第187話 俺は何も訊いてないし、バアルも話さなかった。OK?

《おめでとうございます。個体名:高城奏は、人類で初めて神に完封勝利しました。その特典として、<神狩り>を会得しました》


《奏の<覇皇>と<英雄ヒーロー>、<神狩り>が、<不退転覇皇ドレッドノート>に上書きされました》


 神の声が止むと、オーディンが動いた。


「【聖束縛鎖グレイプニル】」


 シュルルルルルッ、ビシィィィィィン!


 いくつもの肉片となったロキに、光の鎖が巻き付いて拘束した。


 コン。


 光の鎖でぐるぐる巻きになった全てのロキの肉片を、オーディンが槍の穂先で軽く叩くと、光の鎖が圧縮されてビー玉サイズになった。


 それを軍服のポケットにしまうと、オーディンは奏に頭を下げた。


「すまんかったのう。本来であれば、儂がきっちりと管理しとくべきだったんじゃが、ロキが思いの外用意周到だったせいで、後手に回ってしまったわい」


「そりゃ、2回も毒を盛られて、1回死にそうなダメージを受ければ、後手に回ってるよな」


「うっ、奏には老神を労わる優しさがないのかのう」


「労わらなきゃならない程弱くない。第一、取り巻きの神を一瞬で倒してただろ?」


「そうじゃったな。まあ、冗談はさておき、貴重な薬を2つも消費させたからのう、これはその礼じゃ」


 そう言って、オーディンは深緑色の宝玉を奏に差し出した。


「これは?」


「シルフエメラルドじゃ。これを使うと、風系統のスキルを使うモンスターが進化できるわい。奏の従魔にぴったりじゃろう?」


「なるほど。ありがたくいただこう」


 奏がシルフエメラルドを貰い受けた途端、奏の体が光を放った。


 光が収まると、ルナが【憑依ディペンデンス】を解除して奏の隣に現れた。


「パパ~、お疲れ様~」


「ルナこそ。ありがとう」


「エヘヘ♪」


 奏がルナの頭を撫でると、ルナはとても嬉しそうに奏に擦り寄った。


 ルナが満足してから、奏はルナに話しかけた。


「ルナ、ルナが進化できるシルフエメラルドを貰ったけど、使いたい?」


「使って! ルナも<不老不死>欲しい! ずっとパパと一緒が良いの!」


「わかった」


 ルナがノータイムで使ってくれと頼んだので、奏はルナにシルフエメラルドを使った。


 その瞬間、神の声が奏の耳に届くのと同時に、奏達のいる辺り一帯が光に包み込まれた。


《ルナが進化条件を満たしたことにより、シルフエメラルドの効果で進化を開始します》


《おめでとうございます。個体名:ルナは、テンペストグリフォンで初めて2回目の進化により、シルフィーグリフォンに進化しました。初回特典として、ルナの従魔の証が風神獣の証にグレードアップされました》


《ルナの<奏の従魔>が、<奏の神獣>に上書きされました》


《ルナの<不老長寿>が、<不老不死>に上書きされました》


《ルナの【螺旋風刃スパイラルエッジ】が、【絶対斬刃アブソリュートエッジ】に上書きされました》


 神の声が止むと、光が徐々に収まり始めた。


 突然発光したせいで、奏達の視力が元通りになるのに少し時間がかかった。


 奏達が目を開けられるようになったのは、神の声が止んでから1分経過してからのことだった。


 目を開けられるようになってすぐ、奏はルナの体を隅々までチェックし始めた。


 1回目の進化と同じように、ルナの見た目は翡翠色の体に金色の目であり、体のサイズも変わっていなかった。


 しかし、左目を囲うように会った嵐のマークが消え、その代わりに深緑色の妖精の紋章が胸元に浮かび上がっていた。


 そして、従魔の証が風神獣の証になったことで、色は深紅のままだったが、金色の翼の紋章が入っていた。


「パパ~♪」


「ルナ、進化したな」


「うん♪ 前よりも、ずっと体が軽いの♪」


「そうか。良かったな」


「えへへ♪」


 奏が頭を撫でると、ルナは嬉しそうに奏に頬擦りした。


 奏はルナを甘やかしながら、ルナのデータを確認し始めた。


「【分析アナライズ】」



-----------------------------------------

名前:ルナ  種族:シルフィーグリフォン

年齢:5歳 性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:9,180/9,180

MP:11,340/11,340

STR:9,180

VIT:9,180

DEX:9,180

AGI:11,340

INT:11,340

LUK:9,180

-----------------------------------------

称号:<奏の神獣><神獣姫><不老不死>

スキル:【飛行フライ】【嵐守護ストームガード】【収縮シュリンク】【翠葉嵐リーフストーム

固有スキル:【翠嵐砲テンペストキャノン】【碧風再生グリーンリジェネ

      【憑依ディペンデンス】【絶対斬刃アブソリュートエッジ

-----------------------------------------

装備:風神獣の証(奏)

