元悪役令嬢捜査官ロベリアと相棒リナリアの事件簿〜高慢令嬢から一転推理大好き捜査官になっていた悪役令嬢のロベリアの相棒に選ばれてしまった聖女でヒロインのリナリアはハーレムルートを捨てて難事件に挑む〜
CASE.05 他の攻略対象とライバルキャラがリア充の甘々な雰囲気でパフェをアーンし合っているのに、なんであたしと王太子殿下だけギスギスした雰囲気なのよ! by.リナリア
CASE.05 他の攻略対象とライバルキャラがリア充の甘々な雰囲気でパフェをアーンし合っているのに、なんであたしと王太子殿下だけギスギスした雰囲気なのよ! by.リナリア
<Side.ロベリア/一人称限定視点>
数日後、わたくしはお父様と二人で王宮に招かれていた。
お父様がわたくしが婚約取り消しを願っていると国王陛下に伝えたようだけど、その答えが今回の招喚だったということね。
といっても、お父様はあくまで王宮に来るまでの付き添い。国王陛下はわたくしとの一対一の面談をお望みなのだそうだ。
人払いのされた小さな、それでも調度品一つ一つが華美でこそないものの高級だと一眼で分かる趣味のいいものばかりで固められた応接室のような部屋で、わたくしは国王陛下と対面した。
エドワード・オレイカルコス・アダマース、攻略対象の一人ラインハルト王太子と二人の王子、三人の姫君の父親で茶色の髭を蓄えた眼光鋭い偉丈夫。
纏う覇気は相対するものを圧倒するほど……ロベリアの記憶では優しいお爺さん……というには歳が若いけどそういうイメージだったのだけど、こっちが本性みたいね。
「セージから話は聞いている。婚約を解消したいそうだね。何らかの心変わりがあったと聞いているが、とても弱気な理由から婚約の解消を願っているようには見えないね。寧ろ、夢を追いかけるために婚約を解消したい、とても前向きな理由からの婚約解消に思える。前に会った時よりも精悍としている」
……なかなか、鋭いわね。
あの鋭い眼……まるで全てを貫いて見透かすようだわ。
わたくしの考えなど、お見通しのようね。
「さて、婚約の解消だが一つだけ条件がある。その条件をクリアしさえすれば、私はロベリア嬢とエドワードの婚約解消に協力しよう」
「条件……ですか?」
「これは君にとっても都合の良い話だと思うがね。条件とは、君が夢見る王国刑事部門で結果を残すことだよ。君が捜査官として優秀であることを私に認めさせることができれば、君は夢を叶え、婚約という柵から解放される」
「……一つよろしいでしょうか」
「構わないよ」
「王国刑事部門は国の影響を受けない組織とお聞きしておりますわ。例え国王陛下であろうとも、王国刑事部門の人事操作はできない筈でございますが」
「確かに、私にもできることとできないことがある。
「なるほど……そういうものなのですね」
完全に独立した組織という訳ではなさそうね。
確かに表向きは独立している。でも、組織を構成するのは貴族がほとんど……つまり、貴族同士の繋がり、付き合いからは逃れられないということね。
まあ、関係のないことだわ。わたくしはわたくしの願いを叶えられるのならそれで十分。
「分かりましたわ。国王陛下が提示してくださったもので構いません」
「二人でいる時はエドワードで構わないよ。これから何度も会うことになるだろうし、そう堅苦しくしていては気疲れするだろうからね」
「……畏まりました。エドワード陛下、一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「何だね?」
「王国刑事部門に所属するに際して、無条件で資格を得るというのは他の努力なさっている方々に対して失礼でございますわ。わたくしも実際に試験を受けて捜査官の資格を得て、その上で賭けに臨ませて頂きたいのです」
「ははは! ロベリア嬢は
エドワードは愉快そうに笑うと、わたくしに了承を求めてきた。
勿論、わたくしの方にも異論はない。エドワードの条件を飲み、わたくしは謁見の間を後にした。
でもあの時、なんだか引っ掛かりを覚えたのよね。
愉快そうに笑う陛下の眼に、ロベリアでも、葵でもない、男の影が映っていたような気がしたのだけど……そんな筈がないわよね。そもそも非科学的だし……きっと何かと見間違えたんだわ。
◆◇◆◇◆
<Side.リナリア/一人称限定視点>
「と、まあそんな感じでエドワード陛下との賭けの第一と第二の試練をその年のうちに突破して、わたくしは最年少の八歳で三等捜査官の資格を取得。それから二年で二等捜査官の試験に合格して、今年十五歳になった今も二等捜査官の地位にあるわ。はい、これ捜査官手帳」
ロベリアから受け取った手帳には確かに「二等捜査官 ロベリア・ノワル・マリーゴールド」と書いてあったわ。……本当だったのね。べ、別に疑っていた訳じゃないわ! 本当よ!
