Unlost Memory

 君がこれを読んでいるということは、私はもうこの世界にはいないのでしょう。

……

……

……

 なーんてね。嘘だよーん。

 一回このセリフを、言ってみたかっただけ。

 月路クン、怒ってる? 

 カンカンに怒ってるよね、きっと。

 まあそこは、お姉さんの可愛いおふざけってことで、どうか許してやってください。

……お願い、許してね……?




……そもそも、この文章を君に見せる気はないんだ。けど、もし想定外の事態で私が君に伝えたいことがあっても、それをできる余裕がなかった時のために、この思い出のノートに私の考えを記しておきます。

 君にも家族にも、誰にも言えないお腹の中で、色々思っていることを書き殴った別口の文章は、絶対処分してから死にます。

 正直、そっちの方が優先事項は高いです。

 あれを見られたら恥ずかしくて、死んでも死に切れんです。



 死ぬ死ぬ連呼れんこしちゃったけど、私は当分死ぬ予定はないから、安心してください。

 お父さん、お母さん。

 お爺ちゃん、お兄ちゃん、海斗。

 そして、月路クン。

 私を生へしがみ付ける呪縛じゅばくは、さらに強くなっちゃった。呪縛だと言い方が悪いから、きずなね。他の人たちはさらに友人や学校、職場などのコミュニティの絆が多いから、おいそれと「死ぬ」なんて考えが思い浮かばないんだろう。

 私もそういう絆を一つ一つ作っていって、死から遠ざかっていけたらなって思う。

 何より、君にもう𠮟しかられたくないからね。



 君は特別な人だ。



 私の人生で最初の「人質」だった上に「共犯者」なんだぜ? 今後、人質を取る予定はさらさらないから、君は私の唯一無二ゆいいつむにの存在なんだ。

 光栄に思ってくれい。


 あんなにも直球で、私の心にぶつかってきた人も、初めて。

 直球過ぎて、穴が開くところだった。

 全然、大袈裟おおげさじゃないよ。

 私の、目いっぱい、素直な気持ち。




 と、いろいろ期待させておいて、ここで一つ残念なお知らせです。

 まあ君にとっては、朗報かもしれないけど。

 

 おほん。え~、


 私、飯島加奈いいじまかなのビジョンには、高橋月路たかはしつきじと恋人を経由して、家族になるエンディングはありません。


 キスもしてない、というか告白以前の状態でずいぶん気が早い話だけど、このままの関係を継続するうえで、改めて自分自身にも言い聞かせておく。

 君にとって私をめとるメリットはとても少ない。

 私が君の伴侶になって、貢献できるとは思えない。

 結婚は損得勘定じゃないと人はいうけど、やっぱりお互いに支え合えることが前提だと思う。

 君はきっと私を助けてくれるだろうけど、私はきっと君を助けられない。

 私たちのちょうどいい距離に比べて、恋人っていう距離は近すぎる。ましてや結婚なんて問題外だ。

 だからこれからどんなに私たちが同じ時間を共有して、どれだけ好意的な感情をお互いに抱いたとしても、そういう仲になることはありません。


 ごめんなさい。





 月路クン。

 高橋月路たかはしつきじくん。

 君に求めることは、ただ一つです。

 君には私を生かした責任を取って、私のながーい暇つぶしに、思う存分、嫌と言うほど、嫌って言っても、付き合ってもらうつもりだよ。

 せいぜい覚悟してくれたまえ。


 私を楽しませて、

 私を飽きさせないで、

 私を、死なせないで。



 


 じゃあ、これからもよろしく!

 ではでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る