第222話 ほれ、奏。楓嬢ちゃんの期待に応えてやれよ
奏達は双月島を出発してから、イスラエルに到着した奏達は、あちこちでモンスターの群れを討伐し、残るは聖墳墓教会だけになった。
聖墳墓教会とは、ゴルゴダの丘というイエス=キリストが処刑された場所に建てられた教会で、イエスの墓があったとされている。
だが、今となっては、ダンジョン化してアスモデウスによって支配されてしまっている。
そんな聖墳墓教会の前では、吐き気を催す邪悪とでも呼ぶべき光景が奏達の視界に映った。
「あひっ、あひぃぃぃぃぃっ♡」
「壊れりゅぅぅぅぅぅっ!」
「んほぉぉぉぉぉっ!」
「ギャッギャッギャ!」
「ブヒィッ!」
「ふんっ!」
なんと、ボロボロで衣服を破り捨てられた女性冒険者達が、モンスター達に犯されていたのだ。
白目を剥いている者もいれば、頭が真っ白になって叫んでいる者もいた。
ダンジョンになった聖墳墓教会の正面で、そのような惨状が起きていた。
犯しているモンスターは、ゴブリンキング、オークキング、インキュバスロードといういかにもな種類の者達だった。
モブがキングやロードの時点で、アスモデウスの勢力が一般的な冒険者にとっては脅威でしかないことがわかるだろう。
「女の敵です。赦せません」
「俺がやる。【
歯を食いしばり、この惨状の元凶を倒しに行きたい気持ちを必死に堪える楓を見て、奏は世界の時間を止めた。
スキルが発動し、奏以外の世界が灰色に染まった。
スパッ、スパッ、スパッ、スパッ、スパァァァァァン! パァァァッ。
奏は天照を鞘から抜くと、奏達が来たことにも気づかず、ただ自らの性欲を満たすことしか考えていないモンスター達の首を次々に斬った。
その結果、聖墳墓教会の正面にいたモンスター達は、魔石とマテリアルカード、モンスターカードへと変わった。
【
「楓、彼女達のケアを頼めるか?」
「任せて下さい。【
楓がスキル名を唱えると、聖墳墓教会の正面一帯が、モンスター不可侵の浄化された聖域に変わった。
そのおかげで、モンスター達に侵されて汚れていた女性冒険者達の体が清められた。
しかし、このままではモンスター達に汚された事実は変わらない。
そこで、楓の新しい杖、カドゥケウスの出番となる。
カドゥケウスとは、ヘラが復活した時に楓が手に入れた杖だ。
この杖は、奏の天叢雲剣のように装備スキルを保持していた。
そのスキルこそが、この惨状をなかったことにできる【
【
つまり、モンスター達に犯されたという忌まわしい事実をなかったことにできるのだ。
楓は悲惨な目に遭った女性冒険者達のために、このスキルを使った。
「【
楓がスキルを発動すると、楓からMPがどんどん消費されていった。
時間を遡るという常識に逆らう事象を起こすのだから、それも当然の対価だろう。
30秒程経過すると、女性冒険者達の顔色が通常なものに戻り、体の傷等も元通りになった。
スキルの効果が終わると、楓が急激に膨大な量のMPを消費したことで、体のバランスを崩して倒れそうになった。
しかし、楓は倒れることがなかった。
奏が楓を受け止めたからだ。
「そ、奏兄様」
「お疲れ様、楓。よくやってくれた」
「エヘヘ。奏兄様に褒めてもらえました」
奏に褒めてもらったことで、楓は少し元気を取り戻した。
「あれだけのことをやったんだ。MPの消費も尋常じゃないはずだぜ。奏、ここはお前がMPを分け与えてやれよ。【
「大気中の気をMPに変換するやり方はわかるが、他人にMPを譲渡するなんてやったことないぞ? どうやってやるんだ? そもそも、ぶっつけ本番でできるのか?」
バアルが奏に対して、楓にMPを分け与えてやれと言うが、奏はそのやり方を知らない。
だから、奏はバアルに方法を訊ねた。
「ん? 簡単じゃねえか。取り込んだ気をMPに変換したら、MPを与えたい相手に触れて息を吐くようにして流し込むんだ。手を握ったやり方も良いが、
「
バアルの説明を聞くと、楓が急に元気になった。
楓の目は輝いており、それは奏からの
「ほれ、奏。楓嬢ちゃんの期待に応えてやれよ」
「・・・わかった。【
