第162話 よろしい、ならば戦争だ
月読が正気を取り戻すと、奏に話しかけた。
『奏、君にお願いがあるんだ』
「応じるかどうかは約束しないが、それでも良いか?」
『構わないよ。頼むのは僕で、これは僕が勝手にするお願いだから』
「わかった。聞こう」
聞いたら絶対に応じなければならない展開を避けると、奏は月読に先を促した。
『お願いっていうのは、僕の姉弟を見つけてほしいんだ』
「天照と須佐之男を見つけろと?」
『うん。僕だけ見つけてもらうんじゃ、申し訳ないからね。それに、
「おい、それを聞いて放置したら、俺が悪人じゃんか。謀ったな?」
『てへぺろ』
「脇差がてへぺろは無理があるだろ」
天照と須佐之男を助けさせるつもりで、奏に話を聞かせた月読はてへぺろと言って誤魔化そうとしたが、奏はそんなことで許す程優しくない。
「響、その脇差捨てるか【
「待って、奏ちゃん。この子にはきつく言いつけるから、捨てるのは待って」
『あれ、僕は捨て犬や捨て猫と一緒の扱いなのかな?』
「奏、どっちの手段にしても、月読がユニーク神器になった時点で、お前が以前俺を投げても手元に戻って来たのと同じ現象が起こるぞ」
「チッ、
『あれぇ、僕、スルーされるどころか、舌打ちまでされちゃうの? 日本の神様なのに? 奏、君って日本人だよね?』
日本の神だというのに、全く親しみを感じさせない対応をされ、月読は思わず奏に訊ねてしまった。
「日本人だが、俺は
「月読、お前は奏を見誤ったな。奏の言うことはマジだ。俺が復活できたのは、俺を奏が手に入れたことで、奏が生き延びれて恩返ししてくれたからだ。何もしてねえお前が、一方的に仕事を押し付けたのに、なんでちょっとでも敬ってもらえると思ってんだ?」
『ぐぬぬ・・・。これは失敗しちゃったかな?』
バアルが真面目に言うものだから、月読は今になって奏への対応を間違ったことに気づいた。
「【
「ほら、言わんこっちゃねえ。奏はマジでお前を壊そうとしてるぜ?」
『えぇ・・・』
「【
『ひぃぃぃぃぃっ・・・』
「今の奏ちゃんの顔、マジだね。これは、僕も新しい武器を用意することになるかな?」
『・・・響、助けて。どうにか奏を鎮めてほしい』
「プッ、奏ちゃんが
冗談抜きで、真剣なトーンで月読に頼まれ、奏が鎮魂すべき対象扱いされているため、響は笑いを堪えられなかった。
その時、奏とバアルの耳に伊邪那美の声が届いた。
『奏よ、此方から詫びるゆえ、月読を許してやってほしいえ』
「伊邪那美か」
『そうだえ。このまま黙って見ていたら、本気で奏が月読を壊しにかかるえ? それは困るえ。だから、此方から謝るから、月読を壊すのは止めてほしいえ』
「うーん、そうは言われても、俺、月読に騙されたし」
『そこをなんとか頼むえ。月読が復活した暁には、奏の気が済むまで天界のトイレ掃除を罰として命じるえ』
日本でもよく知られた
「プッ、それなら許す」
「おい、それで良いのか、奏?」
奏の判断に対し、ジト目を向けながらバアルは訊ねた。
「だって、伊邪那美が出張って来た時点で、月読の言ってることは事実ってことだろ? それなら、ここで壊すよりも日本の役に立ってもらってから、存分にトイレ掃除してもらった方が俺の溜飲が下がる」
「奏ってたまに鬼畜だよな。神に対する考えじゃねえ」
「やられたらやり返す。それだけだ」
「お、おう」
言い切る奏に対し、バアルはこれ以上何も言わないことにした。
『では、話がまとまったようだから、此方は失礼するえ。それと、奏のワールドクエストは、天照か須佐之男を手に入れたら、1つ先に進むえ。できることなら、先に進んでほしいえ』
それだけ言い残すと、伊邪那美の声は止んだ。
奏が伊邪那美と話していたとわかっていたので、月読は静かに奏の次の発言を待った。
月読からすれば、自分の母親に頭を下げてもらい、奏に許してもらったのだから、これ以上話を悪化させたくはないのだ。
