第228話 万死に値したり、戯れたり、情緒不安定だな。精神科行けよ
光が収まると、紅葉達の上空からゆっくりとサタンが降臨した。
その姿は、皇帝が着るような立派な服を着た人型の悪魔だった。
しかし、ダンタリオンや他の悪魔と違い、サタンは翼が6枚背中から生えており、手には悪魔の翼を模したロングソードを握っていた。
降臨した瞬間から、紅葉達には普段の何倍もの重力がかかっているかのように体が重くなり、立っているだけでも疲れて来た。
だが、そんな疲れよりも、紅葉達にとって恐ろしいことは、サタンの顔が紅葉達の良く知る顔だったことだろう。
サタンの顔は、奏と瓜二つだったのだ。
「なんで!?」
「奏ちゃんの顔・・・」
「意味がわからない」
サタンが奏の顔とそっくりなことは、紅葉達の戦意を余計に喪失させた。
ちなみに、サタンの見た目は召喚された場所にいた者が最も強いと思っている存在がトレースされる。
つまり、紅葉達の中では奏が最強というイメージが固まっているのだ。
その事実を知らなくとも、こんな大がかりな召喚をされたのだから、ダンタリオンなんかとは比べ物にならない程の強敵であることは容易に想像できる。
だが、それが力の底が知れない奏と同等ならば、自分達に勝ち目はない。
そのせいで、紅葉達は固まってしまった。
しかし、そんなことはサタンにとってどうでもよく、適度に紅葉達を見下ろせる位置まで降下すると、召喚陣が消えてサタンが空中に留まった。
そして、大きな欠伸をした。
「
(((お前も寝るのが好きなのかよ!?)))
紅葉、響、ルドラの感想がシンクロした。
奏の見た目で寝るのが好きだなんて、更に奏に近い存在にしか思えない。
紅葉はその共通点に賭け、口を開いた。
「寝たいのなら、元の場所に戻って寝たら? 迷惑な召喚者の方は、私達がきっちり倒したからさ」
「であるか・・・。だが断る」
「なん・・・、だと・・・? サタンがそのネタを知ってるなんて・・・」
「何を言ってる? まあ良い。余の手間を省いたことには感謝するが、余の行動を貴様に指図されるのは至極不愉快だ。死ね」
スッ!
「危なっ!?」
ゴォッ!
紅葉を狙ってサタンが飛ばした斬撃は、紅葉達の正面に転移した奏の【
「奏君!」
「奏ちゃん!」
「奏!」
ベストタイミングでこの場に来てくれた奏に、紅葉達は感謝してもしきれなかった。
「奏兄様、支援します。【
楓がスキル名を唱えると、ラッパを持った天使達が天から舞い降りて、奏達を鼓舞するようにラッパを吹いた。
ラッパを吹き終わると同時に、天使達は消えた。
「ふむ。貴様、余と同じ顔をしてるな。気に食わぬ。死ね」
ススッ!
「死ねと言われて死ぬ馬鹿がいるか?」
キィン!
サタンが2回剣を振るうと、十字を模った斬撃が奏を襲った。
しかし、奏は天照でそれを弾き返した。
「ほう。小手調べとはいえ、常人なら瞬きする間に殺せる斬撃を弾くか。面白い」
「こっちは全然面白くないんだけど? ルナ、頼む」
「は~い。【
ピカッ。
ルナがスキル名を唱えると、翠色の光がその場を包み込んだ。
光が収まると、そこには髪が翠色に、目は金色になった奏の姿があった。
「ふむ。実に面白い。神獣を纏うか。気が変わった。余と戯れることを許可しよう。【
スパパパパパァァァァァン!
「【
ピカッ、ドガガガガガガガガガガァァァァァン!
サタンが放った無数の斬撃に対し、奏は一撃でそれらを相殺してみせた。
爆炎により、奏の前方が見えなくなっているが、サタンは奏に攻撃を仕掛けなかった。
爆炎が収まると、サタンは笑い始めた。
「クックック・・・。フハハハハ・・・。ハーッハッハッハ!」
「・・・紅葉、あれが本物の三段笑いだぞ」
「奏君! わかったから前を見て! 後でいくらでも聞くから!」
戦闘中に自分に首だけ向ける奏に対し、紅葉は慌ててサタンから目を離すなと叫んだ。
勿論、奏だって気を抜いてる訳ではないので、すぐにサタンの方に向き直った。
「いやぁ、愉快、愉快。余のスキルを止めるとは、貴様、なかなかにやるではないか。褒めてやろう」
「別に、お前に褒めてほしいとは思ってないから」
「不敬な奴め。余はサタン! 幾千、幾万のモンスターの頂点たる余にその態度とは、万死に値する! 【
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォッ!
