第182話 ロキ終了のお知らせ。この夫婦をキレさせたら駄目だろ

 バアルと伊邪那美に詰め寄られ、オシリスは事の経緯を話し始めた。


「我が伊邪那美に頼り、奏達にエジプトに力を貸してほしいと頼んだ後、オーディンが各地の神を連れてやって来たのだ」


「あの爺が黒幕か?」


「オーディンかえ?」


「いや、話は最後まで聞け」


「結論ファーストで喋れや」


「そうだえ。紛らわしい言い方するんじゃないえ」


「あっ、はい。結論から言うと、オーディンに化けたロキが黒幕だった」


 バアルと伊邪那美に押され、オシリスには威厳がまるで感じられなくなった。


「ロキか・・・」


「ロキかえ・・・」


 オシリスの話を聞き、黒幕がロキだとわかると、バアルと伊邪那美は苦虫を嚙み潰したような顔になった。


 北欧神話でも有名なロキは、悪知恵に長けた悪戯好きの神だ。


 主神オーディンの義理の兄弟に当たり、神であると同時に、神々の敵である霜の巨人ヨートゥンの血をも引いているとも言われている。


 魔法系スキルを得意とするが、特に変身を得意とし、どんなものにもも変化できる天界のトリックスターである。


 あちこちでトラブルを起こしては、最終的に自分で解決するので、正直何を考えており、何がしたいのか神々でもわからない。


 そんなロキが、奏の襲撃の黒幕だとわかったのだから、バアルと伊邪那美の表情にも頷けるというものだ。


「んで、化けんのが得意なロキが、なんでオーディンに化けて他の神を率いてると知ってんだ?」


「そうだえ。あのロキが、そんな簡単に尻尾を見せるとは思えないえ」


「我は冥府の神だ。故に、魂で判別がつく。化けるのが得意なロキであろうと、魂までは化かせない」


「そういうことか。だから、自分の正体がバレるのを恐れて、ロキはオシリスを仲間に引き入れようとした訳だ。戦力にならないのに」


「それなら納得だえ。オシリスが戦力かと訊かれたら、此方はNOと答えるえ」


「・・・バアル、伊邪那美、我は元々戦う神ではないのだぞ?」


 グサグサと痛い所を突かれ、オシリスは涙目になるのをグッと堪えた。


 流石に、ここまで事の経緯を話してくれた相手に対し、塩対応をするのもどうかと思い、奏は助け船を出した。


「バアル、伊邪那美、そこまでにしてやれよ。人に向き不向きがあるように、神にだってあるだろ?」


「まあな」


「しょうがないえ」


「奏、良い奴ではないか。よかろう。我の祝福を授けよう」


《奏は<オシリスの祝福>を会得しました。<オシリスの祝福>は、<多神の祝福>に内包されました》


《奏が<オシリスの祝福>を会得したことにより、奏の【創造クリエイト】が、【全創造オールクリエイト】に上書きされました》


 奏が助けてくれたことに感謝し、オシリスは奏に祝福を授けた。


「我の祝福を受けたことで、奏の生産性が高まったぞ。冥府の神になる前は、生産を司っておったからな」


「だから、ガネーシャの時と同じで、スキルが上書きされたのか。助かる」


「うむ。我の杖を手に入れてくれた訳だし、我のプライドも辛うじて保たれた。これには礼を言わねばなるまいて」


「プライド? えっ、オシリスにそんなものあんの?」


「予想外だえ」


「もう止めてやれ。オシリスのライフはとっくに0だ」


 そう言いながら、奏もオシリスにプライドがあったのかと意外に思っていたりした。


 しかし、奏はオシリスを嫌いにはなれなかった。


 何故なら、メジェドに変装する際、オシリスはシーツを被っていたからだ。


 寝具を好んで使う者に、悪い者はいないという考えである。


「まあ、そうだな。んで、オシリスよ、ロキと唆された奴等はどこだ?」


「本当に殴り込みに行くのか?」


「勿論だえ。此方は奏達の天界観光を邪魔されてるえ。許す理由がないえ」


「そ、そうか。ロキに殴り込みをかける前に、我としてはオーディンを助けてやってほしいのだが」


オーディンを?」


「何故かえ?」


「オーディンは、ロキに麻痺毒を盛られて動けないのだ。今、我が匿ってるのだが、生憎我に治療の心得はない。オーディンの治癒力任せの状態なのだ」


「えぇ、面倒臭い。ロキぶっ飛ばせば良くね?」


「同感だえ。大体、オーディンが義弟ロキをちゃんと躾けておかないから、こんなことになったんだえ。良い薬だえ」


