また出逢う、その日を楽しみに
ふむ……
僕はノートを閉じる。
…………
「よし」
「ん? どうだった? 何が書いてあったんだ?」
「あの女、一発殴ろう」
「!?」
「いや、一発じゃ足らないな……、ぼこぼこのフルボッコだ」
「!?」
それで気が済むとは、
「ちょ、お前!? い、いったい、どうした!?」
どういう心境の変化だ。ちょっと貸して見せろ!
別に僕以外に見せるなという
独占欲はない、はず。
異様にもやもやするが。
「はあーーーー、まったくあのじゃじゃ
短い走り書きを読み終えて、祖父は
本当に……
なんなんだ。
なんなんだ、もう。
もし七年経ってもあなたが消息不明なら、これが
勝手すぎる。
ずっと付き合わせる気なのに、恋人は無理とか。
こっちは好きになりかけて、いやもう大分、好きになっていたのに。
はあ、もういいや……。
宣言が
むくむく湧きだした怒りのおかげで、落ちていた気持ちは、フラットに戻った。
むしろこちらとしても、変なわだかまりがなくて、せいせいする。
『……強がりさん』
そんな
残りの二つのパンフレットを開く。
一言ずつ、コメントがあった。
打ち上げ花火には、
『私は一時の輝きで散る、花火にはならんぞ!』
鬼殺しには、
『王道など私には不要、
意味深なのか、何も考えてないのか分からない格言(?)だった。
あと使い方が微妙……、いや全然なってない。
蛇の道は、「蛇の道は
「「…………」」
二人して無言になる。
とても、いたたまれない……。
「お、おほん。……机の上の真ん中に分かりやすく、この三つが置いてあった」
「お前さんとの『でーと』の自慢で、家族皆にこれ見よがしに『あぴーる』していたから、よく憶えている」
三つ。
「炎トカゲ」のノートと二つの映画のパンフレット。
僕と彼女が共有した時間において、たった三つの確かな物的証拠。
逆にそれ以外には、もはや彼女と過ごした「しるし」は、ない。
それをあえて、分かりやすく、置き残した意味はなんだろう。
文面を見る限り、予期していない事態のため、まさに今回のような時のための置き書き。
何らかの事情があったとして、「さよなら」のメモくらい残せなかったのか。
それをしてはいけない「ルール」でもあったのか。
それとも僕という存在は、そこまでするに値しないと判断されたのか。さざ波立たぬ心で、ただ無言に
僕との交じりがあった、すべての記録をまとめて残して置いていく。
僕との関わりを解消すると宣告するかのように。
別れ際、お爺さんはあることを教えてくれた。
彼女の自室の部屋割りについて。
彼と孫の私室が隣同士だったのは、自殺防止のためだった。未遂を繰り返した、彼女の自身の命への価値評価は地へ落ちていて、周りの人間がすぐに異常に気付けるように、家族と部屋を隣にしたそうだ。
消息を絶った前夜、彼女の部屋から一切、物音はしなかった。
今思い返せば、不自然なほどに。
「わしは思うんだよ。加奈ちゃんは『いせかい』に行ったんじゃないかって。加奈ちゃんのお気に入りの本を、わしもここ数年読ませてもらって、『てんせい』『てんい』が今
この世界は、あの子にとっては
「家族の欲目かのう」
肯定か否定を求めているか分からない問いに、僕は、
「それはお前さんが持っとけ」
「いいんですか?」
「いい。また息子らには日をおいて、見せようと思っとる。何たって実の親だからな。わし以上に回復に時間が必要だ。特に直美さん、あの子の母親にはな……」
あなたは……もう大丈夫なんですか。
彼はその問いには答えない。
「暇な時に遊びに来い。また将棋を指そう。まあ、辛いだけかもしれんが……」
「いえ、ぜひお邪魔します」
辛いのはお互い様だ。
そうか、と分かれの合図に杖を持ち上げて、
彼はかなりの距離を、彼女のいない自宅まで歩いて帰っていった。
「たまには運動せんとのう」
今も見つかる手掛かり一つさえない、失踪者たち。
彼らがどこへ行ったのか。警察も何も
外国へ売り飛ばされた。
自発的に日本を
国内で違う人間になって、平凡に生きている。
殺されて、死体を
自ら死を選び、ひっそりと土に還った。
そのどれでもなく、もしかしたら、
ここではない、どこか違う世界へ旅立ったのかもしれない。
さあ、どうだろう。
「またね」
彼女は別れ際、そう言った。
彼女は嘘が嫌いだ。
人を
良くも悪くも、正直であった。
嘘をつくのは、大きな力がいる。
隠し続ける
彼女はその力がなかった。
まったく。
これっぽっちも。
そこから逆説的に導かれるのは、彼女が語ったのは、すべて真実という解。
それならば、信じて待とう。
いつか再会するその日を。
それを心待ちにして、僕はこの世界で生き続ける。
そうそう、
僕らが暗殺しようとした首相は、続出する不祥事を
やりましたね、
殺せましたよ、
そんな一報を伝えたいから、早く戻ってきて下さいね。
お小言、
(了)
↓
↓
↓
↓
お目汚しで、
よろしければ、どうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます