第229話 良いの! お父さんの話、いつ聞いてもワクワクするもん!
「・・・こうして、お父さんはサタンを相手に、無傷で圧勝しましたとさ」
「お父さん、すごい!」
「ウフフ。もう、悠ってばこの話何度もしてるでしょ?」
「良いの! お父さんの話、いつ聞いてもワクワクするもん!」
子供用の寝室で、楓は悠に奏がイスラエルとロシアでの最終決戦について語り終えた。
その話を聞くと決まって悠は興奮してしまう。
最終決戦から3年が経過し、早熟な悠は年齢の割に賢く、かなり喋れるようになったのだが、英雄譚が好きなのは年相応らしい。
また、寝る前に色んな話を聞きたいと楓や奏に強請るのも年相応と言えよう。
今日は楓の番で楓は好んで奏の話をする。
悠も奏が活躍する話が大好きなので、win-winなのだ。
そこに、奏が茶髪でパジャマを着た幼女を抱っこして部屋に入って来た。
「あら、葵。お父さんに髪乾かしてもらったのね?」
「うん・・・」
葵とは、悠と年子の妹である。
現在、2歳のエルフで顔は楓に似て目だけが奏に似ている。
葵は疲れてしまったのか、今にも寝てしまいそうだった。
「じゃあ、そろそろ寝る時間だよ。悠、葵、おやすみなさい」
「おやすみ、悠、葵」
「「おやすみ~」」
悠と葵が仲良く並んでベッドに横たわると、すぐに2人は寝息を立て始めた。
元から眠そうだった葵だけではなく、さっきまで興奮して眠れなさそうだった悠もすぐに寝てしまった。
2人の寝つきの良さは間違いなく奏の遺伝である。
寝ることに対する拘りが子供にまで影響を与えるあたり、奏の遺伝子が仕事し過ぎである。
その後、静かに部屋から出た奏と楓は自分達の寝室に向かった。
「なんの話を聞かせてたんだ?」
「奏兄様がアスモデウスとサタンを倒した時の話です」
「またか。悠はその話が好きだな」
「男の子ですから。それとは正反対で葵は奏兄様と私が出会う話が好きですね。女の子ですから」
「まあ、そんなもんか」
楓の言い分を聞き、男の子が戦う話が好きで、女の子が恋愛の話が好きなのは妥当だと奏は納得した。
楓の奏の呼び方だが、3年前から少しだけ変わった。
悠と葵がいない時は奏兄様と呼ぶのは同じだが、悠と葵がいる時はお父さんと呼ぶようになった。
きっかけは、悠が奏を奏兄様と呼ぶ楓にその理由を訊ねたからだ。
結婚した相手を兄様と呼ぶのはどうしてなのか。
こんな質問をされてしまえば、楓は呼び方を変えざるを得ない。
もし、そのままでいれば、悠が葵と兄妹で結婚する物だと勘違いしてしまうと思って呼び方を変えるしかなかったのだ。
勿論、悠は年齢の割に賢いので、兄妹では結婚できないと聞かせればわかってくれるだろう。
だが、万が一他所の子と悠が話すような時が来たとして、常識破りな発言をしては恥ずかしいと考えた楓が奏の呼び方の使い分けを始めた。
変化と言えば、最終決戦からの3年間でいくつもの変化があった。
まず、神々の話からだが、天照はサタンを倒したことで復活した。
天照は復活した後、戦後処理で伊邪那美の手が回らなくなり、月読と迦具土を連れて天界に帰った。
当然、月読は奏に対してやらかした罰により、天界のトイレ掃除と伊邪那美の仕事の下請けを両立させている。
ヘラに関して言えば、奏と楓の愛が本物だと判断して安心して天界に戻った。
というよりも、神器になったゼウスが回収されたと知ると、奏と楓に
カーリーは地球でモンスターとの戦いが終わるや否や、あっさりと天界に帰って行った。
平和な地球に興味はないらしく、毎日天界のコロシアムで暴れている。
そして、バアルだが奏と並んでモンスターとの戦いを終わらせた立役者の1柱であるため、戦後処理が免除されており、双月島に唯一残った神となっている。
今は、双月島の守り神として降臨しているだけでなく、悠や葵と遊んだり、奏と一緒にルナやサクラと空の散歩に出たりとのんびり過ごしている。
次に、奏達の周囲の変化についてである。
響は今、がっつりニート生活を満喫している。
残念ながら、3年で文化水準が
かといって仕事がある訳でもないので、惰眠を貪ったり、奏に【
その一方、紅葉はルドラと結婚した。
最終決戦後、何回かデートを重ね、少しずつお互いのことを知っていった結果、ルドラと結婚することになったのだ。
昨年結婚し、今はルドラとの間にダーシャという女の子も生まれている。
ダーシャは紅葉に似た顔だが、目と髪の色はルドラのものを受け継いだ。
ダーシャという言葉は、見ることや認めること、ビジョンを持つことという意味のヒンディー語だ。
それに加え、紅葉は【
奏が楓と付き合い、結婚するまでは奏を異性として好きだった紅葉だが、今ではすっかりルドラと夫婦になっている。
余談だが、ルドラはカーリーがいなくなったことで生き生きしており、今では鼻歌交じりに率先して育児を手伝っていたりする。
ルナ達従魔については、3年前から変わらずに神殿内部か神殿の敷地に住んでおり、それぞれの主と仲良くしている。
ルナとサクラは、種族は違えど悠や葵の姉であるという自覚があるからか、奏や楓が2人の面倒を見られない時は、喜んで遊び相手になる。
ピエドラも、ルナやサクラと同じで、普段からダーシャの遊びになっている。
ダーシャは顔文字だけで喋るピエドラが面白いらしく、ピエドラといる時はいつも笑顔だ。
アランは響と似ており、絶賛ニート生活に入っている。
働きたくないでござると前々から口にしていた通り、惰眠を貪ることを至福として日々をのんびり過ごしていた。
双月島の住民達は安全と衣食住が担保されたことで、安心してそれぞれの役目に従事している。
ユラは漁師、カグラとシュウはバンド、リック達は農家、ニャルルは職人として、毎日が楽しそうだ。
双月島の外についてだが、これは少しずつではあるものの確実に復興の道筋にある。
ところが、国連安保理常任理事国はモンスター討伐で後れを取ったため、残念ながら復興速度が遅い。
特に、被害の大きかったアメリカ、中国、ロシアの復興はかなり遅れている。
正直なところ、マンパワーに物を言わせたいところだ。
だが、物資がなければ急速な復興は難しく、戦後に価値を発揮する冒険者の数が限られているせいで、復興に時間がかかる。
その一方、最初にモンスター討伐率を100%にした日本は世界でも他国の追随を許さない先進国になった。
それだけ奏の活躍が凄まじく、人的被害が少なかったのだと言えよう。
終盤にダンジョンが発生した5つの地域が復興の中心地となり、今では江戸時代ぐらいの文化水準に到達している。
ちなみに、奏は復興に一切手を貸していない。
これは、奏が面倒臭いと助力を拒んだからではなく、天界の神々から力を使わないでほしいと頼まれたからだ。
奏の【
だが、それは奏に全てを依存することに直結して世界が堕落してしまう。
そんな展開は神々が望むところではないので、世界では生存者達が協力して文化水準の向上に力を注いでいる。
では、奏は何をしているか。
世界樹の管理と双月島の統治である。
世界樹があれば、魔界からの侵攻を防げるだけでなく双月島でもバアルが神としての力を使えるのだ。
双月島の統治は、自分が住む楽園を楽園たらしめるために必要な仕事だと言える。
楓は育児をする傍らその手伝いをしている。
こうして世界は少しずつ先へと進んでいるのだ。
さて、奏達が寝室に戻ると、楓が後ろ手にドアの鍵を閉めた。
そうすると、楓のスイッチが切り替わる。
「奏兄様~!」
「おっと」
奏をベッドに押し倒すべく、楓が奏とベッドに一直線に並んでからダイブした。
毎晩楓が奏を押し倒すものだから、最近では奏がダイブした楓をキャッチしてそのままベッドに優しく座らせられるようになったのはここだけの話だ。
「エヘヘ、奏兄様の匂いです~」
楓の顔は、すっかりデレデレになっている。
「よくもまあ毎晩ダイブするよな」
「奏兄様なら私を受け止めてくれるって信じてますから」
「そりゃ受け止めるけど」
「今晩こそ寝かせませんよ」
「・・・それだけは勘弁して」
どんなに強くなっても楓には敵わないし、寝ることを重視する姿勢は変わらない奏だった。
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