第192話 おとーさん、サクラも進化させて~

 楓の進化が終わった後、ルナとサクラが奏達の所にやって来た。


「あっ、ママ進化してる~」


「おかーさん、ズルい!」


「フフッ、良いでしょ~」


「おとーさん、サクラも進化させて~」


 楓に自慢され、サクラは奏に駆け寄った。


「ごめん、サクラ。まだMPが回復してないから、回復するのを待ってくれ」


「待ったら、サクラもルナみたいに進化できる?」


「ルナみたいにってことは、シルフエメラルドみたいなものが欲しいの?」


「うん!」


 サクラに力強く頷かれ、奏は困った表情になった。


 シルフエメラルドは、オーディンが偶々くれたものであり、奏が狙って手に入れた物でもなければ、簡単に手に入れられる物でもない。


 しかし、奏はこの状況の希望となる存在を思い出した。


「・・・待てよ。【無限収納インベントリ】」


 奏は亜空間から、1枚のカードを取り出した。


「奏兄様、それって【百貨店デパート】の無料券ですか?」


「正解。運が良ければ、ガネーシャが取り扱ってるかもしれないだろ?」


「でも、貴重な無料券をサクラに使っても良いんですか?」


 楓が尋ねると、サクラは不安そうな表情で奏の顔を見た。


 奏はサクラの頭を撫でると、首を縦に振った。


「良いよ。大事に取っておいても、使い忘れるかもしれないし。それに、サクラだけ仲間外れはかわいそうだもんな」


「おとーさん! 大好き!」


「あっ、サクラ! パパはルナのものなの!」


 サクラが嬉しそうに奏に頬擦りすると、ルナが負けじと反対側から頬擦りした。


 一瞬にして、奏の周りでモフ度が急上昇した。


 ルナとサクラが落ち着くまで待ってから、奏は【百貨店デパート】を使うことにした。


「【百貨店デパート】」


 ブブッ。


 電子音が聞こえると、奏の前にガネーシャが映る画面が現れた。


 【売店ショップ】の時とは異なり、ガネーシャの服装がデパートのインフォメーションスタッフのものになっていた。


『いらっしゃ~い』


「ガネーシャ、それってわざわざ着替えたのか?」


『そうよ。その方が、【百貨店デパート】にスキルが強化された感じがするでしょ?』


「まあ、確かに」


 ガネーシャの言い分を聞き、奏は頷いた。


『一昨日は、最後にドタバタしてごめんね』


「ロキとの戦闘にはうんざりしたけど、極楽湯やカジノ、祭、薫風庵は良かったよ」


『そう言ってもらえると救われるわ。それで、今日は何をお求めかしら?』


「これを使いたい」


 そう言って、奏は無料券をガネーシャに見せた。


『無料券、早速使うのね。良いわ。何をご希望かしら?』


「ルナがシルフエメラルドを使って進化したんだけど、サクラに使えるそういう物ってない?」


『なるほどね。それは確かに、無料券を使わなければ簡単に手に入らないわね。少しだけ待ってもらえる? 探してみるから』


「頼む」


 奏が頷くと、ガネーシャは一旦画面から消えた。


 そして、30秒もかからずに画面に現れた。


『奏、丁度良かったわね。JFパールがあったわ』


「JFパール?」


『ジャックフロストパール。長いから、JFパールって略して呼ばれてるの』


「ジャックフロストか」


 ジャックフロストは、イングランドの民話に登場する冬の間にしか現れない霜の妖精として知られている。


 しかし、奏は紅葉から布教されたラノベにより、四大元素の精霊が強いというイメージを抱いていたので、ジャックフロストでは物足りなく感じていた。


「ガネーシャ、ウンディーネに関するものはない?」


『ウンディーネサファイアね。存在はしてるけど、在庫にはないわ。でも、サクラにウンディーネサファイアを使っても、進化できないわよ?』


「えっ、そうなの? もしかして、サクラが氷系のスキルしか使えないから?」


『その通りよ。ウンディーネサファイアで進化できるのは、水系のスキルが大半を占めるモンスターだけだもの。バアルの方が知識が豊富だから、説明は頼んでも良いかしら?』


「しょうがねえな」


 ガネーシャが話を振ると、バアルは説明を引き継ぐことを承諾した。


「バアル、よろしく頼む」


「おう。まず、奏の記憶にある四大精霊の名を冠した宝石がある。サラマンダールビー、ウンディーネサファイア、シルフエメラルド、ノームトパーズ。これらは、炎系、水系、風系、土系のスキルに特化したモンスターを進化させられる。ここまでは良いか?」


「大丈夫」


「よし。この4つの宝石は、モンスターを進化させる宝石の頂点にあると思ってくれ。それで、四大元素から派生した氷系や雷系、木系のスキルを使うモンスターを進化させる宝石は、さっきの4つから1枚格落ちするんだ」


