第226話 さっさと負けフラグをへし折りに行きましょう!
紅葉達が大統領府に向かっていると、2本目の光の柱が遠くで出現した。
「迦具土、あれって何かしら? さっきもあったけど」
「わからんのじゃ。結界を展開するなら、光の柱なんて使わないのじゃ」
「結界?」
「可能性の1つなのじゃ。大技の中には、発動までの準備に時間のかかるものもあるのじゃ」
「大技で結界を作らないとすると、何かのカウントダウンとか?」
「そうかもしれないのじゃ」
迦具土も断定できないので、何か面倒そうなことが起き始めているのはわかっても、紅葉はどうすることもできないと考えるのを止めた。
だが、そこにカーリーがいることで事情が変わった。
「こりゃ、【
「知ってるのかカーリー?」
紅葉の役に立ちたくて、ルドラはカーリーに訊ねた。
「当然よ。ソロモン72柱のスキルは、バアルの次に詳しい自負があるっての」
「それで、【
「代償さえあれば、自分よりも格上の存在を召喚できるわ」
「じゃあ、あれは代償を払って召喚途中ってこか?」
「その通り」
「急いで止めなくちゃ。カーリー、助かった」
「お、おう」
ルドラに素直に感謝され、カーリーは照れ臭く感じた。
しかし、カーリーがその余韻に浸っている余裕は紅葉達にはなかった。
ダンタリオンが何を召喚するかわからないから、急いで倒す必要があるだけであるからだ。
そんなタイミングで、またしても紅葉達の進路を邪魔するように、デーモンノーブルが5体現れた。
「サラ、足止め!」
「オ任セヲ。【
ヒュン、ベチャッ! ズゥゥゥン!
5体のデーモンノーブルに何もさせまいと、ルドラはサラに指示を出した。
サラが放った特大の網に捕まり、デーモンノーブル達は地面に押し付けられた。
「オラオラオラァ! 【
ブンッ! ゴォォォォォォォォォォッ! パァァァッ。
《サラがLv99になりました》
オラ付いたルドラの攻撃により、デーモンノーブル達は抵抗できずに倒れた。
それにより、サラは経験値を独り占めしたことで、レベルアップを果たした。
「すみません、紅葉さん。勝手に行動しました」
「い、いえ、それは構いません。ありがとうございました」
戦闘時とは異なり、おとなしくなったルドラを見て、まだ慣れない紅葉は動揺を隠せていなかったが、お礼だけは言った。
そのタイミングで、3本目の光の柱が遠くで出現した。
ビィィィィィッ!
2本目の光の柱までは、ただ発生しただけだったが、今回は違った。
3本の光の柱の頂点が、光の線で結ばれて正三角形を模った。
空に現れた正三角形を見て、カーリーはの眉間に皴が寄った。
「あー、こりゃ不味いかもな」
「カーリー?」
「ダンタリオンの奴、触れちゃいかん領域に手を出してやがるわ」
「どういうことだ?」
「見ろ。あの正三角形だが、これで半分だ」
「半分?」
カーリーの言っている意味が分からず、ルドラは首を傾げた。
その一方、オタクとして神話やオカルト要素にも知識のある紅葉は、カーリーの言いたいことを把握した。
「六芒星、ですね?」
「ほう・・・。少しは知識があるか。褒めてやるわ」
「どういたしまして」
何様目線だと言いたくなったが、カーリーが神であることを思い出し、紅葉はそれを口にせずにお礼だけ口にした。
そんな紅葉に対し、ルドラは申し訳なさそうに訊ねた。
「紅葉さん、すみません。俺にもわかるように教えてもらえませんか?」
「わかりました。今、3本目の光の柱が出現したことで、正三角形ができました。この正三角形は、クレムリンを囲う円を想定した時、北を上と仮定すれば上向きの正三角形になります。ここまでは良いですか?」
「大丈夫です」
「カーリーさんは、これで半分と言いました。つまり、正三角形はもう1つ現れるでしょう。私が知る限り、正三角形が2つ使われて召喚陣を形成するなら、形作られるのは六芒星しか思いつきませんでした」
「なるほど。あと3本の光の柱が現れたら、六芒星が完成するんですね?」
「おそらくですが。そうですね、カーリーさん?」
「その認識で合ってる。紅葉、何が召喚されるか言ってみろ。もう、検討はついてんだろ?」
