第186話 俺の休暇を邪魔するな

 紅葉達が神造生命体ホムンクルスのガルムを倒した頃、奏とオーディンは分断されていた。


 奏とオーディンがロキに追いつくと、ロキはその背後に何体ものガルムを率いて待っていた。


「では、第二ラウンドだ。今度は、俺の造ったガルム達と戦ってもらうよ」


「ロキ、神造生命体ホムンクルスを完成させておったのか」


「オーディンと戦うなら、これぐらい用意するさ」


「オーディン、神造生命体ホムンクルスって何? モンスターと違うの?」


 オーディンとロキにとって、神造生命体ホムンクルスは既知の存在だったが、奏にとっては未知の存在だったので、奏はオーディンに訊ねた。


「おや、神造生命体ホムンクルスを知らない? それなら、俺から説明させてもらおう」


「素人にもわかりやすく頼む」


「ククク。敵に注文するなんて、奏はどこまで面白い存在なんだ。 まあ、良いだろう」


 知的好奇心が強いロキは、自分の成果物を自慢することも好きらしく、奏に嬉々として自ら説明を買って出た。


「奏、モンスターとはどんな存在かね?」


「えっ、倒せば必ず魔石をドロップして、偶にマテリアルカードやモンスターカードをドロップする存在じゃないの? よくわからないけど」


「その通り。モンスターは魔石を必ずドロップし、マテリアルカードやモンスターカードを偶にドロップする。魔石がヒューマンにとっての心臓だから、それが毎回ドロップすることは理解できる。だが、カードが出現する仕組みは不明だ。違うか?」


「違わないが、それがなんだって言うんだ?」


「そのカードが出現できる仕組みを探す過程で、俺はモンスターを造ってみた。それが、神造生命体ホムンクルスの始まりだ」


「じゃあ、広義的には神造生命体ホムンクルスはモンスターってことか」


「そういうことだ。ちなみに、神造生命体ホムンクルスは魔石もカードもドロップしない」


「それは、造られたからか?」


「正解だ。致命傷になる傷だけ急いで回復し、通常の傷は特に回復することはない。魔石に蓄積されたMPがなくなるまでは神造生命体ホムンクルスは動き続ける」


「要は自己修復機能のあるロボットってことか」


「ロボットじゃないが、それで理解できたのなら、そう理解してくれたまえ」


 神造生命体ホムンクルスについて、大枠を理解してもらえたと判断し、ロキはそれで良しとした。


「話は終わったようじゃな。じゃあ、喰らうが良い。【範囲魔力吸収エリアマナドレイン】」


 キュィィィィィン!


 ロキの説明が終わると同時に、オーディンは神造生命体ホムンクルス達の隊列の中に移動してスキルを発動した。


 それにより、オーディンを中心に青白い渦が発生し、神造生命体ホムンクルス達からオーディンはMPを吸収した。


 ドサドサドサドサドサッ!


 オーディンにMPを吸収し尽くされ、神造生命体ホムンクルスは行動不能になって次々に倒れた。


「うっ・・・」


「かかったな、オーディン」


 神造生命体ホムンクルスを倒し、MPを吸収したはずのオーディン学問の表情を浮かべた。


 それに対し、神造生命体ホムンクルス達を使い物にならなくされたのに、ロキはゲス顔でオーディンを見ていた。


「また、あの毒か・・・」


「クックック・・・。フハハハハ・・・。ハーッハッハッハ! ご名答! いやぁ、懲りないなぁ、オーディン! 実に滑稽だ!」


 どうやら、オーディンは自分を苦しめていた毒を、【範囲魔力吸収エリアマナドレイン】を経由して受けてしまったらしい。


 自らの策略が、ここまで上手くいくとは思っていなかったので、ロキは開いた口が塞がらない様子である。


 そんなロキの油断した様子を見れば、奏が何もしかけないはずがなかった。


「【転移ワープ】【聖橙壊ホーリーデモリッション】」


 キュイン、ドゴゴゴゴゴォォォォォン!


 オーディンを嘲笑っていたせいで、奏の姿を見失ったロキは、直後に脳天に踵落としを喰らって地面に叩きつけられた。


 数々のバフにより、STRの数値が異常なことになっている奏の一撃を受け、ロキは地面にキスする羽目になったのだ。


「オーディン、これは高くつくぞ。【無限収納インベントリ】」


 ロキが地面に倒れている間に、奏はオーディンの口にアムリタを突っ込んだ。


 アムリタを飲み干したオーディンは、瓶を床に捨てて奏に礼を言った。


「すまんのう。またやられてしもうたわい。ロキを倒した後、礼は必ずするのじゃ」


 オリジナルではないとはいえ、数時間でアムリタ2本を貰っているのだから、オーディンは自分の浅慮を恥じた。


 そうなれば、もうオーディンに油断はない。


「【聖束縛鎖グレイプニル】」


 シュルルルルルッ、ビシィィィィィン!


 倒れているロキの体に、光の鎖が巻き付いて拘束した。


「ぐっ、おのれ」


「少し、躾が必要なようじゃな。【必中投槍グングニル】」


 ブンッ! グサッ!