「格落ちかぁ」


「つっても、そんな中でもJFパールは最高級の部類だぜ? 氷系スキルを使うモンスターを進化させる宝玉って訊かれたら、まずこの名前が出るぐらいにな」


「そっか。じゃあ、ガネーシャはできる限りで最良の宝石を選んでくれたのか」


「そういうこった」


 バアルが頷くと、奏は少し考えてからサクラの方を向いた。


 自分があれこれ頭を悩ましたところで、実際に使うのはサクラなのだ。


 だから、これを貰うかどうか、サクラに決めてもらうことにしたのである。


「サクラ、どうしたい? JFパールが欲しい?」


「欲しい! サクラ、進化するの!」


「わかった。じゃあ、ガネーシャ、無料券でJFパールを貰いたい」


『わかったわ。奏、JFパールを送るわ。あっ、そうだ。後で、伊邪那美から連絡があると思うから、それに応じてね。それじゃ』


 プツン。


 無料券が消え、その代わりにJFパールが奏の手の上に現れた。


 そのすぐ後、電子音と共に、画面が消えた。


 すると、サクラは待ちきれない様子だった。


「おとーさん、使って良い!? サクラ、進化したいの!」


「サクラ、その前に奏兄様に言うことがあるでしょ? JFパール、サクラのために手に入れてくれたんだよ?」


 JFパールに今にも飛びつきそうなサクラに対し、楓が小さい子に言い聞かすように言った。


「おとーさん、JFパールをありがとう!」


「よく言えたね、サクラ」


「フフン」


 楓に褒められ、サクラは得意気な様子だった。


 それから、奏は楓にJFパールを渡した。


 サクラを進化させるのは、奏ではなくてサクラの主人である楓の役割だからである。


 奏からJFパールを受け取ると、楓はすぐにそれをサクラに使った。


 その瞬間、神の声が奏達の耳に届くのと同時に、サクラを中心に光に包み込まれた。


《サクラが進化条件を満たしたことにより、JFパールの効果で進化を開始します》


《おめでとうございます。個体名:サクラは、クリスタルケートスで初めて2回目の進化により、フロストケートスに進化しました。初回特典として、サクラの従魔の証が氷聖獣の証にグレードアップされました》


《サクラの<不老長寿>が、<不老不死>に上書きされました》


《サクラは<聖獣>を会得しました》


《サクラの【吹雪ブリザード】と【舞氷刃ダンシングアイスエッジ】が、【絶対零度アブソリュートゼロ】に上書きされました》


《サクラの【氷霧アイスミスト】と【氷分身アイスアバター】が、【雪精霊召喚ジャックフロストサモン】に上書きされました》


 神の声が止むと、光が徐々に収まり始めた。


 楓の時と同様に、その場にいた者が皆、サクラが光るとわかっていたので目を瞑っており、奏達はすぐに目を開けるようになった。


 サクラの見た目は、ピンクの体に紫色の目のイルカであることは変わらず、体のサイズも進化前と変わっていなかった。


 しかし、サクラの額にあった赤い水晶玉が、白い真珠に変わっていた。


 そして、サクラの腹部には、白い雪だるまの紋章が浮かび上がっていた。


「おかーさん、進化した!」


「良かったわね、サクラ」


「うん!」


 嬉しそうに頷くサクラを、楓は優しく撫でた。


 サクラが落ち着くまで撫でた後、楓はサクラのデータを確認し始めた。


「【分析アナライズ】」



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名前:サクラ  種族:フロストケートス

年齢:5歳 性別:雌 Lv:100

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HP:3,000/3,000

MP:3,000/3,000

STR:3,000

VIT:3,500

DEX:3,500

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:3,000

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称号:<楓の従魔> <不老不死><聖獣>

スキル:【浮遊フロート】【銀世界スノーワールド】【氷守護アイスガード

    【氷城アイスキャッスル】【健康ヘルス】【魂接続ソウルコネクト

固有スキル:【絶対零度アブソリュートゼロ】【雪精霊召喚ジャックフロストサモン

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装備:氷聖獣の証(楓)

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 先程は、神の声が告げた内容が多過ぎて気付かなかったが、楓はサクラがルナと違って聖獣になっていることに気づいた。


「バアルさん、<聖獣>ってなんですか?」


「ん? あー、<神獣>の前段階の称号だな。良い行いを重ね、一定の強さに達したことで会得したんだ。モンスターから一目置かれ、襲われにくくなる」


「すごいでしょー」


 バアルの説明を聞くと、サクラはドヤ顔になった。


「そうね。偉いわ」


「えっへん」


 ドヤ顔が止まらないサクラに対し、楓は進化出来て余程嬉しかったのだろうと思い、サクラが満足するまでサクラを撫でた。


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