第213話 例えばベッドがあるだろ? 俺ならベッドでぐっすり寝るが、英雄は寝ずに働くんだ
《おめでとうございます。個体名:高城奏が、アロケルを倒したことにより、ペルーのモンスター討伐率が100%に到達しました。その特典として、<パチャママの祝福>を会得しました》
《奏が<パチャママの祝福>を会得したことで、【
《奏の<パチャママの祝福>が、<多神の祝福>に内包されました》
《奏がパチャママの依頼を達成したことにより、双月島の神殿に夢見リンゴの苗が贈られました》
《おめでとうございます。個体名:高城奏が、ペルーのモンスター討伐率を100%にしたことで、パチャママがペルーにモンスター避けの結界を張ることに成功しました》
神の声が鳴り止むと、奏は急いで魔石やモンスターカードを回収し、【
「おい、奏、慌ててどうしたんだ?」
「あのまま残ってたら、ペルーの英雄に祭り上げられるだろ?」
「別に、良いことじゃね? ・・・あぁ、奏はそれが嫌なのか」
神であるバアルならば、祭り上げてもらえるなら喜んで祭り上げてもらうが、寝放題ライフを求める奏にとって、祭り上げられるのは迷惑でしかない。
話題になり、掲示板で取り上げられようものなら、間違いなく世界中のあちこちから救援要請が来る。
それだけではなくて、奏の実力に対する妬む者、実力があるならなぜ動かなかったと言い出す者も出て来るだろう。
そんなことのせいで、自分の気分が悪くなるのが想像できるから、奏はペルーの冒険者達が正気を取り戻す前に双月島に戻って来たのだ。
発狂させた
その兆候に気づいたからこそ、スキルの変化や夢見リンゴに関してバアルに訊ねたいのを我慢して帰った訳だ。
「勿論、嫌に決まってるだろ? バアル、以前俺が英雄と勇者=世界の社畜だって言ったのは覚えてるか?」
「ああ」
「それには続きがある」
「続き?」
「例えばベッドがあるだろ? 俺ならベッドでぐっすり寝るが、英雄は寝ずに働くんだ」
「なるほど。引っ張りだこになるから、寝てる暇もないと。だから、そんなもんになりたいなんて気持ちは微塵もないか」
「その通りだ」
我が意を得たりと言わんばかりの表情で、奏は首を縦に振った。
しかも、1回振れば良いところを、わざわざ2回もだ。
これは、本当によくわかってくれたと奏が思っているからである。
「パパ~」
「よしよし。いきなり帰って来てごめんな、ルナ。よくやってくれた」
「エヘヘ♪」
難しい話は終わったと思ったらしく、ルナは奏に甘えた。
ルナが働いてくれたのは、奏もちゃんとわかっているので、奏はルナが満足するまで頭を撫でてやった。
それから、奏達は楓に帰って来たことを告げ、そのまま楓達も連れて、礼拝堂に届いているはずの夢見リンゴの苗を見に行った。
すると、確かに礼拝堂には鉢植えが置いてあり、そこから夢見リンゴの苗木が生えていた。
奏達が苗木に近づいた時、
奏達の姿を見ると、パチャママは深く頭を下げた。
「奏、お疲れ様です。そして、ペルーを救っていただき、どうもありがとうございました」
「報酬が貰えるんだから、構わないさ。報酬の説明に来てくれたんだろ?」
「その通りです。まずは、私の祝福ですが、他の神と同じです。なので、【
「よろしく頼む」
「はい。【
「・・・というと?」
補正の度合いがわからなかったから、奏はパチャママに訊ねた。
「簡単に言えば、創造した植物が最高品質になります」
「じゃあ、パパが果物を用意してくれたら、とっても美味しいってこと?」
「ええ、その通りよ」
パチャママの話を聞き、ピンと来たルナが質問した。
ルナの質問がかわいかったので、パチャママは微笑みながら答えた。
「やった~! パパ、ルナのデザートが美味しくなるんだって!」
「よしよし。良かったな」
「うん♪」
小躍りしそうなぐらい、ルナが喜んでいたので、奏はルナの頭を撫でてやった。
「ということは、必然的に俺が用意した植物系の食材を使えば、楓の料理も更に美味くなるのか」
「その通りです」
