第225話 アークデーモンとは違うのだよ、アークデーモンとは!

 響達がサンクトペテルブルクに着いた頃、紅葉達もロシアのモスクワに到着した。


 ダンタリオンが最後に確認されたクレムリンを前にして、紅葉はニヤッと笑った。


「迦具土、ラスボスがいるのにふさわしい場所よね」


「はぁ。紅葉には困ったものじゃ」


「えぇ・・・、そういう反応しちゃう?」


 ロシアの今日の天気は曇天であり、まだ昼前だというのに夜と勘違いしそうな程暗い。


 そんな暗い場所に、城壁に囲まれたクレムリンを前にすれば、紅葉のテンションが上がるのも仕方のないことだ。


 だが、生半可な気持ちで挑み、足元を掬われては困るので、迦具土は困った顔をしたのである。


「紅葉、わかっておるのか? ロシアがダンタリオンの手中に落ちた今、ロシアに隣接する国の危機なのじゃぞ? この問題は、放置すれば他人事では済まぬ段階まで来ておるのじゃ」


「そうは言うけど、私達が必死に戦ってた時、ロシアの冒険者達は何をしてたのかしら? こっちが何ヶ国回ったと思ってるのよ」


「言いたいことはわかるし、ロシアが不甲斐ないという意見にも同意するのじゃ。けれど、ダンタリオンを舐めてかかってはいかんのじゃ」


「わかってるわよ。舐めプなんてしないで、最初からクライマックスぐらいの気持ちでやるわ。だから、こうしてテンションを上げてるんじゃない」


「それならまあ、良いのじゃが・・・」


 迦具土が心配そうな表情なので、紅葉はそれが気になった。


「迦具土、何を心配してるのよ?」


「バアルの発言が引っかかっておるのじゃ。紅葉とルドラ、ピエドラとサラ、我とカーリーがいても倒し切れない可能性があると言ったのじゃ。進化した人類が2人いて、ピエドラも2回進化しておるのじゃ。更に、神として復活した我とカーリーがいて倒せない可能性とは、ダンタリオンに何があるのか気になるのじゃ」