「ぐぁ・・・」


 サァァァァァッ。


 体に槍が刺さった途端、ロキの体が灰になり、【必中投槍グングニル】の衝撃で後方に吹き飛んだ。


「縄抜けされたかのう。スキルを使った様子は見当たらなかったんじゃが」


「一体いつからスキルを使ってないと錯覚してた?」


 その声に少し遅れて、傷が完全に治った姿のロキが現れた。


「ふむ。奏に地面に叩きつけられた時じゃな。あの時、ロキの顔が地面に向いておったから、儂等に気づかれることなく使うとなれば、そこしかあるまいて」


「ご名答! 【苦痛返礼ペイバック】」


「ぬぉぉぉぉぉっ!?」


 ロキが嬉々としてスキル名を口にした途端、オーディンが苦しみ始めた。


「触れてないのに、なんでオーディンが苦しむ?」


「これはな、使用者が発動までに受けた痛みを返すスキルだ。奏の攻撃、オーディンの攻撃と色々受けてたから、一気に喰らったら痛いだろうさ」


「リスクを伴うスキルだな」


「その通り! 神生じんせいにリスクは付き物なんだ! だから、リスクとリターンが反転しやすい戦闘が大好きだ!」


「戦うのが好きとか、理解に苦しむよ」


「奏、俺は戦闘が好きだ。奏、俺は戦闘が好きだ。奏、俺は戦闘が大好きだ! 殲滅戦が好きだ。電撃戦が好きだ。打撃戦が好きだ。防衛戦が好きだ。包囲戦が好きだ。突破戦が好きだ。退却戦が好きだ。掃討戦が好きだ。撤退戦が好きだ。平原で、街道で、塹壕で、草原で、凍土で、砂漠で、海上で、空中で、泥中で、湿原で、この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ!」


 突然、ロキがハイになり、恍惚の表情で語り始めるので、奏は天照に手をやった。


「【転移ワープ】」


「それはもう、見切ったよ。【苦痛幻想ペインファンタジア】」


 奏が自分の背後に【転移ワープ】に移動し、攻撃するのを見切り、ロキはスキル名を唱えた。


 ところが、奏には何も起こらなかった。


「馬鹿な!? 何故効かない!?」


「あぁ、俺、【仙術ウィザードリィ】があるから、状態異常効かないんだ」


「何ぃっ!?」


「それと、ソーマも持ってるから。【無限収納インベントリ】」


 今度は、アムリタではなく、ソーマを取り出して倒れているオーディンの口に突っ込んだ。


 勿論、これもオリジナルのソーマではなく、以前、【創造クリエイト】で用意したものである。


 オーディンのダメージが完全に回復すると、ロキは驚愕した。


「そんなのチートじゃないか! 確率論、仕事しろ!」


「偶然だよ、偶然。チートなんて人聞きの悪いこと言うな」


「偶然じゃよ。正直、儂もこんなことあって堪るかと思ったんじゃが、その偶然に3度助けられたんじゃから、何も言えんわい」


「なん・・・、だと・・・」


「じゃあ、もう終わりで良いよな?」


「まだだ! お前は無事でいられても、横の老いぼれは無事ではいられまい! 【苦痛幻想ペインファンタジア】」


 ロキは少しでも戦力を削ろうと、オーディンを狙ってスキルを発動した。


 しかし、オーディンは奏の後ろに回り込み、【苦痛幻想ペインファンタジア】を避けた。


「爺、恥ずかしくないのか!? 自分よりも目下の存在の背中に隠れるなんて、恥を知れ! 正々堂々と戦え!」


「ホッホッホ。ロキの口から正々堂々とは、日本風に言うなら臍が茶を沸かすわい」


「くそぉぉぉぉぉっ!」


 ロキは自分の劣勢が覆らないと悟り、全力で逃げ出した。


 だが、ロキは誰を相手にしたのかまだわかっていなかった。


「逃がさない。【世界停止ストップ・ザ・ワールド】」


 その瞬間、奏以外の全てが灰色に染まり、時が止まった。


 奏が【世界停止ストップ・ザ・ワールド】を使える限り、ロキが奏から逃げ切れることはない。


 それでも、神の逃げ足はかなり速く、一瞬で奏が飛んで移動するのは面倒だと思うぐらい遠くには移動していた。


「【技能付与スキルエンチャント:<蒼雷罰パニッシュメント>】」


 バチバチバチバチバチィッ!


 休暇を邪魔されたイライラが込められているせいで、天照に付与された蒼い雷がいつもよりも鋭い。


「俺の休暇を邪魔するな」


 スパパパパパァァァァァン! ズドォォォォォォォォォォン! ゴォォォォッ!


 奏は容赦なく、動けないロキを滅茶苦茶天照で斬りまくった。


 斬撃、雷撃、劫火を一瞬でその体に受け、サイコロカットされたロキの肉片がすぐには修復できないレベルで損傷した。


 ロキはモンスターじゃないので、魔石を遺して消えたりはしないが、今日与えられた痛みがこれから先ずっとロキの脳内に刻み込まれたのは言うまでもない。

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