第18章 神々の弟子

第191話 ただ呼吸をすれば良いのか。得意分野だ

 奏達が天界から戻って来た翌日、奏は楓とサクラにせがまれ、【全創造オールクリエイト】で進化の証を創り出した。


 1つの進化の証を創るだけで、MPを一気に10,000も消費したため、奏は疲れていた。


 普通の冒険者で考えてみれば、2,000以上MPがあるなんて状態は夢のまた夢だ。


 うっかり、いくらでもスキルを使えると錯覚してしまうぐらいだろう。


 それでも、奏にとってMPがごっそり減れば、疲れてしまうのも仕方のないことだと言えよう。


「うぅ、体が怠い。もう、寝ても良いよな?」


「まだ朝じゃねえか。つーか、普通は怠いじゃ済まねえからな?」


 奏が恨めしそうに漏らした言葉に、バアルがジト目で応じた。


「奏兄様、無理を言ってすみません」


「いや、楓にはいつも家事を頑張ってもらってるし、悠の世話もしてくれてるから、これぐらいはやるさ」


「奏兄様ぁ・・・」


 ソファーに身を預け、ぐったりしている奏に対し、楓は頬を紅潮させてその隣に座り、奏の頭をそのまま自分の膝の上に持って来た。


 疲れてしまった奏を労おうと、楓は膝枕しているのである。


 (改めて見ると、マジで大きいな。楓の顔が全く見えない)


 奏の視界には、楓の巨大な双丘だけが映り、楓の顔が全く見えなかったので、そんな感想を抱いた。


「奏、動くの怠いなら、【仙術ウィザードリィ】の練習でもしとけよ。あれを使えば、MPの回復速度が上がるから、早く動ける程度に回復するぜ?」


「わかった。やってみる。【仙術ウィザードリィ】」


 スキルを発動した途端、奏は周囲に神殿内に充満する神聖な気とも呼べる力を感じ取った。


「なんだこれ?」


「へぇ、早いじゃねえか。もう、神域の気を感じ取れたのか」


「気?」


「奏には足りてないやる気、元気とかの気だ」


「余計なお世話だ。というか、この気をどうすれば良いんだ? 取り込むのか?」


 ムスッとした表情の奏だが、体の外側に感じる力をどうすれば良いのか、直感的にわかったのでバアルに確認した。


「その通りだ。深呼吸の要領で取り込んでみろ」


「ただ呼吸をすれば良いのか。得意分野だ」


「得意分野の範囲がニッチだな、おい」


 バアルのツッコミに言葉を返すことなく、奏は呼吸に集中した。


 体の外側にある気を取り込めるよう、意識して呼吸をすると、少しずつではあるが着実に体が楽になるのを感じた。


「マジかよ。一発で神域の気を取り込んで、MPに変換してやがる。奏、お前マジで呼吸が得意なんだな」


「流石は奏兄様ですね!」


 自分が褒められたのと同じぐらい嬉しいらしく、楓は声を弾ませた。


 それにより、楓のたわわに実った果実がプルンと揺れるのだが、奏は呼吸に集中しており、邪念で呼吸が乱れることはなかった。


 そして、気づけば奏の呼吸は寝息へと変わっていた。


「奏、お前って奴は、マジで寝ることが好きだなぁ・・・」


「それが奏兄様ですから。天界でも、終盤は休めてませんでしたし、ゆっくり休ませてあげましょう」


「終盤っつーか、割と序盤でも風呂で激しく動いてたけどな」


「バアルさん、何か言いたいことがあるんですか?」


「なんでもねえ」


 家族風呂の中にある愛の湯で、楓が奏を連行して滅茶苦茶奏を堪能したことを思い出し、バアルがそれを遠回しに口にすると、楓の視線が鋭くなった。


 それを受けて、バアルは虎の尾を踏みたくはなかったので、すぐに誤魔化した。


「ヘラ、悪いけど悠のことを見てて」


「任せなさい。私が悠の面倒を見とくから、ちゃんと奏を膝枕してあげなさい」


「ありがとう」


 楓だけが妻として愛されるように、奏と接する機会があればそれをフォローするヘラは、とても嬉しそうだった。


 ゼウスが好色なので、奏が楓とイチャイチャする時間が多いことは良いことだと思っているのだろう。


 1時間程すると、奏は目を覚ました。


「ん? 寝ちゃってたか?」


「起きたんですね、奏兄様」


「ああ。なんか体がスッキリしてる」


 楓の膝の上から頭を動かし、奏は起き上がって伸びをした。


 そこに、バアルが戻って来た。


「それが【仙術ウィザードリィ】の効果だ。つーか、寝ながらスキルを使って気を取り込んでMPに変換するなんて、よくできたもんだぜ」


「寝るのも得意分野だからな」


「お、おう。そうだな。寝ることが一番得意だよな」


「当然だ」


 奏、渾身のドヤ顔である。


 それから、楓は奏に訊ねた。


「奏兄様、進化の証を使っても良いですか?」


「ああ。使ってくれ。というか、俺を膝枕してたせいで、使うのが遅くなってごめんな」


「良いんです。奏兄様のお世話ができて、私も幸せでしたから」


「そっか」


「はい」


 楓に満面の笑みでそう言われれば、奏から言うことはない。


 だから、奏は楓に進化の証を渡した。


 楓はそれを受け取ると、早速使った。


 それにより、楓の体が激しい光に包まれた。


《おめでとうございます。個体名:高城楓が、亜神エルフから上亜神ハイエルフに進化しました》


《楓が上亜神ハイエルフに進化したことで、双月島に上亜神ハイエルフの夫婦が揃い、世界樹の力が強まりました。特典として、双月島での農作物が収穫期では常に豊作になります》


