Fragment.3.2

積極的に逃げる


 私の通っていた小学校は高学年になると、男子は野球、女子はソフトボールに

 季節は初夏、気温がぐんぐん上がる頃だ。当時は既に熱中症の症例は増えてきてたけど、炎天下で肌が真っ黒になるのもおかまいなしで練習した。

 私の町内は女の子の人数が少ないこともあって、私は四年生からレギュラーで試合に先発した。二番・ライト。バントなどの小技は難なくこなしたし、非力だけど球にミートさせるのは簡単だった。ピッチャー返ししかできなくて単打ばかり、運が悪いとピッチャーに捕球されたけど。

 結局その年は決勝まで進んで、勝負は延長戦までもつれ込んだ。大量点を取られた後に、私を含めた連続ヒットで一点差まで詰め寄ったけど、負けた。

 五年生からは、私はピッチャーになった。誰もやりたがらないので、コーチ(やる気が溢れる保護者代表)が適当に指名してきた。六年生の二番手扱いだったが、けっこう投げさせられた。なんとなくの流れで六年生はエースになった。

 大会では変化球はなしと決まっていたそうだ。ピッチャーは撃たれるだけのマシンというわけ。誰がやっても問題ないわけだ。私の握り方だと球が微妙に変化するらしく、クラブチームに入っている生意気な下級生にいちゃもんをつけられた。私は苦労して気を使って、球を変化させない努力をした。

 結局、五、六年生ともベスト八、四くらいまではいったと思う。あまり記憶に残っていない。

 記憶に残っているのは、

 練習がある日は朝からやだなあ、行きたくないなあという憂鬱感。

 メンドクサイ、早く終わってくれ。

 家で本を読んでいたい。

 試合では私のせいで負けたらどうしよう、プレッシャーで息が苦しい。

 大勢の人に見られてる。恥ずかしい。

 野次を飛ばさないでほしい。死んでほしい。

 浮かび上がってくる感情に栓をして、表情を消して、動揺を抑える。

 活躍できようが、嫌な嫌なことには変わりない。


 「やらない」と言うなんて「方法」があると親も誰も教えてくれなかった。

 「参加しなければ死刑」なんて別に明文化された法なんてなかったんだから、やらなければよかった。

 大人になってから気づいて、なんてアンフェアなんだといきどおった。

 悔しい悔しい悔しい、悔しい悔しい悔しい。

 悔しい悔しい悔しい、悔しい悔しい悔しい。

 やる権利があるなら、ちゃんとやらない権利もセットで用意してくれないとおかしい。やらないことが、逃げることが悪いみたいに言われる。


 私のいたコミュニティの人間は、みんな私を異物と断じる。

 「おかしい」「キモイ」って。


 私はおかしくない! 気持ち悪くない!


 いや本当は分かってる。私はおかしいし、キモイ。

 それは別にいい。百歩譲って別にいい。

 問題はおかしいと断じておきながら、正しく生きるように強制してくることが我慢ならない。私を別の人間に変質させよという要求だ。


 おかしい、おかしい決めつけるなら、そのままおかしく生きさせて!

 私がそのまま生きていることが、罪のように思わせるすべてが嫌い! 


 私はこれからも道理がおかしい筋が通っていない場所、理不尽な物事からは積極的に逃げる。それは普通じゃない、おかしいらしい。

 別に構わない。だって私は「おかしい」んだから。

 その後で、私を糾弾してくる奴には言ってやるんだ。

 あなたは「おかしい」って。

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