Date(Re)-4

「うーむ、うーむ、うーむむむ……」

 映画鑑賞後、「サントロンカフェ」でお茶兼ちゃけん早めの夕食をとる。僕はまたカルボナーラ、飯島先輩は具材たっぷりのペペロンチーノ。ちょっとお高め。

 その彼女は腕を組んで、何やらうなっていらっしゃる。


「何やってんですか? お手洗いなら、我慢せずに行ってきてください」

「いや、違うから! お腹が痛い時、こんな唸り声出さないし。……出さないからね? 本当に。私が悩んでるのは、映画のことだよ」

「? 内容に何か不満でも?」

 いや、別に?

「面白いかったんだよ?すごいと思うよ?映像綺麗。音楽ばっちり。声優さんの演技ピカイチ。だけどね。だけど、ここまでムーブメントを起こすほどかっていうとね。逆にこの作品がここまで盛り上がるなら、他のアニメも同等の評価がされて欲しいんだ。最近のアニメは本当に映像、音楽、演技のクオリティが全部高くてね」


『おいおい、製作スタッフの皆さん、だいじょうぶ? ちゃんと労力に見合うお給料もらってる? お休みある?』


「って心配になるレベルだよ。

 今期だけでもね、あ、深夜アニメは一クール、三カ月を『一期』って数えるんだけど、その今放送しているのだけでもね、素晴らしい作品はたーくさん、あるんだよ」


「しぐるい」「兄をくっ付け」「可愛いがスギル!!!」「ZZZ……」「おりん」「アダッチー」「優等生」「ジュージツ」「旅人」「ケーキ」「神成り」「ごっつぁんです」「レール」「さむらい」エトセトラ、etc……


 全然分からないが、とにかく、たくさんあることだけは分かる。

「他にもいーっぱい。数えきれないほど、名作が放送されてる。てんてこ舞いで、嬉しい悲鳴の阿鼻叫喚あびきょうかんだよ」

 唯一の懸念けねん事項は、さっき言った、ちゃんと作り手の方々に、労力に見合った報酬が支払われているかってことだけど……

「こればっかりは業界人じゃないから、分からないね。ちゃんと分配されてると思うけど…… で、一端いっぱしのアマチュア、アニメ評論家を名乗る私としては、アニメ=『鬼殺し』の方程式で、『最近のアニメすごい!』っていう世間の評価の結果がさ。なんか気に食わないんだよね~ 『鬼」が他の作品そっちのけでアニメ代表づらしている現状には、ちょっと納得いかない。(別にそのせいで『鬼殺し』を色眼鏡で低く見るつもりは毛頭もうとうないけど)

 まあ、アニメの中にはお粗末な作品もあるけどね。一回、二回ならともかく三回同じことやるとか、普通なら考えても実行しないでしょ……」

「その発言は自分の首を絞めているように聞こえるんですが」

「うっ……!!」

 墓穴ぼけつを掘ったという表情がとても面白い。

「……あ、あはは……ふ、ふんだっ、私は3.5回だから違うもんね。あと私のは最早もはや、持ちネタだから。鉄板ネタ!」

…………

「でもなんやかんや言って、パンフレットは買うんですね」

「今言ったでしょ。私は不当な評価はしない主義なの。今日の映画は超面白かったよ」

「ってあれ? 二つ? それ、今日の作品じゃなくて……」

「うん、この前、観た『打ち上げ花火』だよ。まだ売ってて本当によかった……本当に…… もうないかと思ってた……」

 まさに神に祈りを捧げる勢いで感動している。

「……それはよかったです。でもこの前、観た時に買えばよかったじゃないですか」

 僕は当然の迂闊うかつな疑問を口にする。

「月路クン、人間は三途さんずの川を渡る時は、みんな裸一貫はだかいっかんなんだよ。わざわざ死ぬ間際に、お気に入りの物を増やして、躊躇ちゅうちょする材料を増やしたりしないよ?」

 当然の切り返しに、僕はとっさに反論できない。

「……じゃあ今日、お気に入りの物を増やしたということは」

「ふふふ。君の想像にお任せするよ」

 茶目っ気たっぷりの含み笑い。



 最後にゲームセンターに立ち寄る。

 あの懐かしの筐体きょうたいは撤去されて、その場所には何もなかった。

「おそらく撤去の直前だったんでしょうか」

「まあ、そうだよね。この前、残ってたのが奇跡だったからね……」

 そう言いながら、先輩は寂しそうな雰囲気をかもし出している。

「せっかくだから、何か遊びましょうよ。この間はUFOキャッチャーやりましたけど、他に先輩は何が好きですか。コイン落とし、ルーレット、もしくは格ゲー? プリクラは勘弁してくださいよ?」

「ホッケーやろう! ホッケー! もしくはクラゲたたき」

「本当に勝負事、好きですね……」

 午前中も運動したのだが。運動不足の僕は、明日の筋肉痛が確定だ。

 結局、ホッケーを三プレイ、付き合った。

 先輩は相変わらず、抜群ばつぐんの反射神経を披露ひろうして、終始僕は劣勢だった。

 結果はまあ、当然、3タテを食らった。

 分かっていたことだが、むちゃくちゃ悔しい。

 もう少し日頃から運動して、次はリベンジしてやる。

 ついでにクラゲ叩きもやった。むにょんという叩いた時の感触が、絶妙に気持ち悪かった。こんなのが人気があるのが、不思議でならない。

「きもちわるい~」

 事ここに至り、二人の気持ちは見事にシンクロしていた。





 遊び疲れた僕らはモールの入口から外に出る。


 まだが落ちる気配がない、夕方六時前。

 灼熱しゃくねつが人のやわころもを焦がす。

 生理現象が正常に働き、すぐさま汗がき出す。

「じゃあ、」

 彼女は片手を軽く上げ、


「またね!」

と挨拶する。

 じゃあ、と僕も片手を挙げて、答えた。

 彼女はとてとて歩いて、彼方かなたへと去っていった。

 それを見届けてから、僕も家路いえじについたのだった。



 ぎんぎらぎんの猛暑の夏のある一日。


 こうして僕らのリメイクデートは幕を閉じた。

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