「しかし、よく分からないのよね。『王国刑事部門で結果を残す』って条件がアバウト過ぎて未だに婚約の解消ができていないし……困ったものよね。あっ、そうそう入学式は捜査の仕事があって参加できなかったわ。リナリアさんとロベリアの亀裂を走らせる重要なイベントがあったのよね。……これって、演技をした方がいいのかしら? わたくし、前世では演技が下手過ぎて学芸会でも木や石や街灯の役しかやったことがないのだけど」
……それって、役として必要かしら? 大道具さん! 出番ですよー! ……だと思うのだけど。
「とりあえず、わたくしに日畑さんと敵対する理由はないわ。わたくしも、王太子殿下にもっと相応しい相手がいるって認識してもらえればわたくしの婚約の解消も別ルートからできそうだし、大歓迎なのだけど。日畑さんが逆ハーレムルートを目指したいというなら、応援するわ。応援するだけで、特に何かできるって訳でもないけどね……ほら、わたくしって人付き合いが苦手だから。……ただ、攻略対象――未来を担う重役候補達――と繋がりを持っておくとメリットもあるわね。そうね、そうだわ! 日畑さん、全ての攻略対象と親密になれば、わたくしも貴女も幸せだわ! 是非目指しましょう! ハーレムルート」
「月村さんはやったことがないから分からないと思うけどハーレムルートって大変なのよ! ただでさえ、シナリオ通りじゃなくなって来ているのだから」
「うーん、そうよね。そこが問題なのよね……そもそも、シナリオに固執しているから空回りしているんじゃないかしら? それに、別にハーレムルートに拘る必要はないかもしれないわね。わたくし、恋をしたことは前世でも今世でも一度もないのだけど、恋ってステップを踏んでいくものでしょう? まずは互いが互いを知って、友達になって、そこから関係が進展して……ってそういうものじゃないかしら?」
友達がいないっていいながら、日畑さんってちゃんと恋愛を分かっているじゃない! 寧ろ、恋愛ゲームをやってきたあたしの方がそんな基本的なことを忘れていたわ。
何事も積み上げが肝心……ゲームのシナリオじゃなくて、実在している攻略対象を見るべき、か。そうよね……「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」、少しずつ段階を踏んで友達から恋人へ……そうよ、月村さんの言う通りだわ。
「それならわたくしにも助力ができるかもしれないわね。佐々木さんも言っていたわ! 身分差なんで関係ないって。わたくしがリナリアさんと友達になれば、リナリアさんに対する偏見も少しは解消できるんじゃないかしら? そういうのならお手伝いできるかもしれないわ」
「本当にいいの!?」
「えぇ、わたくしで良ければ。……その代わり、お願いしたいことがあるの。友達になる代わりにお願いっていうのも変なんだけどね」
「あたしにできることならなんでもするわ!」
「わたくし、実はずっと助手が欲しかったの! シャーロック・ホームズにはジョン・H・ワトスン博士、エルキュール・ポワロにはアーサー・ヘイスティングス大尉、探偵には優秀な助手がつきものだわ!」
探偵の助手ね……ロベリアって捜査官じゃなかったかしら? いつの間に探偵になったのよ。
特に私に不都合はないから快く引き受けたけど……ロベリアって、もしかしてかなりズレてる?
◆◇◆◇◆
ロベリア……いえ、月村さんのアドバイスは正しかったわ。
あたしと友達になったロベリアは精力的に攻略対象やライバルキャラ達にあたしのことを紹介してくれた。
……あまりに頑張り過ぎて、図書館で度々スライムみたいに溶けてたけど。本当に人付き合いが苦手だったみたいね。別に人見知りって訳じゃないから自分で思っているだけだと思っていたんだけど。
ロベリアは学園……どころか、社交界全体でミステリアスな令嬢として知られていたみたいね。
王太子の婚約者という目立って当然の立場にありながらも、あまり社交界に顔を見せないから、王太子の婚約者の地位を羨む令嬢達も本人がいないものだから羨めないというかなり特殊な状況を作り上げていたみたいだし。
まあ、かく言うあたしも偶然この図書館でロベリアさんを見つけなければ彼女が転生者であることを掴めなかったと思うけど。
ラインハルト王太子殿下、宰相の息子で伯爵令息のヘリオドール、近衛騎士団長の息子ザフィーア、枢機卿の息子アレキサンドラ、伯爵令嬢のアクアマリン、侯爵令嬢のスカーレット、公爵令嬢のアウローラ。まさか、これだけ豪華なメンバーとラウンジにある事実上の上級貴族専用テラスで集まる日が来ようとは……攻略対象との親密度が上がらないと、このテラスに関するイベントは起こらないのだけどね。
攻略対象との関係は大して進展していない。ヘリオドールはアクアマリンと、ザフィーアはスカーレットと、アレキサンドラはアウローラとラブラブな雰囲気を醸し出しているし、正直付け入る隙は皆無に等しいと思う。
実はもうハーレムルートは諦めているのよね。わざわざこの良い関係を破壊してまで欲望を優先するのも気が引けるし、前世で生きられなかった分まで人生を謳歌するのに、逆ハーレムに拘る必要はないものね。
そうそう、ラインハルトとの関係も進展したわ……あたしとの恋がという訳ではないけど。
「リナリア、だったか? お前のおかげでようやくロベリアと一緒にいられる機会を作れた。感謝してもし切れないな」
そもそも、婚約者なのに動向を掴めていなかったのね。露骨に避けられていたし。……王権駆使して監視させることだってできそうなものだけど。
そういえば、隠しエンディング……という名の闇エンディングに監禁ルートがあったわね。独占欲も強い腹黒王子だし……もしかして、援護射撃しちゃった?