自分と同じ考えに行きついたことを評価し、カーリーは紅葉に花を持たせてやることにした。
「わかりました。私の予想が正しければ、サタンだと思います」
「その理由は?」
「六芒星とは、ユダヤ教のシンボルとなるマークです。ユダヤ教のシンボルを、モンスターであるダンタリオンが使って召喚しようとする存在なんて、ユダヤ教で出て来る魔王サタンしかいません。召喚されたら、このメンツだけでは負けるかもしれませんね」
「よろしい、合格だ。それと比べてルドラ、お前はもっと勉強しやがれ。そんなんだからお前は良いとこなしの童貞なんだよ」
「ほっとけ」
紅葉に正解だと告げたカーリーは、少しは紅葉を見倣えとルドラに毒を吐いた。
紅葉の前で童貞呼ばわりされたせいで、ルドラは殺意の乗った視線を向けた。
確かに自分は童貞だが、それをわざわざ好きな人の前で言わなくても良いではないかと思うのは当然だろう。
気まずくなった雰囲気を察し、サラが口を開いた。
「ソロソロ出発シテハ? オ急ギナノデショウ?」
「そうね。そうだわ。ルドラさん、急ぎましょう」
「・・・わかりました」
サラに便乗し、この場の空気をどうにかしようと紅葉がルドラに声をかけると、ルドラはカーリーへの怒りをグッと堪えて先に進むことにした。
気まずい雰囲気は、サラの健気な助け船により、とりあえず落ち着いた。
そして、紅葉達があと少しで大統領府に着くというタイミングで、やはり行く手を阻むモンスターが待っていた。
そのモンスターを見た途端、紅葉達は顔を顰めた。
何故なら、そこには無数の人間の苦痛に歪んだ顔が集合した肉塊が浮いていたからだ。
「ペインレギオンなのじゃ」
「碌なモンスターじゃなさそう、ね!」
ブンッ! グサッ! シュイン!
「ギィァァァァァァァァァァッ!」
紅葉がグングニル=レプリカを投げ、それがペインレギオンの中心を射抜くと、ペインレギオンが絶叫した。
その叫び声は、紅葉達のSAN値をガリガリ削るものだった。
だから、紅葉は本当は耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだったが、一気に勝負に出た。
「うるさい! 【
ゴォォォォォッ! ドガガガガガァァァァァン! パァァァッ。
ペインレギオンの断末魔の悲鳴を聞かなくて済むように、紅葉はド派手な威力の【
紅葉の目論見通り、ペインレギオンの断末魔の悲鳴は劫火によってかき消され、そのままペインレギオンは消滅した。
それと同時に、神の声が紅葉達の耳に届き、その途中からサラを中心に光に包み込まれた。
《サラはLv100になりました》
《サラは【
《サラはLv100になったことにより、進化条件を満たしました。これより進化を開始します》
《おめでとうございます。個体名:サラが、アラクネからアラクネクイーンへと進化しました》
《サラが<不老>を会得しました》
《サラの【
神の声が止むと、それから少しして光が収まった。
すると、サラが大型バイクよりも一回り大きくなって現れた。
青色をした髪と目に、肌色の上半身、下半身の蜘蛛の部分は髪や目と同じ色だった。
そして、どういう訳かサラの上半身には女王にふさわしいドレスが身につけられていた。
モンスターなのに、進化の過程でドレスを着るとは不思議である。
「主、進化しました」
「片言じゃなくなったな」
「はい。これで、主との会話もスムーズになります」
「そっか。良かったな」
「ありがとうございます」
サラの性格上、騒いだり元気に振舞うことはないが、それでも進化して今まで以上にルドラの役に立てるのは嬉しいらしく、サラの声は弾んでいた。
ところが、サラの進化が終わった時、紅葉達は4本目の光の柱が現れたことに気づくと、慌ててあと少し先の大統領府に向かって急いだ。
「さっさと負けフラグをへし折りに行きましょう!」
「はい!」
それから数分後、紅葉達は大統領府に到着した。
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