サタンがスキル名を唱えると、暗雲を割って月が地球に墜落して来た。
「ハッハッハ! どうだ!? 貴様を倒すため、わざわざ月と同じだけの質量の惑星を創って落としてやったやったぞ!」
「ありがた迷惑だ! 【
ズズズズズッ!
天照が紫色のユラユラしたオーラを帯び、それによって刀身がぐーんと伸びた。
そのまま、奏は思いっきり天照を振りぬいた。
スパパパパパァァァァァン!
地面に墜落する前の月を一刀両断すると、真っ二つになった月はすぐに亜空間に収納された。
「ほう! 芸達者だな、貴様! では、これならどうだ?」
「いや、付き合うつもりないから。【
コォォォォォォォォォォッ、カキィィィィィィィィィィン!
いつまでも、サタンの戯れに付き合ってはいられないので、奏はサタンがスキルを発動する前に反撃した。
サタンはニヤッと笑った表情のまま、膨大な量の冷気に触れて凍った。
しかし、氷漬けになったサタンが発光し、すぐに全身を覆った氷を融かした。
「・・・貴様。余の服を濡らすとは、万死に値するぞ!」
「万死に値したり、戯れたり、情緒不安定だな。精神科行けよ」
「ケケケ、流石は奏! モンスターに精神科を勧めるとか、マジでお前は期待を裏切らない奴だな!」
奏の背後で、バアルが腹を抱えて笑った。
しかし、奏もサタンもバアルが爆笑していても気にせず、お互いにどうやって目の前の敵を倒すか考えていた。
「氷漬けには氷漬けだ! 【
ビュォォォォォッ!
「【
スススススッ、スパパパパパァァァァァン!
サタンが奏を包み込むように、吹雪で閉じ込めようとしたのだが、硬くて鋭い翠色の葉が無数に出現し、奏を中心に吹き荒れる嵐に乗って吹雪を消し飛ばした。
「あれ、ちょっと待って。ブフッ!? 【
奏が【
先程は自分が奏を注意したくせに、自分の琴線に触れるネタを耳にすると、どうにも我慢ができなくなるらしい。
なんとも都合の良い神経だと言えよう。
すると、サタンは紅葉が笑ったことを不愉快に思い、紅葉に問いかけた。
「貴様、何がおかしい!?」
「いや、だって、【
「その認識に間違いないが、何が言いたい?」
「そんな中二病の子供が叫んでいそうな技なのに、奏君に簡単に打ち消されるとか・・・。ブフッ!」
「m9(^Д^)プギャー」
今度は紅葉だけでなく、ピエドラまでサタンを嘲笑した。
まったくもって、仲の良い主従である。
つい先程まで命の危機にあったというのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことだろうか。
「貴様、不敬であるぞ! 余が至高! それ以外全てが下! それが世の常識であろうが!」
「どこの星の常識? そろそろ帰りたいから、終わらせるぞ」
「余と同じ顔だからって、生意気なことを申すなぁぁぁっ!」
「【
その瞬間、奏以外の全てが灰色に染まり、時が止まった。
「【
バチバチバチバチバチィッ!
これで終わりにしてやると言う思いが込められているせいで、天照に付与された蒼い雷が鋭く輝く。
「帰ったら極楽湯にゆっくり浸かろう」
そんなささやかな願いを口にすると、奏はサタンの前まで空の散歩をするように緩やか飛んで移動した。
そして、次の瞬間、奏は容赦なくサタンを滅茶苦茶天照で斬りまくった。
スパパパパパァァァァァン! ズドォォォォォォォォォォン! ゴォォォォッ!
斬撃、雷撃、劫火を一瞬でその体に受け、サイコロカットされたサタンの肉片がすぐには修復できないレベルで損傷した。
それでも、まだサタンの体が消滅しないので、奏は完全に消滅する態勢に移った。
「【
ゴォォォォォッ!
天照に翡翠色の嵐が付与され、サタンの肉片を消滅させる準備は整った。
スパパパパパァァァァァン! ゴォォォォッ! パァァァッ。
嵐を纏った斬撃と劫火を受け、サタンの肉片は完全に消滅した。
奏が【
それと同時に、最終決戦の終わりを告げる神の声が奏の耳に届き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます