Date(Re)-2
「いやあ、私、過去三回も入院してるでしょう?」
荷物を置きながら、事情を教えてくれる。
「回数を重ねる
僕もお見舞いに行った時、気にはなっていた。もう世間では、お年寄りから若い人までお
知らなかった。
どうやらベッド数が足りていないのか、単純に患者の数が増加しているのか、僕たちのお世話になっている病院の入院病棟では、どんどん高齢の方の姿が増えていた。
「うちの病院だけなのかなあ…… で、今日来てる三、四人の軽い認知症のお爺さん、お婆さんたちも入院を繰り返して、お互いに顔も覚えて、仲良くなって、いろいろ付き合いができて、今に至る」
終わり。
ちなみに先輩は病棟では、「個室の
令嬢はともかく、「個室」……トイレを連想して、なんかかっこ悪い。
「む。今、失礼なこと考えたでしょ」
「考えてないです」
「そう……?」
納得がいってないご様子だ。怖い怖い。
「というか、お年寄りとの会話は平気なんですか?」
「比較的楽だよ。目上の人への敬意はテンプレートが多いし」
敬意、あったかなあ……
「ピチピチの若い子が顔を出すと、ちやほやしてくれるし」
その発想がいただけない……、あとピチピチって……ふる
「ああん?」
「何でもないです」
何で今日は僕の考えてることが分かるんだろう。
サウンドテーブルテニスのルールは一応、公共放送の公式HPで調べた。
と言っても、今日やるのはかなり
障害者スポーツクラブというよりは、高齢者クラブである。そもそもクラブで視覚が不自由な人は、二人だけしかいない。一人はお休みで合計三人。あとは(老い以外は)健常なお年寄り約20人。
プレーも視覚障害の人には別枠で時間を設けて、取りまとめ役の人(遠藤さんという)が一対一で相手をした。僕たちは周りでそれを見ていた。彼らと一緒にプレーする機会はなかった。
「残念だねえ。ちょっと期待が外れたよ。健常者と障害者が入り乱れて、交流する本格的なものを期待していたんだけど」
そういう割に先輩は、十分楽そうである。
「いきます!(サーブする人)」
「はい!(受ける人)」
ボールを打つ前に決められた掛け声。ボールは音がカラカラ鳴る。(お高い。一個300円くらい)両方とも目の見えない相手に、認知させる意図がある。厳密には掛け声には時間制限があるのだが、そこら辺も緩い。
特注の卓球台が数に限りがあるので、ダブルスで試合を行う。
僕のペアは飯島先輩。
若い者はじっくり二人で……みたいな流れでそうなった。ジジババさんたちの視線が
体力差でハンデにならないか、と最初は思ったが、見事に
試合になると、それまでのひょこひょこした動きが
コート上を枯れた老体が
「うおおおお!!??」
圧がすごい。
かたや日頃の運動不足が
完全に先輩の足を引っ張っている。
それでも経験を若さで
徐々にコツを
得点が失点を上回り始める。
そしてやっと三試合目で、マッチポイントを迎えた。
10-8(11点先取制)
飯島先輩はぼそっと、
「左手は添えるだけ……」
それは別のスポーツだ。
「とうっ」
ちなみにサウンドテーブルテニス(ここまで突っ込まなかったが……名称が長い)はボールを浮かさない。
転がす。
ネットの下を
最初のサーブだけはネットに引っかかると駄目で、確かに繊細な動作が必要ではある。
力を入れずただボールに、ちょん、と当てるぐらいで、ちょうどいい。
「よおし!」
うまくネットを
その後は長いラリーが続く。
競技者の近くに仕切りがあるのが、普通の卓球台と違う。ラケットをすり抜けて(ちなみにこの競技のラケットは、ラバーなしの
弱すぎず強すぎない、力加減が求められる。
まさに先輩は、そういうさじ加減がお手の物だ。
順応性抜群。
協調性は、偽造すれば
「たあっ!」
その日、最後の試合で、僕らは初勝利を挙げたのだった。
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