「そんなこと言ってたってしょうがないでしょ?」


「そうですよ。それに、何かあっても紅葉さんだけは俺が守ります」


「ルドラさん・・・」


 紅葉と迦具土の話に割って入ったルドラの顔は、既に覚悟を決めた者のそれだった。


「ケッ、私を使って戦ってた時にそういう顔しろよな」


「なんじゃ、カーリー? お主、紅葉に嫉妬しておるのか?」


「ちんまいガキは黙ってろ」


「ちんまいガキとはなんじゃ!」


 迦具土に自分の気持ちを読まれ、カーリーは悪態をついた。


 残念ながら、迦具土は復活してものじゃロリのままだったので、この言い合いのダメージは迦具土の方が大きかった。


「何そこで言い争ってんのよ。行くわよ」


「どうして我が注意される側になっておるのじゃ・・・」


 いつの間にか、立場が逆転していたせいで、迦具土はがっくりと肩を落とした。


 それはさておき、紅葉達はクレムリンの中に入ることにした。


 いつまでも、ここに立ち止まっていても仕方がないからである。


 しかし、クレムリンに入ろうとした紅葉達を邪魔するように、城壁の上にアークデーモンアーチャーの集団が出現した。


「敵出現! 数30なのじゃ!」


「ここは俺がやるぜぇぇぇっ! 【地獄炎宴ヘルズディナー】」


 ブンッ! ゴォォォォォォォォォォッ! パァァァッ。


 ルドラがラースヤクシャを横に薙ぐと、帯状の黒い炎が城壁の上に飛んで行き、アークデーモンアーチャーの集団を倒した。


「えぇ・・・、気性が荒くなるって言うか、もはや二重人格じゃん」


 ルドラの戦う姿を初めて見て、紅葉は顔を引きつらせた。


 ルドラの戦闘について、奏から話を聞いており、戦闘中は気性が荒くなることは知っていたが、それでも紅葉の予想を上回る気性の荒さだったのでドン引きしたのだ。


「プハッ、ルドラの奴、紅葉にドン引きされてんじゃねえか。ざまあ!」


 自分のために真剣な顔をしてくれなかったため、カーリーは根に持っているらしい。


 そんなカーリーを無視して、落ち着いたルドラは紅葉の方を振り返った。


「紅葉さん、終わりました」


「うーん、通常が好青年なだけあって、ギャップがすごいですね」


「はい?」


「なんでもないです」


 普段はおとなしく、自分に対して好きだという気持ちを隠さないルドラが、戦闘時のオラオラした感じを見せたことは、紅葉にとって小さくないショックを与えた。


 しかし、人の振り見て我が振り直せというべきだろう。


 紅葉だって、外見はモデル体型で顔も美人の部類に入る。


 それを帳消しにしてしまうオタク要素があり、残念美人なのは間違いない。


 だとしたら、残念美人の紅葉が二重人格気味のルドラに引くのはどうなのだろうか。


 案外、お似合いだと思う者もいるだろう。


 現に、響はさっさとくっつけと言ったりしているのだから。


 それはさておき、紅葉達は今度こそクレムリンの中に入った。


 すると、いきなり遠くの方で光の柱が出現した。


 そして、視界を前方に戻すと、いつのまにか各種アークデーモンの軍勢が現れ、一斉に攻撃を始めた。


「今度は私がやります。【緋炎円スカーレットサークル】」


 ボォォォォォッ! パァァァッ。


 緋色の炎が、紅葉達を中心に円を描いて広がる。


 その炎に呑まれ、各種アークデーモンの軍勢が倒れた。


《サラはLv98になりました》


「ふむ。アークデーモン程度なら、どんなに現れても問題なさそうじゃな」


「当然よ」


 戦利品の回収を済ませながら、紅葉は迦具土に応じた。


「へぇ、あの女やるじゃねえか」


「当然だ。俺の女神なんだから」


「ケッ、鼻の下を伸ばしやがって」


 ルドラが紅葉を褒めると、カーリーは不満そうな表情を隠さなかった。


 その後、紅葉達はクレムリン内にある大統領府を目指して進んだ。


 ダンタリオンがいるなら、クレムリンの中でも最も重要な場所だと判断してのことだ。


 その予想は当たっていたようで、アークデーモンよりも厄介なモンスターが紅葉達を待ち構えていた。


 血で染まったような体表をした悪魔が2体、両手に剣を持っている。


「デーモンノーブルじゃ」


「ほう、少しは歯ごたえのありそうな敵がいるじゃねえか」


「迦具土、デーモンノーブルって、アークデーモンと比べてどれぐらい強いの?」


「3倍は強いのじゃ」


「アークデーモンとは違うのだよ、アークデーモンとは!」


「一体何を言っておるのじゃ?」


「・・・コホン。なんでもないわ」


 響がここにいないせいで、自分のボケを拾ってもらえず、紅葉は寂しさを感じた。


「紅葉さん、右の奴は俺がやります」


「了解です。左は私がやります」


 役割分担を決めると、紅葉もルドラもデーモンノーブルに向かって駆け出した。


「先手必勝!」


「愚かな。【千刃サウザンドエッジ】」


 ススススススススススッ!


 紅葉が蜻蛉切・真を構えて突撃すると、紅葉が狙うデーモンノーブルが、その場で素早く両手に握った剣を振るった。


 それにより、次々に紅葉に向かって斬撃が放たれた。


「【金剛移動アダマントムーブ】」


 念のため、自分のVITを高めてから、紅葉は自分に向かって飛んでくる斬撃を受け流しながら前進した。


 スッ、キィン! スッ、キィン! スッ、キィン!


 避けられる斬撃は避け、避けられない斬撃は蜻蛉切・真で受け流しているのだ。


 そんな紅葉を見て、デーモンノーブルは【千刃サウザンドエッジ】で仕留めるつもりだったらしく、ムキになった。


「おのれ! 【千刃サウザンドエッジ】」


 ススススススススススッ! スッ、キィン! スッ、キィン! スッ、キィン!


 デーモンノーブルの攻撃も、2回目となれば慣れてきたようで、紅葉は最初よりも楽に回避しながら前進を続けた。


 そして、自分にばかり気を取られたデーモンノーブルに対し、終わりを告げた。


「ピエドラ、やっちゃいなさい!」


「(・o・)ゞ了解!」


 モグモグモグモグッ、パァァァッ。


 デーモンノーブルの背後に回ったピエドラが、【暴食進撃グラトニードライブ】を発動してデーモンノーブルを捕食した。


「ピエドラ、良いタイミングだったわ」


「( ̄ー+ ̄)どや」


 完璧なタイミングで、デーモンノーブルを倒したピエドラを響は褒めた。


 ピエドラも気分を良くしたらしく、ドヤ顔で応じている。


 紅葉がルドラの方を見てみると、ルドラが【海蛇突撃サーペントブリッツ】でもう1体のデーモンノーブルを倒したところだった。


「ふぅ。紅葉さん、おまたせしました」


「大丈夫です。私達も、今終わらせたところですから」


「なんだか、今のやり取りデートっぽいですね」


「・・・そういうことは、全部終わってからです」


「そうですね。頑張ります」


 紅葉に窘められ、ルドラは気合を入れ直した。


 その一方、紅葉は本当にルドラが自分に好意を寄せてくれているとわかり、頬が赤くなっていた。


 それはともかく、デーモンノーブルを倒した紅葉達は先を急いだ。

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