-----------------------------------------



 ルナも進化により、かなり強くなっていた。


 風神獣ということは、ルナは風を司る神獣なのだろうと奏が考えていると、バアルの声が耳に届いた。


『おい、奏、無事か? 黒い幕が消えたが、ロキを倒したのか?』


「無事だ。ロキは倒した。今戻る」


 バアルに呼ばれたので、奏達は【転移ワープ】でバアル達と合流した。


 バアル達は、帰って来た奏とルナに変化を感じた。


 特に、ルナの場合は見た目が変わっていたので、楓とサクラの反応が素早かった。


「ルナちゃんが進化してます!」


「ルナ、ズルい!」


 オーディンのお礼であるとはいえ、自分達よりも先に進化して<不老不死>を会得していたので、楓とサクラはムスッとした表情になった。


「エヘヘ~。良いでしょ~」


「ルナ、嬉しいのはわかるけど、楓とサクラを煽らないように」


「は~い」


 奏の言うことに対し、ルナは素直に従い、ルナはそのまま奏に甘えた。


 奏はルナの頭を撫でながら、バアルに訊ねた。


「バアル、いくつか確認したい。<不退転覇皇ドレッドノート>ってどんな効果? ロキを倒したら手に入ったんだけど」


「・・・奏、お前本格的に神の領域に入っちまってるじゃねえか」


「えっ、マジ?」


「おうよ。<不退転覇皇ドレッドノート>っつーのは、戦闘時に全能力値10倍になり、自分よりも弱い敵が気配を感じただけで逃げ出すし、破壊不能な物がほとんどない。挙句の果てに、生物を倒すと全能力値が+100されて、自分よりも強者と戦う時は、更に能力値が3倍になるスキルだぜ」


「俺は何も訊いてないし、バアルも話さなかった。OK?」


「奏!? おい、しっかりしろ!」


 奏は遠い目をして、ルナの頭を撫でて現実逃避し始めたから、バアルは慌てて奏に声をかけた。


「だってさ、よくよく考えたら、ロキを倒しちゃった訳じゃん?」


「そうだな」


「そんな力が手に入ったら、どうせ第二第三のロキが俺にちょっかいかけて来るじゃん?」


「その可能性はあるな」


「もう、俺の寝放題ライフはどこにもないじゃん・・・」


「駄目だ、これは俺様にも癒せねえ。楓嬢ちゃん、なんとかしてくれ!」


 強大な力のせいで、ロキに注目されたことを思い出し、自分の力が更に強まったことで、今後はた迷惑な連中に絡まれるだろうと思うと、奏の気分が沈んだ。


 バアルも奏の予想をすぐに否定できなかったので、奏を元気にする言葉が見つけられなかった。


 こうなれば、奏を癒すプロである楓に任せるしかないのだ。


「奏兄様、疲れちゃいましたね。ご飯食べたら、一緒にゆっくり寝ましょう♪」


「そうする」


「薫風庵に向かうえ」


 こうなってしまった奏は、とりあえず休ませるしかない。


 それがわかっているので、楓は奏の世話ができると弾んだ声で奏の世話を買って出た。


 伊邪那美も、自分達が天界に招待してゆっくり休んでもらおうと思ったのに、帰って奏を働かせてしまったことに罪悪感を感じ、すぐに奏達を薫風庵に連れて移動した。


 その後、奏達は遅めの夕食を取った後、温泉に浸かってからそれぞれの部屋で休むことになった。


 <不退転覇皇ドレッドノート>の効果を聞き、ショックを受けた奏を甲斐甲斐しく楓が面倒を見たことで、奏は翌朝には気分がかなり回復していた。


 また、楓も奏が普段自分に甘えることはほとんどないので、奏をひたすら甘やかすことができてツヤツヤした表情になっていた。


 一泊二日の天界旅行は、急に始まってハプニングも多々あったけれど、トータルで考えれば奏達にとって得るものの多い休暇となった。


 ちなみに、奏達が帰った後、伊邪那美とガネーシャに半日以上説教されたオーディンの姿が天界で目撃されたが、それはまた別の話である。

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