わめき
飯島先輩は興奮してきた勢いそのまま、ぱくぱくぱくと食事を終える。慌てて食べるペースを上げる僕に、お構いなしに唐突に聞いてくる。
「ねえ、今の日本の首相ってどう思う?」
「どうって……」
僕は一度食べる手を休めて、一呼吸間を開けて思考をまとめる。
「任期が長いことしか誇れることはないですね。それも長いだけで何もしてないっていう裏返しですし。政権も不祥事ばかり起こして、でも支持率は下がらない。後世に残る首相でしょう。悪い意味で」
「だよね! だよね!」
僕の率直な意見に、彼女は水を得た魚のように喜ぶ。
「民正党が政権交代して、ノウハウもない行き当たりばったりの運営で、期待外れでがっかりしたのは分かるよ。でももう少しチャンスを与えるべきだった。失敗してもそれをばねに次の成功に生かす。そんな当たり前のチャンスを。自分たちで選んだんだから、責任を持たないと」
「自万党は『何本の矢』で財政出動して、国債発行しまくって経済を回したけど、借金はどんどん後の世代に積み重なる。結局、今でも矢が何本あるか明言してないし。文書改ざん、ブツカケ問題、政治資金汚職。何回失敗しても許してる。どうして? 民正党の一度だけの失敗の時は厳しく糾弾したのに。もう諦めてるんだ。どの政党が国の政治をやろうと、自分たちの生活は何も変わらない」
「本当に覇気のない国民だよ、日本人は。これだけ生きづらい、辛すぎる社会なのに、おかしいと声を上げる人が少ない。ぶっ倒してやる気概がない。寛容といったら聞こえはいいけど、外国だったらここまでの状況になったら、若者たちが不満を訴えるデモが各地で起きるはずだよ。MeToo運動もグレダさんの時も、ブラック・マターの時も、日本では街頭デモはほとんど起きてない」
「国民性なの? 他の国だったら、この国は
でも日本は一人の首相が七年以上、その座に居座ることを許容している。問題だらけ、どっろどろの黒糖より甘苦しい見苦しさなのに。まあ彼はお飾りかもしれないけどね。本当は有能な黒幕がいてほくそ笑んでいるかも。
『しめしめ。操りやすい国民め。本当に馬鹿だな』って。
それでも、お飾りでも首相なんだから。暗殺したらすごいインパクトだよ。そう思わない?」
「正しいことをしようと決意して、正義を貫いて。そういう人ばかり殺される。キング牧師、リンカーン、ケネディ。あはっ、アメリカばっかり。自由の国ってそーゆー意味なのかな。気に食わなければ、殺しちゃっていいよていう自由。
なのにトランペットや北の首相は誰も殺してくれない。トランペットが大統領になった時、この世の終わりだって多くの文明人は嘆いた。私は世界が終わってしまうくらいなら、トランペット一人の命を犠牲に世界を正してくれよと願った。でも誰も行動を起こそうとはしなかった。それから四年経って一期目が終わるけど、どこも相当ひどいことになっているらしい。社会からけっこう隔絶してる私は蚊帳の外だけど。
政治から常識的なモラルもルールも失われた。大国や偉い人が好き放題やっているなら、我々もいいじゃんという空気。もう完全に手遅れだと思うけど、でも行動しないよりはましだよね?」
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