第168話 あっ、ごめん。ピエドラが美味しく食べちゃってたね

 【混乱霧コンフュミスト】がアスタロトを覆うように発動したが、アスタロトは全く動じることがなかった。


「俺様にそんなもんが通じる訳ねーだろ。【竜巻領域トルネードフィールド】」


 ビュォォォォォッ!


 霧の中から、突然竜巻が発生し、それが急激にボス部屋内に広がり、響達を襲った。


「アラン、斬って」


「やってみるでござる。【騒音斬ノイジースラッシュ】」


 キィィィィィン! バシュッ!


 騒音を圧縮した斬撃がアランから放たれ、竜巻に命中した。


 すると、竜巻の一部に穴が開いた。


「中に行こう!」


「了解!」


 その穴から、竜巻の内部に侵入することで、響達は【竜巻領域トルネードフィールド】をやり過ごすことに成功した。


「この程度の攻撃なら、死ぬことはないようだな。じゃあ、これはどうだ? 【毒竜顎ヒュドラジョー】」


 ズズズズズッ、グォォォォォン!


「地面の毒ってこれのため!? 【爆轟デトネーション】」


 ドガァァァァァァァァァァン!


 自分達に迫るヒュドラを模った毒の塊に対し、紅葉は自分の最大火力で応じた。


 【毒竜顎ヒュドラジョー】は可燃性だったようで、普段よりも【爆轟デトネーション】の爆発が激しかった。


「【陥没シンクホール】」


 ズズズズズッ、ザァァァッ。


 響がスキル名を唱えると、ボス部屋の床に大穴が空き、その穴に毒が流れ込んでいった。


 地形を利用して、アスタロトが【毒竜顎ヒュドラジョー】を使えなくするために、響はすぐに手を打ったのだ。


「チッ、【毒竜顎ヒュドラジョー】が防がれるのか。しゃーねーな。ハイドラ、擬態解除」


「シャァァァッ」


 面倒臭そうに、アスタロトが右手に巻きついたハイドラに指示を出すと、それが鳴いたと思ったらみるみるうちに剣に形が変わった。


 しかも、それはただの剣じゃなかった。


 その剣は、刃の部分がワイヤーで繋がれつつ等間隔に分裂し、鞭のように変化する機構を備えていた。


 俗にいう、蛇腹剣である。


「蛇腹剣キタァァァッ!」


「紅葉、煩い」


 蛇腹剣を目の当たりにして、紅葉のテンションが急上昇した。


 先程までは、アスタロトに貧乳呼ばわりされ、キレていたのにもかかわらず、テンションが上がっているので、響はそんな紅葉にジト目で注意した。


『紅葉! 集中するのじゃ!』


 テンションの上がった紅葉に対し、迦具土は強めに注意した。


 手元で叫ばれれば、紅葉だって流石に我に返る。


「あっ、ごめん。おのれアスタロト。これが人を惑わせる悪魔の罠なのね」


『いや、お主が自分から引っかかったんじゃよ』


 しれっとアスタロトに責任転嫁する紅葉の言葉に、迦具土はすぐにそれは違うと否定した。


「おい、貧乳。てめえ、俺様の蛇腹剣を知ってんのか?」


「また言ったわね!? ぶっ殺す!」

「ε=ε=ε=ε=(^∀^*)ノウゥウイィエェェーーーイ!!」


 紅葉が再びキレると、ピエドラがそれに便乗した。


 紅葉がブチギレているのに対し、ピエドラが楽しそうなのは、誰もツッコまなかった。


「俺様の質問に答えろ! 【鞭斬撃ウィップスラッシュ】」


 ブン! スパァン!


「ピエドラ、回避!」


「了━d(*´ェ`*)━解☆」


 アスタロトが放ったしなる斬撃を、ピエドラは余裕をもって避けた。


「オラオラオラァッ! 【巣刃ネストエッジ】」


 スパパパパパッ!


「【爆炎刃ブラストエッジ】」


 スパッ、ドガァァァン!


 紅葉は燃え盛る斬撃を飛ばし、【巣刃ネストエッジ】に命中した瞬間に斬撃を爆発させ、【巣刃ネストエッジ】を相殺した。


「クソがっ! 【ネスト


 アスタロトがスキル名を唱えようとしたその時、響を乗せたアランが、頭上からエリゴスに向かって急降下していた。


「首置いてけ。【暗殺アサシネイト】」


 スパァァァァァン!


