Fragment.5.0

業(ごう)


 パンプキン。


 十数年前、メジャーデビューを果たすと、心を揺さぶる独特のメロディーと、若者の現実感あふれる歌詞で、またたく間にスターダムに駆け上がった人気バンド。


 もう十年近く前、彼らは歴史あるTVゲーム、「物語」シリーズの名作の一つとタイアップした。(ちなみに「物語」シリーズは数年前に「大失敗」をやらかして、その汚点を取り戻せないまま、据え置きゲーム業界から尻尾を巻いて撤退した。シリーズは今では、スマホアプリに注力している。そして私はアプリゲームを、ゲームとあんまり認めない派である)


 パンプキンの曲では、私はこれと「ブラッド・ロード」の主題歌の二曲が大好きだが、どっちが一番と言われればこっちを取る。

 というか、全部で三曲しか知らないんだけどね。


 私はアニメ、ゲームとコラボしたメジャーな曲しか知らない、にわかファン。

 でもさ、にわかでもいないよりマシじゃない?

 


 で、この曲の中で心に響いた歌詞を、つまんで挙げると、


『一つのビー玉ころころ転がる、元居たビー玉、弾き出す

 一つ分の席には二つは無情にも入れない』


 印象に残る一節。

 ゲームのシナリオは主人公の女の子と、そのクローンの少女の物語。取り替えられて、何も知らされず恵まれた境遇で、ぬくぬく成長したクローンと、居場所から弾かれて落ちぶれて、泥をすすって生きるオリジナルの対比。

 二人がふとしたきっかけで巡り合う時、物語は動き出す。

 今でさえクローンは創作の題材によく使われるが、当時は革新的だった。

 涙なしでは見られないストーリーが胸を打つ。

 クローンの子の非業ひごうの最期には、影響をもろに食らって、数日気分がどんよりしていた。




 


 現実にはクローンは、国際社会で認められてなくて、


 私の席を奪いに来る「じぶん」はいない。

 「たにん」はやたら攻撃してくるけど。


 なんかつまらなくなったので、ステージ上の華美かびに飾り付けられた座席から、そそくさと目立たず舞台そでから退場しようと思った。

 三回……いや、四回。

 全部、引き留められてしまった。

 三回は愛する家族が手を引いて。

 四回目は異性として愛し、おそらく、愛されているだろう人に力づくで。

 そういうわけで、結局、私は今でも一人分の席を、無駄に占有している。

 けれど、私が退しりぞいても座る人はいないのだ。

 それで席が余るのは、なんだかもったいない。

 それなら、順番が来るまで休ませてもらおう。


 少し前とは違って、今は別にそれでもいいや、ってそんな気分。




 そうそう、言い忘れていたけど、このパンプキンの曲の名前は「ごう」という。

 まったく勘違いしていたんだけど、調べると業は悪い意味ではないんだってね。

 せっかくだから詳しく知識を得ようと、ネットの辞書サイトを開いたら、すごくややこしい説明がずらりと並んでいたのでやめた。

 目がちかちかして、頭が痛くなった。





 やがて、


 すごくすごく後になって、私の席を引き継ぐ者が現れるかもしれない。

 その時は、元気よく愛嬌あいきょうたっぷりに手を振ろう。


「よう、若いもん。やっと来たね。いやはや、お姉さんは待ちくたびれたぜ」


 その時が訪れるのが今から楽しみで、私はつい、にやにやしてしまうのだ。


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