第184話 俺の長い生の中でも、こっち見んななんてオーディンにも言われたことないぞ

 奏が<不老不死>を会得したと知ると、楓はわなわなと震えて奏に抱き着いた。


「そ、奏兄様、私を置いて行かないで下さい」


「ん? 別に楓を置いて行くつもりはないぞ?」


「違うんです。奏兄様だけ、<不老長寿>ではなく、<不老不死>を会得してしまいました。私、奏兄様と一緒が良いです」


「あぁ、そういうことか」


「パパ、ルナも一緒が良い」


「サクラも」


 楓だけでなく、ルナとサクラも奏だけが<不老不死>したため、自分達も一緒が良いと主張した。


「・・・【全創造オールクリエイト】を使って、進化の証を創るか?」


「はい! お願いします!」


「ルナも!」


「サクラも!」


 奏は考えた末、自分が使って仕組みのわかった進化の証を創り出せば良いと結論を出すと、楓とルナ、サクラが是非そうしてほしいと頼んだ。


 だが、そこにバアルが待ったをかけた。


「奏、ちょい待ち。創るのは構わねえが、それはロキを倒してからにしとけ。普通、進化の証なんて【全創造オールクリエイト】で創らねえよ。創る時、膨大なMPを消耗するのは間違いねえ。戦いの前に、そんなものを3枚も作れねえだろ?」


「だってさ。楓、ルナ、サクラ、ロキを倒すまで待てるか?」


「わかりました。私にできることはなんでもします。さっさとロキを倒しましょう」


「ルナもやる!」


「サクラも!」


 不老不死になりたい、いや、奏と同じ状態でありたいという自分達の願いの強さから、楓とルナ、サクラのやる気が上がった。


「ところで、バアル、【日光再生サンリジェネ】の効果って何? 日の光を浴びたら、HPが回復するの? それとも、部位欠損が治るの?」


「前者が近いな。こいつはパッシブスキルで、日の光を浴びれば、HPとMPがどんどん回復するスキルだ」


「奏、お母さんもなかなか役に立つでしょ?」


「日が当たらない所だったら、産廃スキルに早変わりだけどな」


「どぼじでぞんなごど言うのぉぉぉぉぉ!?」


 バアルにグサッと言われ、天照は自信あり気な様子から急激に落ち込んでしまい、大粒の涙を流しながらバアルに抗議した。


「あー、しまった。奏、パス」


「ぎゃっ」


 天照の方向をくるっと反転させ、奏に向かって押し出すと、天照がバランスを崩して奏に抱き着くように倒れ込んだ。


 奏の胸に顔を埋め、奏に抱き着いた状態で固まると、泣いている時に出ていた鼻をすする音や声が消えておとなしくなった。


 伊邪那美は、その様子を不審に思い、天照の首根っこを掴んで回収した。


「あぁ、奏に合法的に抱き着けたのにぃぃぃっ!」


「これ、天照。いい加減にするえ。この後、大事な殴り込みなんだえ。遊んでる場合じゃないえ」


「母様、今、良いところだったのに」


「良いからとっとと武器の姿に戻るえ」


「・・・はい」


 伊邪那美に叱られ、天照は天叢雲剣の姿に戻り、奏の腰に収まった。


「オーディン、かなり脱線しちゃったけど、これで俺はロキと戦えそうか?」


「そうじゃな。奏には、いくつもの称号によるバフもあるし、他者からのバフも受け付けられる。これなら、渡り合うことは可能じゃろう」


「渡り合うだけじゃ駄目だな。俺は、ロキを潰して休みを謳歌したいんだ」


「ならば、儂もついて行こう。そろそろ、義弟に灸を据えねばなるまい。儂を毒で苦しめたのじゃから、その倍はやり返さねばやられっ放しになるのでのう」


「わかった。じゃあ、案内してくれ」


「よかろう。準備は良いか?」


「ああ」


「では、往くぞ」


 パチン。


 オーディンが指を鳴らすと、奏達の見ている風景が石造りの建物の中から、夜襲に備えて篝火を焚く砦の中庭に瞬間移動した。


 砦の中庭には、オーディンの姿に化けたロキとそれに従う神、その配下の天使達が集まっていた。


「儂が留守にしてる間に、砦に立て籠もるとは良い度胸じゃの」


「何故だ!? オーディンが2柱いるぞ!?」


「偽物だ!」


「我等を黙そうとしても無駄だ!」


「俺達の悲願を叶えるため、偽物は排除だ!」


 全く同じ姿のオーディンが2柱いたことで、偽物ロキの取り巻きの神達が騒ぎ始めた。


 しかし、オーディンがロキを指差すと同時に、その騒がしさはシーンと静まり返った。


「偽物はそちらだ。なあ、義弟ロキよ」


「カッカッカ。バレちゃ仕方ないな、オーディン」


 パチン。


 短く笑うと、偽物ロキが指を鳴らした。


 それと同時に、軍服姿のオーディンの見た目から、片眼鏡モノクルをかけたインテリヤクザのような姿になった。


「なん・・・、だと・・・」


「馬鹿な・・・」


「俺達は騙されてたのか・・・」


「おやおや、酷い言い草じゃないか。別に騙してた訳じゃないさ。ただ、俺はオーディンの外見で君達に話を持ち掛けただけだ。大体、俺が自分からオーディンだと名乗ったか?」


