第五章

Fragment.3.0

平等じゃないたった一つの命


 ねえ、君は命の重さは同じだと思う?

 私は今、綺麗な蝶を握り潰したけど、別に警察はやって来ない。せいぜい目撃した人は眉をしかめるだけ。「問題」にならない。

 じゃあ、あそこで日向ぼっこしてる猫ちゃん。あの子を振り回して投げ飛ばして、打ちどころが悪くて死んじゃった。現行犯だと動物虐待の罪でしょっ引かれる。でも内緒でしかも一回しかやらなかったら、警察の捜査は動かないんじゃないかな。労力の無駄だって。

 でも、そこのブランコで遊んでいる子を誘拐して、殺して遠くの遠くの山の中に埋めて、証拠も完璧に隠蔽いんぺいしたらどうだろう。すると警察はたった一つの命のために大掛かりな捜査を開始して、新聞でも取り上げられて、きっと私は簡単に捕まっちゃう。で、十数年刑務所行きが確定する。


 人間だから? 人間にとって、人間の命は重い?

 だけどそれってすごーく自分勝手だと思わない? 傲慢じゃない? 要は「俺たちはこの地球の支配者だ。だから申し訳ないけど、俺たちが生きるためには君たちには犠牲になってもらうから」って一方的に宣言してるんだよ。


 既に人類の衰退は始まってる。自分たちで地球を破壊して、その代償に日照りやら大雨やら森林火災やらで、毎年大勢の人が命を落としている。住処を失ってる。そうして人間は徐々に数を減らして、いつか地球の支配権は他の種族に受け継がれるんだ。

 けっこう前に見たテレビ番組ではカニが次世代の知的生命体らしいんだけど。木の上をね、器用に飛び回ってたよ。受けたね、あれは。

 で、別にどの生物でもいいんだけど、次の支配者は人間のことなんか、考えない。

よくて絶滅危惧種のための生息地を用意する、普通なら生きるも死ぬも無視だろう。最悪は滅ぼされる。

 人類は主張する。「我々は人間だ! ちゃんと人並みに扱ってほしい!」人並みって。自分で言ってて、笑えてくるけど。クスクス。

 そしてカニは言うんだ。「我々はカニだから、君らをカニ並みに扱う。今まで人がカニを扱ってきたのと同じように」

 どうか食用としてだけは繁殖させられませんように、って一緒に祈ろうね。






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