第183話 奏、お前も神の領域に来ちまったな

 スキルが強化されたので、奏はバアルに訊ねた。


「バアル、【仙術ウィザードリィ】って何?」


「自然の力を利用して、自分の生命力を強化したり、自然を自在に操れるスキルだ。しかも、状態異常は一切効かねえ。当然だが、固有スキルだな」


「生命力って、各種能力値とは違うのか?」


「各種能力値に加え、HPやMPの自然回復力だったり、あらゆる事象への耐性の総称だと思ってくれ」


「わかった」


「普通に考えたら、霊峰で数十年単位で修行しなきゃ、会得できねえようなスキルなんだが、それを奏に言ってもしょうがねえよなぁ」


「数十年単位の修業? そんな時間あったら寝る」


「うん、俺様知ってた。これが奏だよな」


「うぉっほん」


 奏とバアルが話していると、オーディンがわざとらしく咳払いした。


 何か喋ろうとしていることは明らかだったので、奏とバアルは黙った。


「まだ、自己紹介が済んでおらなんだ。儂はオーディン。北欧の神々の主を務めておる。よろしく頼むわい」


「よろしく」


「ケケケ。これが奏だ。オーディン、お前がビッグネームだろうが関係ねえよ。誰でもお前の前で頭を垂れると思うなってこった」


 奏があっさりと言葉を返したので、オーディンは目を丸くした。


 それを見て、バアルは愉快そうに笑った。


「・・・どうもそのようじゃわい」


「今のところ、難病の老人に貴重な酒を振舞っただけだから、頭を下げる理由も義理もない」


「祝福を授けてやったんじゃがなぁ」


「それは、俺のアムリタへの対価だろ? まさか、神なら人の好意を当然受けられるとでも?」


「・・・止めじゃ止め。奏が儂に従うようであれば、色々頼もうと思ったのじゃが、儂には御しきれんわい。相互不可侵で、敵対せず互いに多少の便宜を図れる関係が限界じゃな」


