第21章 最終決戦
第221話 良いニュースと悪いニュースがあるえ。どっちから聞きたいかえ?
翌日、朝食を取り終えて食休みをしているタイミングで、伊邪那美から奏に連絡があった。
『良いニュースと悪いニュースがあるえ。どっちから聞きたいかえ?』
「じゃあ、良いニュースから」
『わかったえ。今日の未明、中国最後のソロモン72柱が倒されて中国のモンスター討伐率が100%になったえ。これでモンスターが残ってる国はロシアとイスラエルだけだえ』
「あと2ヶ国か。悪いニュースは?」
『その両国がソロモン72柱の手に落ちたえ』
「それ、本気で言ってる?」
『本気だえ』
良いニュースに対し、悪いニュースの内容が予想よりも悪かったので、奏は伊邪那美が冗談を言っているのではないかと疑った。
しかし、現実は非情だった。
「ロシアとイスラエル、それぞれ何が起きてる?」
『簡単な方から説明するえ。イスラエルはアスモデウスが男性冒険者を魅了して侍らせ、女性冒険者は軒並みモンスターの苗床か食料になったえ』
「うわぁ、マジかぁ」
『マジだえ。控えめに表現しても地獄絵図だえ』
奏には伊邪那美の顔が見えていないが、間違いなく苦虫を嚙み潰したような顔をしていることが声の様子から感じ取れた。
「ロシアの方は?」
『フラウロスとキマリスまでは、ロシアの冒険者達がどうにか倒したえ。だが、セーレをあと少しで倒せるってタイミングでダンタリオンが加勢して状況が逆転したえ』
「逆転された後はどうなった?」
『ダンタリオンが疲弊した冒険者達を洗脳して同士討ちさせたえ。そのせいでロシアに前線で戦えるまともな冒険者はいないえ』
「ロシア程の大国が落ちるとは予想外だな」
『残念ながら、ダンタリオンはロキと手を組める程の実力者だえ。そうでもなければロシアが陥落することなんてないえ』
どうしてこうなったと頭を抱える伊邪那美の顔が浮かび、奏の顔は険しくなった。
何故なら、こんな話を聞かされる時点で次に奏が聞く内容が容易に想像できるからである。
「それで、伊邪那美は結局何が言いたいんだ?」
『・・・わかってても此方から言わせるあたり、奏は本当に意地悪だえ』
「意地悪してるつもりはない。俺は寝放題ライフを満喫したいだけだ」
『フフッ、そんなささやかな望みすら、満足に叶えられない此方をどうか許してほしいえ。奏達に決着をつけてほしいんだえ』
「はぁ・・・」
今、この場で最も聞きたくない言葉を聞いて奏はげんなりした。
日本を救った後もなんだかんだ報酬があったから、ここまでずるずると伊邪那美達の願いを聞いて来た。
だが、今回は国を落とすレベルの敵を相手にしなくてはならない。
そう思うと、溜息をつきたくなるのも仕方のないことだろう。
『勿論、このままイスラエルとロシアを放置すれば結界を張った他の国も危ないえ。だから、報酬は考えられる限り最高のものを用意したえ』
「と言うと?」
『天界各種施設の永久フリーパスだえ。それも期間無制限のやつだえ。天界で何をしても費用負担は一切必要ないえ』
「確かにそれは魅力的だよな。いつでも天界に行けるし、飲み食いするのも極楽湯に入るのも
『その通りだえ。だから、此方はとにかくお願いするしかできないえ。神としての力は、地球でモンスターを倒すのに使うには制約が多過ぎるえ。奏達にしか頼めないんだえ。どうか此方の願いを聞き届けてほしいえ』
ここまで言われてしまえば、正直断ることは難しかった。
仮に断ったとしても、伊邪那美は奏が首を縦に振ってくれるまで粘るだろうし、奏も伊邪那美には色々と便宜を図ってもらっている。
世話になった相手がちゃんと報酬も用意して自分達にしか頼めないと言い、その頼みも自分の力なら成し遂げられる見込みもあるとなれば、奏の性格からして断れない。
「はぁ・・・。わかった。でも、マジで今回限りにしてくれ。この戦いが終わったら、絶対隠居する」
『感謝するえ! 本当に感謝するえ!』
奏が引き受けてくれたことで、伊邪那美は今にも感激して泣き出しそうな声で礼を言った。
