第169話 一体いつから変身中が無敵だと錯覚してた?

 アスタロトの変身した姿を見て、迦具土は悔しそうな声を出した。


『くっ、間に合わなかったのじゃ』


 しかし、紅葉は悔しがる迦具土とは違い、落ち着いた様子だった。


「大丈夫よ、迦具土」


『何故じゃ? アスタロトはもう、変身しとるのじゃぞ?』


「少し前に、奏君達が合体中のαゴーレムとβゴーレム、γゴーレムが光に包まれてる時、楓が【記憶消去メモリーデリート】を使ったことがあったの」


『それがどうしたのじゃ?』


「奏君の【聖爆轟ホーリーデトネーション】は効かなかったけど、楓の【記憶消去メモリーデリート】が聞いたってことは、物理的なダメージは与えられないけど、精神的に干渉することは可能ってことよ」


『・・・つまり、紅葉の【怠惰眼スロウスアイ】も効果があると考えとるのじゃな?』


「ええ」


 紅葉が短く頷き、アスタロトの様子を窺うと、アスタロトは非常にゆっくりとしか動けていなかった。


『なんと・・・、本当に効果があったのじゃ』


「一体いつから変身中が無敵だと錯覚してた?」


『予想外なのじゃ』


「さて、お遊びはこれぐらいにして」


『どうするのじゃ?』


「私を貧乳と言ったこと、後悔して許しを乞うまで、アスタロトの体のパーツを奪うわ。ピエドラが」


「(゚∇゚ ;)エッ!マジカ!?」


 突然、自分に役目が振られたので、ピエドラが驚いた。


「マジよ。ピエドラだって、Lv100間近なんだから、強くなれるだけ強くなった方が良いでしょ?」


「゙p(・益´・+)ゞ了解でぃーッス♪」


「よろしい。ピエドラ、まずは翼から食べちゃいなさい」


 ふざけた返事ではあるが、ピエドラが了承したので、紅葉は早速アスタロトをじわじわと甚振るための指示を出した。


「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"(๑´ㅂ`๑)ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"」


「ぐぅぅぅあぁぁぁっ!」


 ヒュゥゥゥゥゥッ、ドガァァァァァン!


 痛みに叫ぶものの、紅葉の【怠惰眼スロウスアイ】のせいで、なんとも間延びした叫び声になってしまった。


 ピエドラの【暴食グラトニー】により、背中から生えた翼を食べられたアスタロトは、飛ぶことができなくなって地面に墜落した。


 地面に落下した衝撃で、ダメージを受けたアスタロトに対し、紅葉は容赦しなかった。


「次は、角を食べなさい」


「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"(๑´ㅂ`๑)ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"」


「ぎぃぃぃあぁぁぁっ!」


 角を齧り取られ、またしてもアスタロトは間延びした叫び声をあげた。


「次は爪」


「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"(๑´ㅂ`๑)ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"」


「ぐぅぅぅおぉぉぉっ!」


「逆鱗」


「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"(๑´ㅂ`๑)ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"」


「ぬぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁっ!」


 ドラゴンにとって、触れられたくない逆鱗を齧り取られ、アスタロトは間延びしながら叫んだ。


「さて、めぼしい部位はピエドラが捕食したし、響の出番よ」


「首、いただくよ。【暗殺アサシネイト】」


 スパァァァァァン! パァァァッ。


 アスタロトの頭と体が離れた直後、響達の視界は光に包まれた。


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉が、クエスト1-7をクリアしました。報酬として、迦具土の復活率が80%になりました》


《響はLv100になりました》


《響の【影拘束シャドウバインド】が、【影操作シャドウコントロール】に上書きされました》


《響はLv100になったことにより、進化条件を満たしました。これより進化を開始します》


《おめでとうございます。個体名:新田響は、人類で初めてLv100に到達し、ヒューマンから獣人ビーストマンラビット)に進化しました。初回特典として、響に<忍者>が与えられました》


《響の<専門家>と<忍者>が、<上忍>に統合されました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-1をクリアしました。報酬として、月読の復活率が10%になりました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-2をクリアしました。報酬として、月読の復活率が20%になりました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-3をクリアしました。報酬として、月読の復活率が40%になりました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-4をクリアしました。報酬として、月読の復活率が40%になりました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-5をクリアしました。報酬として、月読の復活率が50%になりました》


