ありませんが、それって明記する必要がないくらい当たり前だから明記していないという意味だと思いますよ! それに、ロベリア先輩の相棒は――」


「ディル君も早くいい相棒を見つけられるといいわね。同期で一緒に組みたい人っていないのかしら? 例えば、ディル君を慕っているあの子とか。捜査情報をもらえるのは嬉しいんだけど、申し訳ないなって思っているのよね。あんまりわたくしみたいな人と一緒にいると、ディル君まで孤立しちゃうわよ?」


 あ〜っ……うん、ディル君、君の気持ち分かるよ。本当は先輩と一緒に事件を解決したいのよね?

 ラインハルトも、ディル君も、ロベリアに気持ちが届いていないのね。……なんでこんなに鈍感なのかしら? ……どこぞの遺留品係みたいに空気どころか態度に出している感情が読めない……ってことはないと思っていたのだけど。まさか……ね。


「……分かりました。ロベリア先輩と、リナリアさん……でしたね。お二人の提出書類を学園長の方に提出して参ります。先輩のお手を煩わせる訳には参りませんから。ただ、僕はリナリアさんをロベリア先輩の相棒として認めた訳ではありませんからね! ロベリア先輩の相棒はこの僕です!!」


 思いっきりライバル宣言されたんだけど……なんだかよく分からない方向に進んでいない? もう、ロベリアは「事件の捜査、ワクワクするわね!」って張り切っちゃっているし。

 ……あたしって、どこで道を間違えちゃったのかしら?



 ◆◇◆◇◆



 ガタゴトと揺れる馬車の中、あたしは憂鬱な気持ちだった。


 出発前、あたしはラインハルトに呼び出された。といっても、攻略を進展させられそうなものではなく、寧ろその逆。


「久しぶりにロベリアと会えたのは嬉しかった。機会を作ってくれたお前にも感謝している。……ロベリアは私の婚約者だ。彼女が捜査官として働いていることは知っているが、どのようなことをしているのか、彼女の交友関係がどうなっているのか、全てが謎だ。リナリア、ロベリアと共に行動してロベリアの情報を逐一私に報告しろ。それから……ロベリアを妄りに誘惑しようなどと考えないようにな。ロベリアは私の婚約者だ、分かったな!」


 ……ああ、うん。これを聞いて、あたしとラインハルトが結ばれるのが無理だって確信に変わったわ。

 これ、無理。腹黒モード全開で、できるならロベリアを監禁して独り占めしたいみたいな、そんな仄暗い思考が垣間見えているし、それにロベリアは全く気づいていないし。


 そもそも、ディル君がロベリアに尊敬の念を覚えるのは分かるわよ? でも、なんであの腹黒王太子がロベリアに執着するのかさっぱり分からないわ。

 徹底的に避けたのでしょう? 記憶を取り戻すまでの高慢なロベリアのことしか知らない筈だし……本当に何故なのかしら?


 尻の痛さと憂鬱な気持ちで激しく気持ちが沈む中、あたし達は王国刑事部門に到着した。

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