ロベリアは「悪役令嬢でどうせ破滅するんだから、面倒の種にしかならない婚約なんて解消して好きなように生きたい。好きなだけ推理できる人生が送りたいわ!」ってラインハルトに好意を寄せられない前提で動いているけど、実はラインハルトってロベリアのことが好きなんじゃないかしら? 第三者のあたしから見ても明らかにロベリアと会いたかったみたいだし…… そういえば、入学式に時に何度か席を立って不機嫌な顔で教員に話しかけていたけど、もしかしてロベリアが来るかを確認していた、とか?
あれ……もしかして、誰とも結ばれないエンド? まさか、このまま友情エンドに進むの? ……まさか、ね。そんな……えっ、マジで。
ヘリオドールも、ザフィーアも、アレキサンドラも諦めて最推しのラインハルトにワンチャン賭けていたのに!? なんなら、ロベリアとあたしはラインハルトがあたしに恋をして晴れて婚約解消、誰も不幸せにならない全員ハッピーな卒業を目指していたのに、肝心のラインハルトがロベリアを好きってどういうことよ! ってか、避けていたんじゃないの、ロベリア! なんで関わってもいないのに好意寄せられているのよ! しかも、ロベリアはそれに全く気づいている様子もないし……感情の機微に気づけないって、それって観察眼がモノを言う刑事……じゃなかった、捜査官としてどうなの!?
「お待たせ致しました。ご注文のホットストレートティーと、季節のフルーツスーパーパフェになります」
「わぁ♡ 美味しそう♡ ありがとうございます♡」
しかも、肝心のロベリアは悪役さの欠片もない可愛らしい笑顔で美味しそうに我関せずパフェを食べ始めちゃったし。……って、この世界になんでパフェあるのよ! 中世ヨーロッパにあるものじゃないわよね!!
「ロベリア様、それはどういったものなのですか?」
「スカーレット様、これはパフェという異国の甘味ですわ。実は学園のシェフに無理を言ってレシピを渡して、特別に作ってもらっているの。よろしければ皆様もいかがですか? 注文して参りますが」
「よろしいのですか!? お兄様、一緒に食べませんか!」
「アクアマリンが望むなら、私も注文しようかな? ロベリア様、わざわざお手間を取らせる訳にはいかないよ。注文は私にもできるからね」
「ザフィーアさん。わたくし、パフェを全て食べ切れるとは思えませんわ。お手伝いくださらないかしら?」
「そうだな、俺も一つ取ろう。スカーレットと半分っこだ」
「アレキサンドラ様、わたくし達はどうしましょう?」
「そうだね。流石にあれほど大きいなら一人では食べきれないし、アウローラ様が食べてみたいのなら、一緒に食べたいな」
「では、ロベリア。それでは、私達も半分っこ……」
まあ、確かにかなり大きめなパフェだし、味を知っていてもなかなか躊躇する量よね。そもそも、食べたことがないからどんな味がするのか分からないし手が出ないのも納得なのだけど……。
この機に乗じてラブラブしようとする攻略対象とライバルキャラに更に乗じてロベリアと距離を詰めようとするラインハルトだけど、多分ロベリアそれ全部一人で食べるつもりよ。
「ごめんあそばせ。このパフェはわたくし一人分よ。そうね……リナリアさん、流石にほとんどのメンバーがパフェを食べているのに、一人だけ食べないっていうのはハブられているみたいで嫌よね。でも、ちょっと量が多過ぎるって思っているんじゃないかしら? 王太子殿下に手伝って頂いたらどう?」
「えっ!? えっ……王太子殿下、その」
椅子の下でロベリアがバレないようにグッジョブってハンドサイン送っているけど、もしかして狙っていたの!? 鈍感か敏感かどっちなの!?
「リナリア……お前一人では厳しいのなら、手伝ってやっても良いぞ」
ラインハルト殿下、その……思いっきり青筋立てながら言われても正直辛いです。
殿下の目が「貴様のせいで折角ロベリアと距離を詰められる機会が台無しになってしまったではないか!」って口ほどにものを言っているだけど……寧ろ逆効果よ! 援護射撃になっていないわよ、これ。
他の攻略対象とライバルキャラ達が甘々な空気でアーンしている中(リア充爆発しろ!!)、あたしとラインハルトはギスギスした空気でパフェを実食……どんな拷問よ! ってか、あたしって主人公に転生したんでしょ! なんで初っ端っから修羅場なのよ! あたしのハッピーエンドはいずこにー!!
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