《楓の<不老長寿>が、<不老不死>に上書きされました》


《楓の【聖域サンクチュアリ】と【範囲浄化エリアクリーン】が、【浄聖域クリアサンクチュアリ】に統合されました》


《楓の【家事ハウスワーク】が、【侍女心メイドハート】に上書きされました》


 神の声が止むと、光が徐々に収まり始めた。


 奏の時とは異なり、その場にいた者が皆、楓が光るとわかっていたので目を瞑っており、奏達はすぐに目を開けるようになった。


 楓の外見は、奏と同様に耳が長くなって、前よりも妖精っぽくなった。


 それに加えて、奏はある変化に気が付いた。


「楓、また背が伸びた?」


「えっ本当ですか!? でも、言われてみれば奏兄様と目線が近くなった気がします!」


 楓が嬉しそうに言うと、バアルは静かにヘラに訊ねた。


「で、今回もヘラがやったんだろ?」


「まあね。楓の体に支障が出ないように、5センチ背を伸ばしたわ」


 その会話を耳聡く拾った楓は、喜びのあまり奏に抱き着いた。


「やりました! 四捨五入しなくても、160の大台に乗りました!」


「おめでとう、楓」


「えへへ♪」


 奏に目で褒めてほしいと訴え、奏はそれを察知して楓の頭を撫でた。


 楓が160センチで大台と呼ぶのは、亜神エルフに進化した時と変わらない。


 やはり、元々背が低かった楓にとっては、160センチに到達しただけでも、本当に嬉しかったのだろう。


 落ち着きを取り戻してから、楓は奏に抱き着いたまま、自分の情報を確かめ始めた。


「【分析アナライズ】」



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名前:高城 楓  種族:上亜神ハイエルフ

年齢:20 性別:女 Lv:100

-----------------------------------------

HP:9,270/9,270

MP:11,430(+11,430)/11,430(+11,430)

STR:9,270

VIT:9,270(+50)

DEX:9,270(+50)

AGI:11,430

INT:11,430(+11,430)

LUK:9,270

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称号:<聖女><覇皇妃>

   <専属メイド><不老不死>

職業:聖職者クレリック

スキル:【分析アナライズ】【超級回復エクストラヒール】【超級治癒エクストラキュア

固有スキル:【天使応援エンジェルズエール】【記憶消去メモリーデリート

      【浄聖域クリアサンクチュアリ】【侍女心メイドハート】   

-----------------------------------------

装備1:ヘラ(ワンドスキン)

装備1スキル:【擬人化ヒューマンアウト】【束縛バインド

      【助産ミッドワイファリー】【拒絶リジェクト

装備2:約束の簪(同化:八尺瓊勾玉)

装備2スキル:【自動回復オートヒール】【自動状態回復オートキュア

装備3:パーフェクトメイドセット

装備4:結魂指輪(奏)

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パーティー:高城 奏

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従魔:サクラ(クリスタルケートス)

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「【浄聖域クリアサンクチュアリ】と【侍女心メイドハート】は、固有スキルなんですね。バアルさん、説明お願いします」


「おう、任せとけ。【浄聖域クリアサンクチュアリ】は、【範囲浄化エリアクリーン】と【聖域サンクチュアリ】の2つの効果が強化して統合された。指定した範囲の一切の汚れを消して、そこを清浄で敵対者の入れない聖域にする効果がある」


「つまり、カビや頑固な汚れも、これからは敵じゃなくなるんですね?」


「・・・奏と言い、楓嬢ちゃんと言い、なんかスキルの解釈の仕方が違うんだよなぁ」


「スキルの使い方は人それぞれです。気にしないで下さい。次、お願いします」


「わかった。【侍女心メイドハート】はパッシブスキルだ。家事だけでなく、尽くしたいと思った相手のための行動に補正がかかるようになる」


「もっと、奏兄様と悠に喜んでもらえるんですね。良いスキルです」


「そうだな」


 なんというか、家事向きにスキルが強化されたことを受けて、奏は楓に対して申し訳なくなった。


「楓、俺に手伝えることがあったら、どんどん言ってくれ。俺だって、楓だけを働かせてのんびりしたい訳じゃない。楓と一緒にのんびりしたいから」


「大丈夫です。私、奏兄様と悠のお世話ができるのが幸せですから。でも、奏兄様にお願いできるのであれば、早く悠の弟か妹が欲しいです」


「・・・努力する」


 まさか、家事を手伝うと言ったつもりが、早く2人目を作るために頑張ってほしいと言われるとは思わなかった奏であった。

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