第16章 三貴子とピラミッド

第161話 俺はただ、寝放題ライフを目指しただけだ

 翌日、奏は朝食後に響に迫られていた。


「奏ちゃん、お願いがある」


「お願い? なんだ?」


「2つあるんだけど良い?」


「聞くだけ聞く。叶えられるかどうかは、聞いてから判断する」


 なんでも言ってくれとは言えないので、奏は慎重に先を促した。


「じゃあ聞いて。1つ目は、僕も神器が欲しい」


「ふむふむ。もう1つは?」


「2つ目は、インドに送迎してほしい。僕も進化できるまでレベル上げしたい」


「なるほど。確かに、響だけ神器もないし、進化もしてないもんな」


「うん。基本的に働きたくないけど、仲間外れなのは嫌」


「わがままだな、響は」


 希望だけを言う響に対し、奏は苦笑いした。


「そう言うけど、奏ちゃんも僕の立場になってみてよ。島には4人しかいなくて、その内3人は進化してるし、神器を持ってる。しかも、1人は自分とパーティー組んでた相手だよ? 取り残された感が否めない」


「確かに、それは悲しいな」


「でしょ? 放課後に西日が差す学校の教室で、自分だけが残されたような焦燥感なんだよ」


 響の言い分を聞いて、奏は少しだけ考えたが思い当たる節がなかった。


「・・・俺の記憶してる限り、俺も響もそんな時間まで学校に残ることなかっただろ。授業終わったら、即帰宅してたじゃんか」


「流行りのゲームを自分だけ持っていないもどかしさと同じ」


「さっきの例えミスったからって、すぐに切り替えたな」


「良いでしょ、奏ちゃん? 日本にある神器の場所だってわかるんだし。僕だってほしい」


「・・・しょうがないな。じゃあ、今から神器を探しに行くか?」


「流石は奏ちゃん。話がわかる」


 響に同情すべき点があるのは事実なので、奏が響の1つ目の願いを叶えることにした。


 それがわかると、響はご満悦だった。


「奏、俺様も行くぞ」


「別に良いけどなんで?」


「俺様がいるってのに、奏に色目使う神器がいたらムカつくからだ」


「いや、バアルはもう神器じゃないじゃん」


「神器が神として復活したら、大抵は加護を授けたりすんだよ。奏には俺様がいるんだから、お母さんは他の神器を認めません」


「誰が俺の母親だ。まあ、良いか」


「ルナも行く~」


「勿論だ。ルナ、現地での移動は任せた」


「は~い」


「じゃあ、僕もアラン連れて来るね」


 こうして、奏と響、バアル、ルナ、アランで響の神器探しに向かうことになった。


 響がアランを連れ、神殿の外に戻ったら、奏達は【転移ワープ】で神器のある場所へと移動した。


 奏達が最初にやって来たのは、山形県鶴岡市の山の中だ。


 この辺りに生存していた冒険者達は、白神山地に向かってしまったため、今では人の気配がまるでしない一帯である。


「奏ちゃん、ここの近くに神器があるの?」


「あるらしい。少なくとも、昨日手に入れた情報だと、この山にある月山神社に1つあるぞ」


「僕向きの神器だったら良いな」


「悪いが、そこまではわからん。あくまで、神器の反応のある場所がわかるだけだから」


「大丈夫。納得がいく神器が手に入るまで、今日は奏ちゃんにとことん付き合ってもらうから」


「なん・・・、だと・・・」


 これが、夫婦が一緒に買い物に出かけた時、夫がひたすら妻の服を選ぶ間、ずっと拘束されるのと同じ感覚なのかと奏は戦慄した。


 奏の気持ちとしては、サクッと神器を見つけて、響の1つ目の願いを叶えるつもりだったからだ。


 それはさておき、奏達はそれぞれ自分の従魔に乗り、目的地の月山神社へと向かった。


 空を飛んで移動すると、月山神社の本宮は倒壊していた。


「月山神社ってことは、奏、お前まさか?」


「ん? どうした?」


「いや、偶然か。なんでもねえ」


「そうか」


 奏が意図的にこの場所を選んだのかと思ったが、その推測は違うことを反応から読み取り、バアルは首を横に振った。


「【透明多腕クリアアームズ】」


 昨日、ザガンとの戦闘で会得した新スキルを奏は発動した。


 それにより、瓦礫は全て脇に避けられ、月山神社の本宮の床下部分に宝箱があるのを見つけた。


「あっ、宝箱」


「神器はこの中だ」


「パッと見た感じでは、罠はない気がするんだけど、バアルさんどうかな?」


 響の目には、罠らしきものは見受けられなかった。


 だが、神器の入っている宝箱ともなれば、何かしら仕掛けがあると思ったので、響はバアルに答え合わせを頼んだ。


「あるぜ。罠とはちょっと違うけどな」


「えっ、何それ?」


「この宝箱は、普通に開けると普通に便利な物が手に入る。だが、神器を手に入れるには、暗い所で開ける必要がある。1回開けちまったら、絶対にこの宝箱の神器は手に入らねえって言う点で罠だ」