「チィッ」


「外した。アラン、離脱」


「了解でござる」


 響の奇襲はギリギリのタイミングで避けられ、残念ながら失敗に終わった。


 しかし、何も成果がなかった訳ではない。


 アスタロトの首を狙った奇襲は、確かに首を刈ることはできなかったが、アスタロトが僅かに前に移動したことで、その尻尾を切断することができたからだ。


 アスタロトは尻尾を斬り落とされ、不愉快そうに舌打ちをした。


 響はヒット&アウェイを重視しており、無理に次の攻撃を仕掛けることなく、アランに指示してアスタロトの攻撃範囲から離脱した。


 アスタロトは尻尾を斬られ、攻撃するターゲットを紅葉から響に変更した。


「糸目、てめえは貧乳よりも先に死にてえみてえだな」


「死ぬのはそっち。それよりも、尻尾を見てごらんよ」


「あ゛? なんでてめえの言うことなんざ聞かにゃならねえんだ?」


「良いから早よ」


 かなりキレてはいたものの、響が有無を言わせないマイペースな口振りで言うものだから、アスタロトは尻尾の落ちた床を見た。


 そこには、自分の尻尾を捕食しているピエドラの姿があった。


「あっ、ごめん。ピエドラが美味しく食べちゃってたね」


「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 【病毒吐息ディズィーズブレス】【病毒吐息ディズィーズブレス】【病毒吐息ディズィーズブレス】」


 ゴォォォォォッ! ゴォォォォォッ! ゴォォォォォッ!


 清々しい笑顔で、かなり鬼畜なことを言う響に対し、アスタロトは完全にキレた。


「撤収」


「言われなくても逃げるでござるよ!」


 【病毒吐息ディズィーズブレス】を連発するアスタロトから、アランは全力で逃げた。


 アスタロトの注意が、逃げる響とアランに向かえば、紅葉とピエドラはノーマークになる。


「ピエドラ、今よ!」


「りょーかい(*>ω<)ゞ」


 ヒュゥゥゥッ、ズドドドドドォォォォォン! ゴォン!


「クソがっ!」


 アスタロトの頭上を取ったピエドラが、【竜降下ドラゴンダイブ】を発動し、アスタロトの背中にジャストミートした。


 そのおかげで、アスタロトは地面にキスをする羽目になった。


 ピエドラが作った隙は、勿論響が有効活用するに決まっている。


「【影拘束シャドウバインド】」


 ズズズズズッ。


 地面に簀巻きにして転がすように、影がアスタロトを拘束した。


「ピエドラ、あの武器奪うわよ!」


「ォヶd(。・∀・。)bォヶ」


 地面に墜落した拍子に、アスタロトは蛇腹剣を手放してしまったので、紅葉はアスタロトの戦力ダウンを狙って、蛇腹剣の奪取を指示した。


 しかし、アスタロトだって黙ってそれを見ているつもりはなかった。


「やらせねえよ! 【竜巻領域トルネードフィールド】」


 ビュォォォォォッ!


 アスタロトを中心に竜巻が発生し、【影拘束シャドウバインド】をズタズタに切り裂くと、それが急激にボス部屋内に広がった。


「ピエドラ、奪ったら即逃げて!」


「ΣΣヽ(・Д´・゚+。)ェっ‥マジっ」


 ピエドラは蛇腹剣を咥えると、急いで響とアランのいる方まで逃げた。


「アラン、斬って」


「任されよ。【騒音斬ノイジースラッシュ】」


 キィィィィィン! バシュッ!


 騒音を圧縮した斬撃がアランから放たれ、竜巻に命中した。


 竜巻の一部に穴が開いたので、響達は全員その穴から内部に侵入して攻撃をやり過ごした。


 アスタロトの攻撃を避けたため、紅葉は蛇腹剣を収納袋にしまおうとピエドラに声をかけた。


「ピエドラ、蛇腹剣を私に」


「((((°ω°;;;))))あばばばばば」


「ピエドラ?」


「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"(๑´ㅂ`๑)ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"」


「えっ、まさか、食べちゃったの!?」


「(ノ≧ڡ≦)てへぺろ」


「てへぺろじゃないわよ・・・。急いで逃げた時に、すっぽ抜けて口の中に入っちゃったの?」


「それな( ´-ω-)σ」


「はぁ。しょうがないわね。ロマン武器は気になったけど、絶対に欲しい物でもないし、アスタロトの戦力を削いだだけ良しとするわ」


「(≧□≦)スイマセンシタァァァァァァァ!!」


 いまいち謝っているように見えない絵文字だが、ピエドラ的にはこれでも謝っている。


 紅葉としては、アスタロトが蛇腹剣を使えない状況にすれば良かった。


 だから、それを達成できたことで最低限の目的は果たせたので、ピエドラを責めはしなかった。


「てめえら、よくも俺様の武器を喰いやがったな。貧乳も糸目もただじゃおかねえ。四肢を1回ずつ噛み千切って、最後に胴体を喰ってやるよ」


「貧乳言うなコラ」


「糸目だって良いじゃん」


「うるせえ! 【擬竜化ドラゴンアウト】」


 ピカァァァァァン。


 アスタロトの体が光を放ち、その中でシルエットが変わり始めた。


 二足歩行だった見た目が、すっかり西洋風のドラゴンの巨体へと変化していく。


 ただし、そこで黙って見ている紅葉ではなかった。


「間に合って! 【怠惰眼スロウスアイ】」


 ボワワワァァァン。


 紅葉の目が紫色に光ると、紅葉の目から放射状に紫色の光が放たれた。


 紫色の光が、アスタロトを包む光にぶつかると、両方の光が相殺して消えた。


 そこには、尻尾が切断され、悪魔の翼を生やした青緑色のドラゴンの姿があった。

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