期待した視線を楓に向けられれば、奏はそれを断ることはできない。
奏は【
ちゅっ、ちゅっ、ちゅぱっ、ちるちるっ、ちゅっ、ちゅぱっ。
奏が楓にMPを供給し始めると、楓は奏からのキスが嬉しくて仕方がないようで、気づけば楓が奏の唇を貪っていた。
「あーあ。あっという間に、攻守逆転しちまったなぁ」
楓のための治療行為だったはずが、奏は完全に楓に火をつけてしまったらしい。
蕩けた表情の楓は、ただ奏とキスをしたいという気持ちに従って貪欲に奏を求め続けた。
奏が楓から解放されたのは、キスし始めてから5分後のことだった。
MPを補給した楓の顔はツヤツヤになっていた半面、奏はやや疲れた表情になっていた。
そんな奏を見て、バアルはその肩をポンと叩いた。
「奏、お疲れ様」
「ああ」
「お前はすげえよ。割と序盤から、奏が捕食されてるみたいに見えたぜ」
「バアルさん、何か言いましたか?」
「なんでもねえ」
楓の地獄耳により、バアルは自分の発言を誤魔化した。
ヤンデレ化は治まったものの、余計なことを言って楓を怒らせたくないので、バアルは黙ることを選択したのだ。
それから、奏が人数分の毛布を【
【
だから、聖墳墓教会の中で囚われている冒険者達がいるかもしれない現状では、【
聖墳墓教会の内部に入ると、奏達は早速気分を害した。
その原因は、通路の脇に遺棄された冒険者達の死体のせいだった。
それらはどれも食い散らかされており、原形を留めていない。
そんな欠損だらけの死体があちこちに転がっていれば、まともな神経の持ち主は不快に感じるだろう。
「こりゃ酷いもんだが、この先に弱っちゃいるが生存者の反応がちらほらあるな」
「だったら、悪いが先に進ませてもらおう」
「ごめんなさい」
時間に余裕があるならば、死体の供養をすべきだと思うが、奏達はこの先で囚われている生存反応の主を助けた方が良いと判断した。
死体の供養を優先したせいで、生存していた者が死んでしまったら、誰も救われない。
そう思ったが故の判断だった。
通路を進むと、広間と表現すべき開けた空間に到着した。
ダンジョン化したせいで、聖墳墓教会の内部は本来よりも拡大しており、構造もかなり変化している。
そんな広間には、黒光りした全裸の悪魔が香ばしいポーズで待ち構えていた。
しかも、股間が何故か光っている。
「・・・バアル、あの変態は何者?」
「マーラだな。うん、やっちまえ。俺様にも、説明したくないもんだってある」
「気持ち悪いの嫌! 【
ゴォォォォォッ、ズバババババァァァァァン! パァァァッ。
轟音とともに、翡翠色の嵐を凝縮したブレスがルナから放たれ、それがマーラの光る部位を撃ち抜いた。
それにより、マーラは苦悶の表情を浮かべたまま倒れ、魔石をドロップして消えた。
「ルナ、よくやった。汚物は消毒するに限るぜ」
「ルナちゃん、ありがとう。視界のゴミが消えて、ホッとしました」
「エヘヘ♪」
女性陣から不評なマーラを倒すと、バアルと楓はルナに感謝した。
1秒でも早く、待ち構えていた
ルナも不快なものが視界から消え、その上バアルと楓から褒めてもらえて喜んだ。
ちなみに、奏がマーラのやられる姿を見て、それが自分のものではなかったのに何よりも痛く感じたのは、男なら仕方がないことだろう。
今までに現れたモンスターの種類から、奏は嫌な予感がしてバアルに訊ねた。
「アスモデウスの直属のモンスターは、あんなのばっかりか?」
「誠に残念ながら、変態や下種、性欲強めの奴ばっかだ。俺様は正直、アスモデウスをこのダンジョンごと消滅させても良いとさえ思ってる」
「生存者がいるからできないけどな」
「それな。畜生、俺様達のことを理解してやがるから、わざと生き残りを捕えてやがるんだ」
「さっさと見つけて、サクッと倒そう」
「全面的に同意するぜ」
「私も賛成です」
「ルナも~」
「サクラもだよ!」
『私も賛成なのよ!』
満場一致で、聖墳墓教会をスピードクリアすることが決まった。
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