 バアルと伊邪那美は、オーディンを助けることに消極的だった。


 しかし、奏は違った。


「わかった。楓なら、助けられるかもしれない。助けに行こう」


「本当か!? 助かる!」


「おいおい、奏、昔から言うだろ? 老害に情けは無用だって」


「そうだえ。オーディンはしぶといえ。勝手に治るのを待つえ」


「俺はロキを知らない。だから、ロキを詳しく知ってるオーディンの話を聞きたい」


 奏が珍しく、一足飛びにではなく、準備をしてからロキに挑もうとしているので、バアルと伊邪那美は顔を見合わせた。


「奏、どうした? 悪いものでも喰ったか?」


「そうだえ。奏がそんな面倒なことをするなんて、熱でもあるのかえ?」


「違う、そうじゃない。俺もさ、寝放題ライフに入れると思ったら、ワールドクエストを押し付けられそうになったり、天界で休暇を満喫しようとしたら、邪魔されただろ? だから、1回徹底的に潰すことにしたんだ。誰の寝放題ライフを邪魔したか、思い知らせてやる」


「ヤバい。奏が激おこじゃねえか」


「本当だえ。奏が本気で怒ってるえ」


 静かにキレている奏の隣に、ススッと楓が近寄った。


「任せて下さい、奏兄様。私が【記憶消去ロストメモリー】で、奏兄様に都合が悪いことは消します。いくらでも暴れて下さい」


「ロキ終了のお知らせ。この夫婦をキレさせたら駄目だろ」


「そのようだえ。これは、奏達に任せ、此方達は見守ってた方が良さそうだえ」


 バアルと伊邪那美は頷き合い、奏達を見守ることで合意した。


 それから、奏達はオシリスの案内でオシリスがオーディンを匿っている場所へと移動した。


 オシリスには、空間を歪めて場所を点と点で繋ぐ移動手段があったため、移動は一瞬で済んだ。


 奏達が移動した先は、石造りのスフィンクス型の建物だった。


 その中に入ると、体格の良い老神オーディンが汗をかきながらベッドで顔色を悪そうに寝ていた。


「楓、頼む」


「わかりました。【範囲浄化エリアクリーン】【超級治癒エクストラキュア】」


 楓が連続してスキル名を唱えると、オーディンの体がさっぱりとした。


 しかし、顔色はまだ悪いままだった。


「そんな・・・、【超級治癒エクストラキュア】でも治せないなんて・・・」


 楓はショックを受けた。


 奏に任されたのに、その役目を果たせなかったからだ。


「なんと、【超級治癒エクストラキュア】でも治らないとは・・・。ロキめ、一体何を飲ませたのだ?」


 オシリスにとっても、楓の【超級治癒エクストラキュア】で治らないのは想定外だったらしく、ロキがどれ程恐ろしい毒をオーディンに盛ったのかと戦慄した。


「【無限収納インベントリ】」


 楓の【超級治癒エクストラキュア】でも無理だったので、奏は亜空間に収納していたアムリタを取り出した。


 勿論、奏が以前手に入れたアムリタを、【創造クリエイト】で増やしたものである。


 見ず知らずの神に、オリジナルのアムリタを使う程、奏はお人よしではない。


 じっくりと観察し、効果を理解して【創造クリエイト】で創り出したアムリタが、ちゃんと効果を発揮するのか確認することが目的なのだ。


 オーディンを助けるついでに、自分の創作物の効果を試す良い機会なので、奏が試さないはずがない。


 奏はアムリタをオーディンの口に突っ込んだ。


「流石は奏、北欧神話の主神の口に、躊躇いもなくアムリタの瓶を突っ込みやがった」


「そこに痺れる憧れるえ」


「もうちょっとだけで良いから、オーディンを労わってくれよ」


 神々のそんなコメントをスルーして、奏はアムリタをオーディンに無理矢理飲み干させた。


 すると、【超級治癒エクストラキュア】でも治らなかったオーディンの顔色が元通りになった。


「ふぅ、危うく動けなくなるところだったわい。感謝するぞ、奏よ」


《奏は<オーディンの祝福>を会得しました。<オーディンの祝福>は、<多神の祝福>に内包されました》


《奏が<オーディンの祝福>を会得したことにより、奏の【森呪術ドルイドスペル】と【生命呼吸ライフブレス】が、【仙術ウィザードリィ】に上書きされました》


 オーディンのおかげで、オシリスの時に続き、またしても奏のスキルが強化された。

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