第220話 しまった。これって死亡フラグじゃん

 ルドラ達が帰って来て、双月島に全員が揃うと、月読とカーリーが奏達に改めて挨拶した。


 月読は以前、日本の復興を盾に奏に無理矢理協力を要請したため、奏に対してひたすら遜った。


 しかし、奏がそんなことでトイレ掃除を恩赦することはなかった。


「遜ってるけど、トイレ掃除をするのは変わらないぞ?」


「そんなぁ・・・」


「流石は奏ちゃん。月読にトイレ掃除を強制させるなんて、人にできないことを平然とやってのけるね」


「この件に関して悪いのは、意味もなくマウントを取ろうとした月読だろ」


「それは否定しない」


 奏の言い分が正しいと思ったので、響は首を縦に振った。


 響を頼れないとわかると、月読は子犬の哀愁を漂わせた雰囲気で天照に泣きついた。


「姉様~、お助け~」


「月読、黙ってトイレ掃除に従事しなさい」


「神 は 死 ん だ」


「お前も神だろうが」


 天照に見限られ、大袈裟に絶望したと言わんばかりに地面に拳を打ち付ける月読を見て、奏はツッコまずにはいられなかった。


 そんな月読を放置して、今度はカーリーが挨拶する番になった。


「改めて、世話になるぜ。私はカーリーだ」


「カーリー、偉そうだな。ここは俺様の神殿だぞ? 居候の分際で、その態度はどうなんだ?」


「・・・お世話になります。カーリーです」


「バアル様、すごい」


 カーリーの態度が偉そうだったので、バアルがムッとした表情で注意すると、カーリーは態度を改めた。


 行儀の良いカーリーなんて、未だかつて見たことがなかったルドラは、バアルに尊敬の眼差しを向けた。


 やはり、最初に出会った時点で、バアルがカーリーに対してマウントを取ったのが大きいらしい。


 それに、復活したとはいえ、双月島はバアルの神域であり、カーリーにとっては完全にアウェイだ。


 バアルと敵対しても、天界に強制送還されてしまうと判断し、カーリーは表面上は従順に振舞った。


 折角、地球では冒険者とモンスターがドンパチやっているのに、それを近くで眺められなくなるのはカーリーが望まない展開だからだ。


 それから、今日のそれぞれの行動を報告会をした後、夕食に移った。


 パチャママに祝福されたおかげで、奏が【創造クリエイト】で創った野菜がこれまでよりもずっと美味しくなっており、今日の夕食は全員に好評だった。


 楓は奏に料理を褒められ、天にも昇る幸福を味わったのは言うまでもない。


 夕食後、紅葉は昨晩と同じように日課の掲示板巡回を始めた。


 報告会の結果から、残りのソロモン72柱がかなり少なくなったとわかっていたので、気になって仕方なかったのだ。



◆◆◆◆◆


ソロモン72柱報告スレ@1


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◇◇◇◇◇


751.スペインの重騎士アーマーナイト

 今日、スペインから従魔を除いてモンスターが完全にいなくなった

 スペインにいたソロモン72柱は、フォカロルっていう公爵だった

 どう考えても狂戦士バーサーカーです、ありがとうございますって人が倒してくれた

 お礼を言いたかったけど、怖くて直接言えなかった

 だから、この場で言わせてもらう

 スペインを救ってくれて、本当にありがとう!


752.南アフリカの狙撃手スナイパー

 信じられるか?

 俺は今日、マジモンのNINJAを見たぜ

 南アフリカを苦しめてたアムドゥスキアスが首を落とされた時、俺は感動した

 何がって、その姿が超Coolだったからだ!

 アムドゥスキアスって公爵なんだぜ?

 俺達がレギオン組んで倒せなかったのに、従魔とそのNINJAだけで倒しちまった

 NINJAマジ最強!


753.フランスの召喚士サモナー

 フランスは今日、2体のソロモン72柱が倒されて、モンスター討伐率100%になった。

 俺と同じ召喚士サモナーが、午前に1体、午後に1体倒して帰ったの

 何がすごいって、あの召喚士サモナーの保有するモンスターカード

 なんでソロモン72柱のモンスターカードを持ってるんだ?

 もしかして、あの召喚士サモナーって、世界中でソロモン72柱を倒して回ってるのか?