「「「・・・名乗ってない」」」


 取り巻きの神達は、自分が勧誘を受けた時にロキが自分はオーディンだと名乗ったことがなかったのを思い出した。


「では、騙してたという言葉は撤回してもらおうか。それに、俺はピンチの君達の国をどうにかしてほしいという頼みに対して、ちゃんと答えも用意しただろ?」


「そうだ!」


「あの亜神エルフだ!」


「脅して言うことを聞かせるんだ!」


 頭の足りない取り巻き達は、自分が利用されていることを考えず、モンスターやダンジョンによって壊滅の危機にある自分が管轄する国のため、実力行使にでることにした。


 しかし、それが上手くいくはずもなかった。


「【蒼雷罰パニッシュメント】」


 バチィッ! ズドォォォォォォォォォォン!


「【崩壊多腕カラプスアームズ】」


 ズズズズズズズズズズッ! ドサッ!


「【必中投槍グングニル】」


 ブンッ! グサッ!


「身の程を知れ、木っ端が」


「此方を邪魔するなど、万死に値するえ」


「やれやれ、また仕事が増えるわい」


 バアル、伊邪那美、オーディンが奏に向かって突撃した神達をそれぞれ1柱ずつ倒した。


 これでしばらくの間、復活するまで神達は何もできなくなった。


「おやおや、時間稼ぎにもならないとは、使えないな」


「相変わらずの屑っぷりだな、ロキ」


「そう言うなよ、バアル。僕は奏だけじゃなくて、君にも興味があるんだから」


「ロキよ、よくも儂にまた毒を盛りよったな! 【必中投槍グングニル】」


 ブンッ! グサッ!


「ガハッ!」


 オーディンの投擲した槍は、必ず命中する。


 それを理解しているから、ロキは無駄に避けることなく、致命傷にならないように自ら刺さりに行った。


 それでも、ダメージは少なくないらしく、ロキは口から血を吐いた。


 しかし、オーディンの手元に槍が戻った瞬間には、怪我は何もなかったかのように消えていた。


「それよりも、驚いたよ。オーディンに盛った毒は、俺が開発したアムリタの効果を反転させた毒薬で、アムリタ以外に治せないはずだったのに、なんでピンピンしてんの?」


「そりゃ、儂がアムリタを飲んだからに決まっておろうが」


「おかしいな。天界にあった唯一のアムリタは、下界の宝箱の中身と入れ替えたのに」


「奏がくれたぞ」


「・・・なるほど。君、運まで持ってるのか。実に興味深い」


 ロキはそう言うと、ニターッと笑みを浮かべながら奏を見た。


 その笑みを薄気味悪く感じ、奏は不快感を隠さなかった。


「こっち見んな」


「俺の長い生の中でも、こっち見んななんてオーディンにも言われたことないぞ」


「そりゃ、言っておらんからな! 【必中投槍グングニル】」


 ブンッ! グサッ!


「チッ!」


 奏と話そうとしているところに、オーディンが容赦なく【必中投槍グングニル】を放つせいで、ロキは会話に集中できなかった。


 それがロキを苛立たせ、大きな舌打ちに繋がった。


 その隙に、奏達は戦闘準備を整えていた。


「ルナ、頼む」


「うん! 【憑依ディペンデンス】」


 ピカッ。


 ルナがスキル名を唱えると、翠色の光がその場を包み込んだ。


「なんだ!?」


 ロキはオーディンの攻撃に注意していたせいで、奏達が何をしていたのか把握していなかった。


 そのせいで、急に翠色の光に視界を覆われ、一時的に視力を失った。


 光が収まると、奏の髪の色が翠色になって、目は金色になっていた。


 そこに、楓が自分の番だと口を開いた。


「奏兄様、強化します。【天使応援エンジェルズエール】」


 楓がスキル名を唱えると、ラッパを持った天使達が天から舞い降りて、奏達を鼓舞するようにラッパを吹いた。


 ラッパを吹き終わると同時に、天使達は消えた。


 これで、奏の準備は整った。


 視力が戻ったロキは、奏が急激にパワーアップしたことに気づき、初めて冷や汗をかいた。

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