《ピエドラがLv100になりました》


《ピエドラが【武器化ウエポンアウト】を会得しました》


《ピエドラの【巨大化ギガンテック】と【武器化ウエポンアウト】が、【暴食武装グラトニーアームズ】に上書きされました》


《ピエドラの【混乱霧コンフュミスト】が、【病魔霧シックミスト】に上書きされました》


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉が、クエスト1-8をクリアしました。報酬として、紅葉の全能力値が+100されました》


《アランはLv96になりました》


《アランはLv97になりました》


 神の声による長い戦果発表が終わる頃には、ボス部屋を包み込んでいた光が収まった。


 光が収まると、進化した響は、耳が兎の耳に変わっていた。


「ウサ耳・・・、だと・・・」


 進化した響の姿を見て、紅葉は驚愕した。


 今までの進化では、自分や奏、楓のように耳の形が少し変わるか、自分の肌の色が小麦色に変わる程度の変化しかなかった。


 それに対し、響の進化は耳の形が大きく変わっていたので、紅葉は驚きを隠せなかったのだ。


 とりあえず、紅葉をスルーして、響は自分のデータを確認することにした。


「【分析アナライズ】」



-----------------------------------------

名前:新田 響  種族:獣人ビーストマンラビット

年齢:20 性別:女 Lv:100

-----------------------------------------

HP:1,450/1,450

MP:1,450/1,450

STR:1,450(+80)

VIT:1,450(+50)

DEX:1,950

AGI:2,450 (+50)

INT:1,450

LUK:1,450

-----------------------------------------

称号:<腹黒策士><巨大鷲騎手フレースヴェルグライダー

   <上忍><長寿>

職業:暗殺者アサシン

スキル:【分析アナライズ】【陥没シンクホール】【王水アクアレジア

    【影移動シャドウムーブ】【影操作シャドウコントロール

-----------------------------------------

装備1:月読(首切丸スキン)

装備1スキル:【猛毒牙ヴェノムファング】【流水斬スルースラッシュ

     【竜巻砲トルネードキャノン】【槍領域ランスフィールド

暗殺アサシネイト】【炎鉤爪フレイムクロー

       【混乱付与コンフュエンチャント

装備2 :暗殺者アサシンセット

-----------------------------------------

パーティー:秋山 紅葉

-----------------------------------------

従魔:アラン(フレースヴェルグ)

-----------------------------------------



「素早さと器用さ重視だね。僕にピッタリだ」


 能力値を含む自分のデータを確認し、響は自分の特徴をしっかりと理解した。


 その時、響は直感的に身の危険を感じ、素早くその場から横に跳んだ。


 すると、自分がほんの少し前までいた場所には手をワキワキさせた紅葉の姿があった。


「響、ちょっとその耳モフらせて」


「嫌だ。僕の耳は触らせないよ。ついでに尻尾も」


「えっ、ウサ耳だけじゃなくて、ウサ尻尾も生えてるの? 見せて!」


「嫌だ。紅葉の手つき、おっさんみたいでエロくてキモい」


「誰がおっさんよ!? 私はちょっと、生獣人の耳をモフりたい健全なオタクよ!」


「紅葉からは、モフラーの気配がする」


「・・・この警戒心、これが獣人ビーストマンラビット)なのね」


『それは違うじゃろ。お主の暴走を恐れてるだけじゃ』


 紅葉の発言に対し、迦具土は冷静に感じたままを述べた。


『響が兎なら、僕と相性が良いね。だって僕、月の神様だし』


「そうだね。でも、月読は復活率50%になったのに、スキルを何も会得しなかったね」


『ぐはっ・・・。ひ、響、僕が気にしてることを的確に突くなんて・・・』


「事実を言ったまでだよ」


『ぼ、僕は大器晩成型なんだよ。きっと、次あたりで【擬人化ヒューマンアウト】は会得できるはず』


「僕への還元はないの?」


『それも、もうちょっと待ってて』


「わかった」


 月読としても、契約者となった響に何も返せないのは心苦しいが、できないことをできるという訳にもいかないので、正直にもう少し待ってほしいと告げた。


 それから、響達はアスタロトの魔石とモンスターカードを回収し、宝箱を開いた。


 宝箱の中身は、紅葉が迦具土を手に入れた時とよく似た小さい箱だったが、その模様は漆塗りではなくエジプトの遺跡に見合った壁画のようなものだった。

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