第193話 修行なのね!? ついに、天界で修行編なのね!

 サクラが満足し、楓がサクラの頭を撫でるのを止めてすぐ、奏の耳に伊邪那美の声が届いた。


『奏、ちょっと相談があるえ』


「どうしたんだ?」


『実は、紅葉と響に用があるんだえ。ゲートを開くから、2人に天界に来てもらいたいんだえ』


「天界に? なんで?」


 紅葉と響は、天界旅行中、特に天界の神々と仲良くなった訳でもなく、祝福を受けたわけでもない。


 だから、なんで2人が天界に呼び出されるのか、奏は気になった。


『奏の代わりに、今、ルドラと千里を国外に進出させてるえ。国外進出させるメンバーに、紅葉と響を追加したいんだえ』


「俺の代わりか」


『そうだえ。奏にかなり働いてもらったおかげで、地球から徐々にモンスター達の勢力圏を奪ってるえ』


「ルドラが国外進出したってことは、インドもモンスター討伐率100%になったんだ?」


『なったえ。それも含めて、奏には双月島でゆっくりしててほしいえ。ソロモン72柱は、日本がいち早くモンスターのいなくなった理由を突き止めようと探ってるえ。つまり、奏に目を付けた可能性が高いえ。双月島か天界にいれば、奏はソロモン72柱には気づかれないえ』


