Fragment.1.0

 生物が子孫を残すには、多くの種で雄と雌との交尾が必要になる。

 しかし、地球最高の知的生命体である人間にはそれさえ必要ない。要するに卵子に一つの精子が到達すればいいのだ。後は試験管で培養すればいい。

 ここから導かれる結論として、もはや人間の生殖本能、生存本能と、愛だの恋だのといった浮ついた感情は別物だということだ。

 そもそも性交は暗闇の中で秘密裏に行い、口に出すのは恥ずべきこととさえ認識される。一方でその結果の出産、赤ん坊の誕生が光の下で祝福される矛盾を、私は昔から不思議に思っていた。

 子供は欲しくないけど、お互いを好きあうカップル。

 跡継ぎを残すために、好きでもない相手とセックスする夫婦。

 快楽を得るためだけに情交を繰り返す獣たち。

 愛の形は千差万別せんさばんべつ

 私は同性愛、両性愛を否定しない。そのような愛は確かに存在する。

 だが、恋愛が子孫を残すためのただのプロセスなら、そのような愛は必要ない。種の存続に、まったくの無駄であるからして、真っ先に選択肢から排除されるはずだ。


 そして恋愛という熱に浮かされない人間も必ず存在する。

 私は男の子に惹かれたことはない。女の子にも。

 私に好意を寄せてくる異性は多かった。だが私にはその熱量、熱病が理解できなかった。

 別に構わないと思っていた。むしろ好都合だと喜んだ。恋愛に興味がもてないから人嫌いなのか、その逆なのかどっちが先かは分からない。私の世界は一人で完結していた。

 でもある日、つまらないなあ、と思った。

 空しいなあ、と感じてしまった。

 せっかく一人の女として生を受け、同性が羨む恵まれた容姿を持ちながら、喪女もじょのまま老いるなんてもったいない。面白くない。

 一度でいいから男の子を手玉に取りたい。意識的にこの体を使って、セ、セクシーに誘惑できるだろうか……

 私は本当に恋愛に無縁の女なのだろうか。

 私にはぴったりくる愛の形はないのだろうか。

 私はどんなセックスが好みなんだろう。

 これはその最終確認。



 ある夏の終わり、私は一人の可愛い男の子を人質にした。

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