しかし、そこで先に口を開いたのはバアルだった。
「つーわけで、月読は復活した暁には奏が納得するまで、半永久的に天界のトイレ掃除することが決まった。んで、天照と須佐之男が手に入ったら、馬車馬が如く日本の復興に力を発揮しろってさ」
『なんで君が言うのさ、バアル?』
「ん? そりゃ、奏がお前にそれを命じたら、お前が自分への仕返しとして罰の内容を盛ったと思うかもしれねえだろ? だから、第三者の俺様から言ったんだ。な、奏? この内容で合ってるもんな?」
「合ってる」
『う、嘘だ。バアルにそんな気遣いができただなんて・・・』
「よし、わかった。月読への罰、もっと厳しいものになるように俺様が伊邪那美に言っとくわ」
『ごめんなさい、嘘です。バアル、ありがとう』
ここで余計なことを言えば、伊邪那美に失望されると思い、月読は態度を改めた。
「それじゃ、いつまでもここにいてもしょうがないし、次に行くか。【
これ以上、奏は無駄な時間を過ごしたくなくて、奏達はその場から【
奏達がやって来たのは、三重県伊勢市の伊勢神宮跡である。
「奏、ここに来たのは、天照狙いか?」
「まあな。伊勢神宮にも、神器の反応があるらしいから、ここにいなきゃどこにいるって思って来た。ルナ、目的地まで移動頼んだ」
「は~い」
奏達は、それぞれの従魔に乗り、奏が知った神器のある場所へと飛んだ。
内宮、もしくは
そして、奏に知らされた神器の在り処もそこを指しており、奏の推測では天照があるはずなのだ。
瓦礫となった内宮のある場所に着くと、奏は早速作業に移った。
「【
いくつもの透明な腕が、瓦礫をテキパキと移動させていった。
少しすると、瓦礫のあった場所の中から、宝箱が現れた。
罠があっても、大抵は【
宝箱からは、小さな太陽のように見える光の球が浮かび上がり、奏が佩いている天叢雲剣の中に入り込んだ。
「クソッ、入り込まれた!」
バアルが悔しそうに叫んだ途端、天叢雲剣が光を放ち、それと同時に神の声が奏達の耳に届いた。
《おめでとうございます。個体名:高城奏が、神器天照を手に入れました。それにより、天照が奏のユニーク道具になりました》
《天照が、天叢雲剣を吸収しました。それにより、天照は太刀に姿を変えられるユニーク武器へと強化されました》
《天照の【
《おめでとうございます。個体名:高城奏がクエスト2-9をクリアしました。報酬として、悠に<早熟>が与えられました》
神の声が止むと同時に、天叢雲剣を包み込む光も収まった。
変化する前の天叢雲剣は、黒塗りの柄と鞘で刀身を抜いてみると、白銀の刃が見えたのだが、それに加えて今は鍔が黄金色の太陽を模っていた。
『会いたかったわ、愛しの息子』
「あれ、俺の母親名乗る神多くね?」
「俺様、伊邪那美、天照か。すげえじゃん。豪華メンバーだぜ?」
「いや、死んじゃったけど、俺には本当の母親いたからな?」
「まあまあ。昔のことも大事だけどよ、今も大事にしようぜ? 母親役なら、俺様に任せろ」
「バアル、お前、伊邪那美をライバル視してるだろ」
「当然だ。俺様が奏と初めて会った神なんだからな。奏は俺様が育てた」
『待ちなさい、バアル。奏は私の血を引く子よ。だったら、私の子じゃないの』
『それを言うなら、此方の子で良いえ』
バアルの発言に対し、天照どころか先程話を終えたはずの伊邪那美が再び会話に加わって来た。
「えっ、マジで俺の母親枠狙って張り合うの?」
『此方が母親だえ』
『母上の娘は私ですから、母上は奏の祖母でしょう。バアル、母親の座を明け渡しなさい』
「よろしい、ならば
バアルのこの発言の後、3柱により奏の母親枠は誰が相応しいか小一時間程議論した。
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