第20章 ソロモン72柱の逆襲
第211話 アオハルかよ
ルドラが双月島に泊まった翌日、生き残ったソロモン72柱は攻勢に出た。
昨日、世界各地のダンジョンでスタンピードが発生したが、今日になってボス部屋のボスがあちこちに出没し始めたのだ。
勿論、モンスター討伐率が100%になった国はこの限りではない。
だが、モンスター討伐率が100%未満の国では、ソロモン72柱がボスであるダンジョン以外でも、ボスモンスターがダンジョンの外に出て来た。
特に、ロシア、アメリカ、中国、フランス、ドイツ、スペイン、モンゴル、イスラエル、オーストラリア、ペルー、南アフリカでは重大な被害が出ている。
それは、これらの国に、ソロモン72柱がいたからである。
ロシアが4体、アメリカと中国が3体ずつ、フランスが2体、それ以外の国が1体ずつ出現した。
逆に言えば、ここに名前が出なかった国は、モンスター討伐率が100%か、モンスターのスタンピードが起きても被害が少ない国だ。
さて、ここで問題が生じるのは言うまでもないだろう。
11ヶ国では、ソロモン72柱が出現し、それ以外の国でも稀に、ソロモン72柱クラスのボスモンスターがダンジョンから出て来た。
それに対し、自分の出身国を離れて行動できるのが、紅葉と響、ルドラ、千里だと、どうしても手が足りない。
そうなれば、どうなるか。
答えは単純で、身を隠すことになったはずの奏に、戦地へ出向いてくれと声がかかった。
紅葉達が出発した後、伊邪那美から奏に話しかけられたのだ。
『奏、お願いがあるえ』
「断る」
『そこをなんとか頼むえ。此方としても、ここで奏に頼るのは約束を違えたことになるから、したくはなかったんだえ。しかし、もう頼れる存在がいないんだえ』
「現地の冒険者は何やってんの?」
『ほとんどの国が、ダンジョンボスの登場で劣勢だえ。拠点にモンスターの大群が押し寄せ、戦えない冒険者を戦える冒険者が逃がしている内に、その者達が負傷して戦力がどんどん減ってるえ』
「はぁぁぁぁぁ・・・」
奏の口から、
自分が寝放題ライフに突入するため、バアルを復活させて力を付けていったはずなのに、どうしてこうなったと奏はうんざりした。
奏はこれまで、強くなりたくて戦ったことなどなかっただろう。
それにもかかわらず、世界が、いや、天界の神々が自分を戦地へと駆り立てる。
なんて理不尽な世界だろうか。
奏がそう思うのも無理もない。
また、奏は不思議にも思った。
世界の冒険者達は、今日までの間、一体何をしていたんだろうかと。
今日で
何故、効率的にモンスターを倒す方法を考えないのか。
何故、効率的に強くなる方法を考えないのか。
何故、少しでも早く楽になれる方法を考えないのか。
何故、誰かが助けてくれることを待っているのか。
奏の頭の中には、これ以外にも様々な疑問が浮かび上がった。
自分なんかよりも、モンスターの出現に義憤を感じた冒険者はいくらでもいただろう。
自分なんかよりも、最初に会得したスキルが戦闘向きだった冒険者はいくらでもいただろう。
自分なんかよりも、好戦的な性格をした冒険者はいくらでもいただろう。
自分なんかよりも、褒美を貰えるとあらば、目の色を変えて働く冒険者はいくらでもいただろう。
それなのに、どうして働けと頼まれるのが自分なのか。
奏にとって、それが不思議でならなかった。
『奏、この通りだえ。此方の所に来る陳情も、捌き切れないぐらいなんだえ。日本を救った奏に、力を借りたいと頭を下げる神が続々とやって来るんだえ』
「それ、違くない?」
『何がだえ?』
「伊邪那美に頭を下げたって、俺が動く訳ないじゃん」
思えば、神々は天界でいつも何をしているのか。
奏の疑問が増えた。
バアルであれば、神器になった後、自分が復活したいと言う理由もあるが、奏が生き残るために力を貸してくれた。
天照であれば、世話の焼ける性格ではあるものの、奏が家族を守れるように新たな力を奏に与えた。
伊邪那美であれば、三種の神器やそれ以外にも様々な報酬を用意し、奏の貢献に報いた。
ガネーシャであれば、【
オシリスやオーディンだって、助けられたことに対して祝福を与え、それが奏の固有スキルを強化することに繋がった。
奏が力を貸すなら、自分の行動に対して礼の言える存在である。
それなのに、どうして自分に直接頭も下げられず、しかも何も今まで自分に何かしてくれた訳でもない相手のために行動しなければならないのか。
奏が疑問を抱くのは、おかしなことではないだろう。
『全く以て、奏の言う通りだえ。だが、神の中には利己主義でプライドも高く、頭を下げる相手を間違える者も残念ながら少なくないんだえ』