「なんだ。そう言うことか。【陥没シンクホール】」


 ズズズズズッ。


 バアルの説明に頷くと、響は宝箱のある辺りを陥没させ、光が届かないようにすることで暗い場所を人工的に用意した。


「アラン、穴の底に連れてって」


「任せるでござる」


 アランに頼み、響は宝箱のある穴の底まで移動した。


 そして、暗くてほとんど何も見えないような状態で、宝箱を開けた。


 そこには、青白く光る石があった。


《おめでとうございます。個体名:新田響が、神器月読を手に入れました。それにより、月読が響の専用神器になりました》


《月読が、首切丸を吸収しました。それにより、月読は脇差に姿を変えられるユニーク武器へと強化されました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏の全能力値の平均が、世界で初めて5,000を突破しました。初回特典として、退魔師エクソシストセットがバージョンアップされました》


 神の声が止むと、響は穴の底からアランに乗って戻って来た。


 すると、響の首切丸Ver.4が青白い見た目へと変化していた。


「響、ユニーク神器になっちゃったな」


「そうだね。押しかけ的な感じで、僕専用になっちゃったよ」


 奏が声をかけると、響が肩を竦めた。


『そんな言い方はあんまりじゃないかな?』


「よう、月読。元気そうじゃねえか」


『バアル、君、よくも姉様の子孫に加護なんて与えてくれたね』


「なんだよ、そう怒んなって。便秘か?」


『君って本当に失礼だよね。はぁ』


 バアルがニヤニヤと笑うので、月読はムッとした声を出した。


「月読、ちょっと聞いても良い?」


『なんだい、僕の契約者さん?』


「月読って男神と女神のどっち? 僕、月読がどっちか知りたいんだけど」


『僕は女神だよ。君、自分のことを僕って呼ぶんだね』


「月読もそうだよね?」


『アハハ、確かに。君とは仲良くできそうだ。よろしく、響』


「よろしく」


 両者とも、僕っ娘であるという要素が一致したことで、響と月読はそれぞれ親近感が湧いたらしい。


 響と月読の話が終わると、奏はバアルに気になったことを確認し始めた。


「バアル、さっきしれっと退魔師エクソシストセットが強化されてたよな?」


「おう。今度の強化では、VITとDEX、INTがそれぞれ+200になったぜ」


「強化されたのは嬉しいけど、やっぱり変化が感じ取りにくいな」


「そりゃ、基礎能力値がオール5,000オーバーだもんな。そこに各種バフが加われば、200なんて端数みたいなもんだ」


 バアルがしみじみと言うと、月読は感心していた。


『へぇ、姉様の子孫はそこまでの強さなんだ』


「そうだよ。すごいでしょ?」


「響嬢ちゃんがドヤってどうすんだよ。つっても、確かに奏は色々と規格外だ。なんせ、伊邪那美から祝福も受けてるし」


『え゛? 母様から? ・・・うわっ、ほんとだ。母様以外からも祝福を受けてるせいで、すぐにはわからなかったよ。というか、母様レベルで誰が祝福したの?』


「ガネーシャだ」


「どういう生活をしたら、母様とガネーシャから祝福を貰うのさ? いや、バアルも加護をあげてるのか。いずれにせよ、何したらそうなるんだい?」


 奏がガネーシャからも祝福を受けたと知り、月読の声が引きつっていた。


 その反面、ここまで神に愛された存在と言うのは珍しいので、その要因を訊ねた。


「俺はただ、寝放題ライフを目指しただけだ」


『あ、ありのまま今 起こった事を話すよ? 寝放題ライフを目指してたら、神1柱の加護と神2柱の祝福を貰ったって言うんだ。な、何を言っているのかわからないと思うんだけど、僕も何を言われたのかわからなかった』


「おーい、月読。戻ってこーい」


 月読が誰に向けて喋っているのかわからないが、正気を失っているのは間違いなかったので、バアルが月読に声をかけた。


「あっ、ごめん。ちょっと思いもしなかった発言のせいで、混乱しちゃったよ」


「神でも混乱ってするんだな」


元凶はちょっと黙ってろ」


「理不尽だ」


 バアルにツッコまれ、奏は静かに抗議した。

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