 アミーとオリアスのカード以外、全部復興に充ててって言われた

 眼帯を含めて服装もイカしてるし、感動して告ったけど振られちまった 


754.ペルーの女戦士アマゾネス

 あ、ありのまま 、今日起こった事を話すわ。

 私達は今日、アロケル率いるモンスターの大群と戦ってたはずだった

 それなのに、急に仲間発狂して同士討ちが始まったわ。

 な、何を言ってるのかわからないと思うけど、私も何をされたのかわからなかったの。

 私も頭がどうにかなりそうだったけど、気づいたらアロケルが倒されてて、頭がクリアになってたのよ

 催眠術だとか洗脳だとか、そんなチャチなもんじゃ断じてないわ

 絶望や地獄と呼んで問題ない深淵の一部を味わったみたい・・・


755.オーストラリアの武闘家グラップラー

 神聖なエアーズロックがダンジョン化し、そこからアシュラベアにドランクサーペント、エキサイトボクサーが溢れ出した

 それらを束ねてたのが、王のプルソンだった

 モブモンスターに肉弾戦を強いられてる間に、ドラゴンに乗った赤い騎士ナイトがプルソンを倒してしまった

 だが、不思議なのは騎士ナイトのくせに、倒すのにひたすら殴ったらしいんだ

 武闘家グラップラーとして、是非手合わせ願いたかった


756.モンゴルの従魔師テイマー

 >752

 俺達も今日、NINJAに国を救ってもらった

 オロバスって君主がいたんだが、汚い奴でガイアトータスの甲羅の中に隠れて全然手が出せなかった

 そこに、NINJAがやって来てから、奇妙なことが起きた

 ガイアトータスが、突然地面に押し付けられたようになったり、飛んでたはずのオロバスが体の制御を失ったみたいに墜落したりな

 結局、ガイアトータスの中に隠れたオロバスは、地面から生えた無数の槍に突き刺されて倒れた

 最近のNINJAってマジで派手だよな


757.ドイツの砲手シューター

 私達は今日、英雄に助けられたわ

 ノイシュバンシュタイン城に陣取った憎きヴィネを、その英雄が倒してくれたの

 ノイシュバンシュタイン城で王のように振舞うヴィネが、倒される瞬間が見られなかったのは残念だった

 でも、アラクネに乗ったあの英雄は、私達の持久戦の流れを一撃で変えてくれたわ

 あぁ、なんて素敵な人なんでしょう

 硬派で良い人そうだったから、アタックしてみたけど好きな人がいるからって振られちゃった


758.中国の修道士モンク

 中国では、ヴァプラとアンドラスが新たに倒されたアル

 前者はレギオンで倒して、後者は1つのパーティーが倒したネ

 残るはバラムとかいう王アル

 流石に、今日1日では決着がつかなかったネ

 なんとしても、明日には倒してやるアル


759.アメリカの司教ビショップ

 我々は今日、遂にモンスター討伐率を100%にした

 ウァラクとアンドレアルフスは、それぞれレギオンで倒した

 そして、王たるパイモンは、アメリカが誇る英雄のいるパーティーが倒した

 他国に後れを取ってしまったが、これこそがアメリカだ

 アメリカはNo.1なのだ

 他国にソロモン72柱の王を1つのパーティーで倒せた者はいないだろう?


760.日本の近衛兵ロイヤルガード

 >759

 あんまり調子に乗らないでくれる?

 日本でベリアルを倒したのは、たった1人の冒険者

 インドも1人で倒してるし、ドイツ、フランス、オーストラリアも1人だ

 くだらないマウントを取ってないで、早く全ての国がモンスター討伐率100%を達成できるように価値のある発言をしろ


761.中国の修道士モンク

 >759

 アメ公ざまぁアルwwwwwwwwww


762.ドイツの砲手シューター

 >759

 ガープを倒したのは、私の国を救ってくれた英雄よ

 なんでもかんでも自分達だけで成し遂げたと思ってるなら、恥を知りなさい!


763.フランスの召喚士サモナー

 >759

 フランスを救った召喚士サモナーみたいな優しさこそ至高だ!

 自国優先ばっかり口にするのは止めろ!


764.アメリカの司教ビショップ

 このコメントは削除されました


◆◆◆◆◆



「アメリカの人、最後何言ったのよ・・・」


 掲示板から目を離すと、紅葉は呆れた表情になった。


 そこに、ルドラがやって来た。


「紅葉さん、ありがとうございます」


「ルドラさん、何がですか?」


「掲示板です。俺も今、見てたんです」


「ア、アハハ・・・」


 アメリカの司教ビショップに対し、アメリカが1番だと思い上がるなと釘を刺したことがバレて、紅葉は苦笑いした。


 そんな紅葉を、ルドラは真剣な表情で見つめた。


「俺、超人ドワーフに進化しました。それに、王もどうにか倒しました。これで、紅葉さんと一緒のステージに立てたでしょうか?」


「・・・ルドラさんの好意は嬉しいです。でも、もう少し時間を貰えませんか? 私は奏君と違って、恋愛面で即断即決できません」


「そう、ですか」


「別に、ルドラさんが嫌いとかじゃないんです。ただ、今はまだ考えがまとまらないんです。だから、全てが終わったら、1回デートしましょう。私が答えを出すのに必要なのは、ゆっくりした時間の中でルドラさんを知ることだと思いますから」


「わかりました! 絶対にソロモン72柱を駆逐しましょう!」


「そ、そうね」


 ルドラに気合が入り、いきなり立ち上がるものだから、紅葉はびっくりしてしまった。


 だが、すぐに落ち着きを取り戻した紅葉は、自分の口にした言葉を思い出し、あることに気づいた。


「しまった。これって死亡フラグじゃん」


 ちなみに、その一部始終を響が声を殺して笑って見ていたのだが、それはまた別の話である。 

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