「おいおい、俺様と奏の関係を散々観察しといて、奏を御しきれると思ってる時点で、お前の頭ん中は花畑だぜ?」


「それもそうじゃな。いや、試すような真似をしてすまんかった」


 オーディンは、自分の態度を詫びた。


「見てみて、奏君がオーディンに謝らせてるわ」


「これが奏ちゃん。小さい頃から、奏ちゃんは敬う相手の見極めが厳しかった」


「そこ、煩い」


「「は~い」」


 背後でひそひそと喋っている紅葉と響に対し、奏はムッとした表情で注意して黙らせた。


 それからすぐ、奏はオーディンに訊ねた。


「さて、ここに来た理由が、治療のためだとは思ってないだろ?」


「それはわかっておるわい。奏が訊きたいのは、ロキについてじゃろう?」


「その通りだ。なんで俺の休暇を邪魔するのか。その理由が知りたい」


「簡潔に言えば、新しい玩具を見つけたからじゃな」


「玩具?」


「奏というヒューマンでありながら、ヒューマンとは思えない実力と可能性を秘めた存在を見つけ、ロキは自身の知的好奇心を満たしたくなったとみて間違いないわい」


「奏兄様を玩具扱い? 赦しません」


「・・・生で見ると、楓も個が強いのう」


「信じられるか? これでも、かなりおとなしくなったんだぜ?」


 ヤンデレ全盛期の時に比べれば、今の楓はかわいいものなので、バアルがオーディンにお前は楓の怖さを知らないと指摘した。


「見ておったが、正にヘラの契約者になるべくしてなったとしか思えんわい」


「そいつは同感だ」


 バアルとオーディンの認識が、ここで初めて一致した。


「脱線してるぞ、オーディン。ロキは俺に何をさせようと考えてる?」


「わからぬ」


「は?」


「わからんのじゃ。ロキが考えてることは、シギュンですら全貌は把握できないからのう。儂がいくら義理の兄だからといって、ロキの考えを全て理解してる訳がなかろう」


 オーディンがわからないと言ったせいで、奏は口をポカンと開けた。


 オーディンを助けたのは、ロキについて知るためだった。


 創ったアムリタを試すという目的は達成したが、目的の優先順位としては、ロキについて知る方が高かった。


 それが達成できないのであれば、奏は無駄足を踏んだことになるだろう。


 勿論、オーディンから祝福を授けてもらったので、十分に見返りはあったと言って良いのだが、奏からしたら当てが外れたと言って差し支えない。


「全てじゃなくても良いから、わかることを話してくれ」


「期待にえるかはわからんが、話せるだけ話すわい。ロキは強者を見ると、それを崩したくなる傾向にある。無論、儂も何度も今日のような被害を受けておる」


「オーディンの場合、仕掛けられてそれに引っかかった時、ロキはどんな反応をしてた?」


「悪戯が成功したことを、子供のように喜んでおったわい」


「・・・それだけか?」


「それだけじゃ」


「馬鹿げてる。そんなくだらないことのために、俺の休暇を邪魔するなんて」


「天界で休暇を過ごせるという時点で、普通じゃないってことはわかっておるのかのう?」


「休むことに妥協したら、そこで試合終了だ」


「・・・バアル、奏は一体何と戦っておるのだ?」


「働かなきゃいけねえ雰囲気じゃね?」


「そ、そうじゃったのか」


 バアルの言わんとしていることが、いまいちピンとこないので、オーディンは苦笑した。


「オーディン、ロキと戦うにあたって、敵の戦力を知りたい。ここにいるメンツで殴り込みをかけて、勝てると思うか?」


「ロキ以外じゃったら、勝てると思うわい。しかし、ロキが参戦すると厳しいのう」


「そうか。【無限収納インベントリ】」


 短く言葉を返した後、奏は亜空間から進化の証を取り出した。


「おい、奏、まさかそれを使う気か?」


「既に不老長寿になってるし、もう1回進化したって外見も変化しないだろ?」


「そりゃ、そうかもしれねえが、良いのか?」


「ここで妥協して、ロキに良いように手の平の上で踊らされるぐらいなら、俺はロキを潰して休みを謳歌する」


「お、おう」


 力強く奏に言われ、バアルは頷くしかなかった。


 奏が使うと決めた時点で、この決定は覆らないことがわかっていたからだ。


 奏が進化の証を使うと、奏の体が激しい光に包まれた。


《おめでとうございます。個体名:高城奏は、亜神エルフで初めて進化し、亜神エルフから上亜神ハイエルフに進化しました。初回特典として、退魔師エクソシストセットがバージョンアップされました》


《奏の<不老長寿>が、<不老不死>に上書きされました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏の全能力値の平均が、世界で初めて10,000を突破しました。初回特典として、天照の復活率が80%になり、天照は【日光再生サンリジェネ】を会得しました》


 神の声が止むと、光が徐々に収まり始めた。


 突然発光したせいで、奏以外の視力が元通りになるのに少し時間がかかった。


 楓が目を開けられるようになったのは、神の声が止んでから1分が経過してからだった。


 目を開けられるようになってすぐ、楓と紅葉、響は真っ先に奏の外見の変化を確かめ始めた。


「耳が長くなって、前よりも妖精っぽくなりましたね」


上亜神ハイエルフって言う割に、黒髪黒目のままで変化は大してないわ」


「でも、金髪碧眼になったら驚くから、これで良いんじゃない?」


 楓と紅葉、響は奏の周囲を回って耳以外に変化がないか確かめ、他に違いを見つけることができなかった。


 楓達が耳にしか違いがないと言っていたので、外見の変化はそれだけだと判断し、奏は自分のデータを確かめることにした。


「【分析アナライズ】」



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名前:高城 奏  種族:上亜神ハイエルフ

年齢:25 性別:男 Lv:100

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HP:10,200/10,200

MP:12,600/12,600

STR:10,200

VIT:10,200(+400)

DEX:10,200(+400)

AGI:12,600

INT:12,600(+400)

LUK:10,200

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称号:<バアルの加護><覇皇><英雄ヒーロー><鷲獅子騎手グリフォンライダー

   <不老不死><世界樹の守護者><多神の祝福>

職業:退魔師エクソシスト

スキル:【分析アナライズ

固有スキル:【世界停止ストップ・ザ・ワールド】【転移ワープ】【全創造オールクリエイト

      【百貨店デパート】【仙術ウィザードリィ

加護スキル:【蒼雷罰パニッシュメント】【無限収納インベントリ】【聖橙壊ホーリーデモリッション

      【天墜碧風ダウンバースト】【透明多腕クリアアームズ】【聖爆轟ホーリーデトネーション

      【嵐守護ストームガード

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装備1:天照(天叢雲剣スキン)

装備1スキル:【刀剣技ソードアーツ日輪ソル】【技能付与スキルエンチャント

       【擬人化ヒューマンアウト】【日光再生サンリジェネ

装備2:退魔師エクソシストセット

装備3:結魂指輪(楓)

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パーティー:高城 楓

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従魔:ルナ(テンペストグリフォン)

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 自分のデータを見終えた奏は、自分の目を疑った。


 目を擦って見直したが、目を擦る前と変わらない結果が現れたため、力なく笑った。


「奏、お前も神の領域に来ちまったな」


「えっ、マジ?」


「マジだ。各能力値の平均が10,000を超えたら、入口とはいえ神の仲間入りだ。実際、奏に<不老不死>が追加されたのは、奏の実力が神の領域に達したからだ。HPが0になっても、一定時間経過したら蘇るぜ」


「マジか。これで、心おきなく惰眠を貪れるな」


「やっぱ奏は奏だわ。全然ブレねえ」


 不老不死になったのに、寝ることしか考えていない奏を見て、バアルは苦笑いするが、同時にホッとした。


 どんなに力をつけても、奏は奏だとわかったことで、安心したからである。

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