「・・・決めた」
『何を決めたえ?』
「直接、頭を下げる神がいるなら、報酬次第でその神の管轄する国に行っても良い」
奏の言葉を聞くと、伊邪那美は少し考えてから口を開いた。
『・・・わかったえ。奏の意見は、至極当然のものだえ。陳情に来た神々には、此方から奏の言葉を伝えておくえ。もし、奏に頭を下げに行く者がいるなら、その時は礼拝堂の
「わかった」
『感謝するえ』
奏に礼を言うと、伊邪那美は会話を終えた。
奏と伊邪那美の話が終わると、バアルが奏に近づいて話しかけた。
「よう、機嫌悪そうじゃねえか」
「そりゃな。神だからって、無意識かなんだか知らないけど、素で俺のことを見下してるのが腹立つ」
「神も人と変わんねえよ。ピンキリなんだ。良い奴もいれば、悪い奴もいる」
「マジでそれ。俺がこの島でダラダラする時間を奪って、自分の国を助けてもらおうとしてるくせに、礼も直接言わなければ、報酬も提示しない。頭おかしいだろ」
奏の不満そうな顔を見て、バアルは苦笑いした。
「・・・若干、奏の個人的な理由が強い気もするが、概ね同意するぜ。俺様も、奏の神器になった時、1つだけ最初から決めてたことがあんだよ」
「何を決めてた?」
「対等であることだ。俺様は復活したい。それと同時に、相手にだって願望はある。だから、ギブアンドテイクになるように心がけてたぜ」
「それ、神器だった頃は口にしてなかったよな?」
「んなもん、恥ずかしくて言える訳ねえだろうが。い、今だって、言った途端から恥ずかしくなってきちまったぜ」
そう言ったバアルの顔は、確かに普段よりも赤くなっているように奏には見えた。
「アオハルかよ」
「おい、奏! そのニヤニヤした顔止めろ!」
「いやぁ、だってさぁ」
バアルが恥ずかしがっているのを見て、奏の頬が緩んでしまった。
それはムカつくと言わんばかりに、バアルが抗議した。
そのタイミングで、奏の耳に再び伊邪那美の声が届いた。
『奏、パチャママが会いたいと言ってるえ』
「パチャママ? 伊邪那美、俺は神に詳しい訳じゃないから、どこのどんな神化も教えてくれ」
『それはすまなかったえ。パチャママは、南アメリカの地母神だえ』
「なるほど。すぐにここに来るのか?」
『行くと言ってるえ。礼拝堂で待っててほしいえ』
「わかった」
『感謝するえ』
伊邪那美との会話が終わると、奏はバアルと一緒に礼拝堂へと移動した。
すると、
「ん?」
「奏、これがパチャママだ。ただの樹じゃねえから、よく見てみろ」
バアルに言われ、奏が目を凝らして見てみると、樹に民族衣装を着た女性が埋まっていた。
「樹に埋まってる?」
「埋まってる訳ではありません。一体化してるだけです」
「一体化? なんで?」
「・・・恥ずかしいからです」
「え?」
「恥ずかしいからです!」
聞き間違えたかと思い、訊き返してみたら、自分の耳が正常だったので奏はなんとも言えなくなった。
「おい、パチャママ、奏が困ってるぜ。恥ずかしいのはわかったから、少し落ち着けや」
「す、すみません」
バアルに注意され、パチャママはハッとして謝った。
そんなパチャママに、バアルは訊ねてみた。
「つーか、パチャママが伊邪那美に頼んだのって、奏と会うのが恥ずかしかったからか?」
「は、はい、そうです。奏は【
「ん?」
パチャママの言った意味がわからず、奏は首を傾げた。
「パチャママは地母神だが、どっちかっつーと精霊みたいなもんなんだよ。インカ帝国があった地域では、未だにパチャママの力が残っててな。奏の【
「なんで?」
「そりゃ、この力ってのは、いわばパチャママの体の一部だからな。パチャママの体は、実体があるように見えるがエネルギー体なんだぜ。女神なんだし、自分の体が異性に取り込まれるのは恥ずかしいんだろうよ」
「(コク、コク)」
パチャママは、バアルの言う通りだと言わんばかりに首を激しく縦に振った。
「・・・なるほど。まあ、恥ずかしい理由はわかった。じゃあ、話を聞かせてくれ」
「ここまで訊いといて、この切り替えの早さ。流石は奏だぜ」
「それ、褒めてないよな?」
「いや、俺様は評価してるぜ」
バアルがニヤニヤした視線を向けるので、奏はムッとした表情になった。
「あ、あの~、私の話、聞いてもらっても良いですか?」
そんな奏とバアルのやり取りを前に、パチャママはおずおずと口を開いた。
恥ずかしがり屋でも、話すべきことがある時はちゃんと恥ずかしい気持ちを我慢できるらしい。
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