「その隙に、他の冒険者が、世界に散ってモンスター討伐率を上げるのか」


『正解だえ。奏を囮にするようで悪いけど、奏がゆっくり休めるようになったえ』


「なるほど」


 自分が休めると聞き、ホッとした奏だったが、紅葉と響がいない所で勝手に決めて良い内容ではない。


 そう思って、奏はルナに紅葉と響を呼んでくるように依頼した。


 ルナはすぐに2人を呼んで来た。


「奏君、どうしたの? って、楓とサクラちゃんが進化してるじゃん」


「奏ちゃん、用事ってこのこと?」


「それとは別件だ。伊邪那美がお前達に天界に来てほしいって言ってる」


「「なんで?」」


 心当たりがないので、紅葉と響は同時に首を傾げた。


「今、俺を囮に他の冒険者で国外進出してモンスターを討伐する作戦が、天界主導で行われてるらしい。それに、2人も参加してほしいんだってさ」


「あー、奏君、どれだけ相手に知られてるかわからないけど、ソロモン72柱に滅茶苦茶恨まれてるもんね、きっと」


「奏ちゃんって、確かに強敵ホイホイだよね」


「言うな。認めたくないから」


「ごめん、現実は非情なんだよ」


 響に言われ、奏は小さく溜息をついた。


『奏、言い忘れてたえ。紅葉と響を天界に呼ぶのは、2人を鍛えるからだえ。それが協力してもらう報酬だえ』


 伊邪那美から補足説明を受け、奏はそれをそのまま紅葉と響に伝えた。


 すると、紅葉が目を輝かせた。


「修行なのね!? ついに、天界で修行編なのね!」


「メタ的な発言すんな」


「ごめん、つい。それで、私は誰に修行に付き合ってもらえるの?」


 紅葉の質問に対し、伊邪那美が奏に伝えた。


『オーディンだえ』


「・・・マジか」


「奏君?」


 自分の質問に答える訳ではなく、驚いた様子の奏を見て、紅葉は何が起きたのか訊ねた。


「あっ、悪い。今、伊邪那美から誰が紅葉の面倒を見てくれるのか聞いたんだ。誰だと思う?」


「奏君が驚いたってことは、相当なビッグネームね。まさか、クー・フーリン?」


「いや、オーディン」


「なん・・・、だと・・・」


 予想以上のビッグネームが飛び出したことで、紅葉は一瞬頭が真っ白になった。


 修行ならば、天界でも戦闘に精通した天使が面倒を見てくれると思っていた。


 まさか、神が自分の修業を見てくれるとは誰も思わないだろう。


 そんな予想は、良い意味で裏切られた訳だが、紅葉はしばらくして正気に戻って口を開いた。


「オーディンさん、槍の名手だもんね。勉強させてもらうわ」


「行くのか?」


「勿論。オタクとして、神との修行イベントは外せないわ。国外進出だって、エジプトと一緒でしょ? 全然OK」


「そうか」


 紅葉が了承すると、伊邪那美はホッとした様子だった。


『紅葉が来てくれて良かったえ。響はどうかえ?』


「響はどうする?」


「僕の師匠は誰?」


 響が尋ねると、伊邪那美が奏に答えを伝えた。


『ロキだえ』


「え?」


『心配しなくて大丈夫だえ。奏の名前を出すだけで、ブルブル震えて従順になったえ。問題児が言うことを聞くようになって、本当に助かってるえ』


「俺の名前、印籠代わりに使われてるのか」


『まあ、そう言わないでほしいえ。ロキは、今後奏に一切不利益なことをしないと此方達に誓ったえ。これを破れば、神罰が下るから、ロキと言えど破ることは決してないえ』


「どんだけ恐れられてんだよ」


『すっかりトラウマになったみたいだえ。それで、響の師匠はロキが自分からやってみたいって言ったえ。見どころがあるから、鍛えてみたいって言ってたえ』


 ロキと響の組み合わせを想像して、奏はとても嫌そうな顔をした。


 伊邪那美の声は、祝福を受けていない響には聞こえない。


 だから、響は奏に訊ねた。


「奏ちゃん、僕の師匠ってそんなにヤバいの?」


「ロキだってさ」


「ちょっ、ちょっと! 響とロキなんて駄目でしょ!? 混ぜるな危険よ!」


 響が反応するよりも先に、紅葉が反応した。


「確かに、響嬢ちゃんとロキの組み合わせは、どうなるか見たくねえな」


 紅葉の反応に対し、バアルは苦笑しながら同意した。


「反対! 断固反対! 狡知神として知られるロキと毒舌な響の修業なんて、修行後に碌なことにならないわ! それに、奏君と敵対してたじゃん! なんで響の修業をするのよ!」


「俺に倒された後、伊邪那美達に対して、ロキは今後俺に絶対不利益なことはしないって誓ったらしい」


「へえ、そうなんだ。うん、期待できそう。奏ちゃん、僕も行く」


 奏の話を聞くと、響はニヤリと笑った。


「意外だな。響だったら、面倒だって断ると思ったんだが」


「奏ちゃん頑張ったし、楽をさせてあげようかなって思って」


「・・・本音は?」


 響があまりにも響らしからぬことを言ったから、奏はジト目で正直に話すように言った。


「ロキと修行したら、紅葉をからかって反撃された時の対抗手段が色々と増えそうだから」


「あのさ、私をからかうために修行するんじゃないわよ」


「フッフッフ。紅葉、首を洗って待っててね」


「響がその気なら、こっちもオーディンさんとの修行ですっごく強くなって、響が私を怖がって何も言えなくなるぐらいになってやるわ」


「おーい、目的がズレてんぞ?」


「大丈夫よ、奏君。私には、奏君の<不退転覇皇ドレッドノート>みたいに強そうな二つ名を手に入れるって目的もあるから」


「うん、もういいや。頑張れ」


「奏、諦めたらそこで終わりだぜ?」


 自由な紅葉と響の様子から、奏はまともに付き合うと疲れるので、好きにさせることにした。


 そんな奏を見て、バアルはもうちょっと頑張れよと思ったのだが、無理に奏に2人の手綱を握らせるようなことはしなかった。


『じゃあ、転移門ゲートを開いて待ってるえ。2人と一緒に、従魔も連れて来ると良いえ』


 伊邪那美は満足そうに言うと、これを最後にこの場で奏の耳に伊邪那美の声は聞こえなくなった。


 それから、紅葉、響、迦具土、月読、ピエドラ、アランは準備を整えると、転移門ゲートが開いた礼拝堂に移動した。


 紅葉達を見送る時、楓はとても良い笑顔だった。


「体に気を付けてね。それと、頑張って強くなって、奏兄様に楽をさせてね」


「楓、私達がいなくなるからって、奏君とイチャイチャするのも程々にしなさいよ?」


「聞こえな~い」


 ニッコリとした笑みを浮かべ、紅葉が何を言っているのかわからない風を装う楓を見て、響は戦慄した。


「なるほど、楓がこんなに良い笑顔なのは、僕達が修行に行くことで、自分が奏ちゃんとイチャイチャできるからなんだ」


「奏君を休ませることもできるのは事実だから、私が行くことに異論はないけどね」


「僕もそう思う。奏ちゃんが頑張ったのは事実なんだし」


近衛兵ロイヤルガードたるもの、主君に楽をしてもらえるぐらい強くならなきゃ」


暗殺者アサシンたるもの、強くなって紅葉に寝起きドッキリ仕掛けられるようにならなきゃ」


「おいコラ待てや。大体、響はいつも私よりも起きるの遅いじゃないの。私よりも早く起きるなんてできるの?」


「紅葉をからかうためなら、早起きだって辞さない覚悟」


「そのやる気、別のことに活かしなさいよ」


「断る」


 言い合いする紅葉達に対し、奏は流れを切るためにも送り出す言葉を口にした。


「気を付けてな」


「「行ってきます」」


 紅葉と響は、奏達に手を振って天界へと向かった。

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