それだけ奏に動いてもらうことに対して罪悪感があり、それでいて奏に最大限の信頼を寄せているのだろう。
「伊邪那美、同時に手を付けた方が良いのか?」
『できることならそうしてほしいえ。アスモデウスとダンタリオンは同じソロモン72柱のくせに協力してるとは言えない状況だえ。それぞれに何か思惑があるように感じられるえ』
「了解。ちなみに魅了と洗脳はどっちの方が力が強い?」
『魅了だえ。これは、状態異常を無効化できない者が挑むべきではないえ。ダンタリオンの洗脳はロシアの冒険者達がセーレによって弱らせられてたから効いただけで、進化した者であれば効果はないえ』
「わかった。それなら、俺がイスラエルに行ってロシアには紅葉達を行かせよう」
『うむ。此方もそれが最善だと思うえ』
「そっか。じゃあ、これで紅葉達に話してみるわ」
『お願いするえ』
伊邪那美との会話が終わった。
それからすぐに奏は神殿内にいる全員に対し、伊邪那美と話した内容を共有した。
奏の話を聞くと、紅葉が口を開いた。
「じゃあ、私達がロシアでセーレとダンタリオンを倒せば良いのね」
「そうだな。バアル、何か良い作戦はあるか?」
「おう。俺様の見立てじゃセーレなら響嬢ちゃんだけで倒せる。だから、響嬢ちゃんとアラン、月読がセーレと戦い、ダンタリオンは紅葉の姉ちゃんとルドラがパーティーを組んで戦うのが良いと思うぜ」
「・・・さっさとセーレを倒したら、響にダンタリオンを奇襲させるつもりか?」
バアルと付き合いがそれなりに長い奏は、バアルの考えに気づいて訊ねた。
「おうよ。ダンタリオンが相手なら、紅葉の姉ちゃんとルドラがパーティーを組んでも倒し切れねえ可能性がある。そこに響嬢ちゃんが奇襲をかければ、一気にこちらが有利になるぜ」
「なるほど。僕が美味しいところを貰えるし、紅葉とルドラさんは
「だろ?」
響がニヤニヤしながら言うと、バアルも同じぐらいニヤニヤした顔で応じた。
理に適っている作戦とはいえ、重要な最終決戦で下世話な企みをされれば、紅葉としては物申したくなった。
「響、共闘と書いてデートと読むのは止めなさい。それと、バアルさんもそのニヤニヤした顔を何とかして下さい」
「え~? 良いじゃん。ルドラさん、紅葉とパーティー組める感想は?」
「すごく嬉しい。全力で紅葉さんを守る」
「ちょっ、ルドラさんまで何言ってんの!?」
ルドラが真剣な顔で言うものだから、紅葉の顔が赤くなった。
そんな3人を放置して、楓は奏に話しかけた。
「奏兄様、私もイスラエルにお供します」
「いや、楓は悠を・・・」
「奏兄様、私もイスラエルにお供します」
「だから・・・」
「奏兄様、私もイスラエルにお供します」
「はぁぁぁっ・・・」
楓が絶対に退かないと覚悟を決め、同じセリフをリピートしたことで奏は大きく溜息をついた。
「ヘラ、悠のことを頼める?」
「任せなさい。その代わり、楓は妻としての責務を果たしなさい。良いわね?」
「勿論です。奏兄様の最終決戦について行かずして、妻を名乗ることはできません」
「よく言ったわ」
ヘラがサムズアップすると、楓もサムズアップで応じた。
そんな楓とヘラのやり取りを見て、バアルは奏の型をポンと叩いた。
「おい、奏。楓嬢ちゃんが諦めるのを諦めな」
「・・・わかった。しょうがない。楓がどうしてもついて来るって言うなら、俺が絶対守ってやる」
「流石は奏兄様です!」
「お、おい!?」
アメフト選手のタックルみたいな勢いで楓は奏に抱き着いた。
奏は慌てながらも、嬉しそうに抱き着く楓を抱きとめた。
それから、奏達は準備をして出発した。
奏と楓、バアル、ルナ、サクラ、天照はイスラエルへ移動した。
紅葉とルドラ、迦具土、カーリー、ピエドラ、サラはロシアのダンタリオンがいる場所へ向かい、響と月読、アランはロシアのセーレがいる場所へと向かった。
こうして、地球の命運がかかった最終決戦が幕を開けた。
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