「思わぬ副産物だ。ありがたく使わせてもらうよ」
奏は寝ることも好きだが、楓が料理を作ってくれるようになってからは、楓の料理を食べることも好きになっていた。
だから、楓の料理が更に美味しくなるとわかると、奏は嬉しく感じた。
「任せて下さい。奏兄様の期待に応えて、毎日美味しいものをいっぱい作りますよ」
「ああ。楽しみにしてる」
「はい!」
奏に楽しみにされているとわかれば、楓が喜ばないはずがない。
楓は満面の笑みを浮かべ、奏に返事をした。
「では、次です。どちらかと言えば、こちらが奏にとっての本題ですよね。夢見リンゴの説明をします」
「聞かせてくれ」
「わかりました。夢見リンゴですが、Lv50以上の生物なら1日に2個まで、それ未満ならば1日に1個までしか食べてはいけません」
「俺達はわかったが、ルナ達もか?」
「そうです。人もモンスターも同じです」
「食べるタイミングは?」
自分の見たい夢を見ながら寝るため、奏は熱心にパチャママに質問した。
「寝る15分前が理想です。食べてから、15分で効き目が出ます」
「寝る15分前だな。了解。食べ方で避けるべきものはあるか?」
「丸かじりでも、切り分けて食べても、ジュースにして飲んでも構いません。用量さえ守っていただければ、効果は保証しましょう」
「それさえ守れば、見たい夢が見られるんだな?」
「勿論です」
「素晴らしい。実に素晴らしい」
大事なことなので、奏は2回言った。
「気に入ってもらえて良かったです。それでは、私はこれからペルーの後処理に移りますから、これにて失礼します」
そう言うと、パチャママは
パチャママが帰ると、奏達は夢見リンゴの苗を持って果樹園へと向かった。
モンスの実の生る木が、たくさんあるエリアだが、まだまだ植えられるスペースはある。
そこに、リックが姿を現した。
それも、軍隊のようなきっちりとした敬礼付きである。
「リュリュッ!」
「リックか。丁度良かった。この苗の世話を任せたい」
「リュリュ?」
「パパ、この苗木は何かって訊いてるよ?」
リックは喋れないので、ルナが通訳した。
「夢見リンゴの苗だって伝えてくれ。それと、とても貴重な苗木だから、特に注意するようにも言ってくれ」
「は~い」
ルナは頷くと、奏が言った通りのことをリックに伝えた。
すると、リックは使命感に燃える顔つきになった。
「リュリュ~、リュッ!」
「「「・・・「「リュッ!」」・・・」」」
リックの声を聞き、他のラタトスク達が集合して敬礼した。
「パパ、リックが任せてくれだって」
「そうか。頼りにしてるよ」
「リュリュ~」
奏がリックの頭を撫でると、リックは嬉しそうに鳴いた。
リック達に夢見リンゴの苗木を預けた奏達は、神殿に戻って昼食を取ることにした。
昼食を取り終え、楓と交代で悠を抱っこしていると、奏の耳に伊邪那美の声が届いた。
『奏、パチャママの件、感謝するえ』
「望んだ報酬を貰ったから、良い取引だった」
『そう言ってもらえると助かるえ。実は、もう1柱奏に直接お願いしたいと頼む神がいるえ。会ってもらえないかえ?』
「・・・良いけど、また普通の神じゃないんだろ?」
『わかったかえ?』
「なんとなくな」
自分に頭を下げてでも、自分の管轄の国を救ってほしいと頼むのは、事情がある神だけだと奏は直感で気付いたのだ。
『奏の予想通りだえ。次に奏に会いたがってるのは、エポナと言う女神だえ』
「女神? 女神なら普通な気もするが」
『女神とはいえ、見た目は完全に雌馬だえ。エポナが最初、此方に助けてほしいと頼んだのも、自分の見た目が馬だからだえ。自分が神だと信じてもらえない不安から、此方に頼んだんだえ』
「そういう神もいるんだな。わかった。引き受けるかどうかはさておき、とりあえず会ってみる」
『感謝するえ』
伊邪那美との会話が終わると、奏達は礼拝堂へと移動した。
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