第163話 その通り。お母さん、胸がスッとしたわ
議論という名の戦争の結果、奏の母親枠はバアルと天照のものになり、伊邪那美は奏の祖母枠になった。
ちなみに、伊邪那美はかなり早い段階で祖母枠になっていた。
それは、天照が伊邪那美の娘だったからである。
加えて言うならば、伊邪那美は奏をかわいがっても自然なポジションであれば、母でも祖母でもどっちでも良いと考えていた。
だから、開始数分で伊邪那美は祖母枠で構わないと争いから降りた。
しかし、そこからが長かった。
バアルと天照の戦いが、熾烈を極めた。
バアルには
それに対し、天照は血の繋がりこそ全てであり、血の繋がりに勝るものはないと譲らなかった。
奏が天皇の系譜である以上、自分こそが母親だと主張したのだ。
ところが、今まで宝箱の中でぬくぬくしていたぽっと出の女が母親面すんなとバアルに言われて黙るどころか泣いてしまい、最終的に伊邪那美が仲裁した形である。
最初は争っていたものの、すぐに身を引いて仲裁する伊邪那美はこの場で一番大人だったと言える。
奏が議論の中身を聞くことなくルナをモフモフして時間を潰していたのを見て、これを放置するのはマズいと伊邪那美が話をまとめたのだ。
そして、バアルと天照を仲裁した後、天界の会議で奏達と喋っていられなくなり、伊邪那美の声は聞こえなくなった。
決着した後、バアルは不満そうな顔で奏に結果報告をした。
「奏、誠に残念ながら、このぽっと出引き籠り駄女神も母親枠になっちまった」
『そ、そんな酷いこと言わなくたっていいじゃん!』
「おーおー、確か、日本には泣く子と地頭には勝てぬってことわざがあったっけ? 今回はまさにそれだよなぁ」
『ぐすん。奏、バアルがお母さんを虐めるの』
「おい、奏に泣きつくなよ」
思ったよりも、天照のメンタルが弱く、バアルはやりづらそうな表情になっていた。
最初に登場した時は、できる女風に丁寧だった口調もすっかり化けの皮が剝がれ、子供っぽくなっていた。
「バアル、腰元で泣かれると煩いから、それぐらいにして」
「プッ、天照ざまぁ。奏に鬱陶しそうにされてやんの」
『うわぁぁぁん!』
「静かにしろ。仮にも母親枠なら、ちょっとは落ち着け」
『・・・ぐすん』
泣き始めた天照だが、奏に母親と仮認定されたことで、本格的に泣くことはなかった。
「バアル、天照が天叢雲剣を吸収したら【
『はいはい! お母さんが答える!』
「・・・しょうがねえ。自分のスキルぐらい、喋らせてやるよ」
ここで天照を刺激して泣かれれば、奏の機嫌が悪くなる。
そう判断したバアルは、仕方なくスキルの説明を天照に譲った。
『フフン。あのね、このスキルは奏が私を使って斬った時に私に内包された太陽光で焼くの。つまり、斬ると焼くを同時にできちゃうの。どう、すごいでしょ?』
「そうだな。まあ、日本にモンスターはいないから、役に立つ機会はないと思うけど」
『・・・奏、お母さんはいらない子なの?』
「うわっ、面倒臭ぇ」
天照を鬱陶しく思い、奏は自分が抱いた感想を正直に口にした。
「自分を子とかいうぐらいなら、母親枠降りろよ」
バアルもバアルで天照の発言に対してイラっとしたため、正直に感想を述べた。
一連の流れを黙って見ていた月読が、流石にもう黙っていられなくなって口を挟んだ。
『奏、それは姉様に対して酷いよ。姉様ってばメンタル豆腐以下のヒキニートなんだぞ?』
『ぐすん。月読の馬鹿ぁぁぁぁぁっ!』
月読が天照の罅割れたメンタルを破壊したので、奏もバアルも月読をジト目で見た。
「月読が一番酷いな」
「それな。毒の吐き方を見る限り、やっぱり響嬢ちゃんと相性良さそうだぜ」
「バアルさん、それはどういう意味?」
「そのまんまの意味だ」
「酷い」
「酷くない。事実だ」
「ねえ、パパ。次の場所行こう? ルナ、飽きちゃった」
「そうだな。行こうか」
「うん!」
奏の中では天照<ルナの優先順位のため、天照が泣き止むまで待たず、奏達は次の神器がある場所を目指し、【
奏達が次に移動したのは京都市東山区の八坂神社跡だ。
ここに来たのは他でもない。
須佐之男がいるならば、ここ以外には考えられないと奏が目星をつけてのことだ。
八坂神社では須佐之男が祀られている。
月山神社では月読がいて、伊勢神宮では天照がいた。
そうなれば、須佐之男についても祀られていることで有名な八坂神社にその神器があるだろうと判断したのだ。
実際、神器の反応はここにあるので、奏はほぼ確実に須佐之男がいると思っている。
「ルナ、移動してくれ」
「任せて~」
奏に頼られてルナは嬉しそうに飛んだ。
その後をアランが響を乗せてしっかりとついて行く。
そして、瓦礫の山となった本殿に到着すると奏は宝箱を探し始めた。
「【
いくつもの透明な腕が瓦礫をテキパキと移動させていった。
今日で3回目の作業ともなれば、瓦礫のあった場所の中から簡単に宝箱を見つけ出した。
透明な腕の1本を操って宝箱を開けると、その瞬間に宝箱が爆発した。
ドガァァァァァン! ゴォォォォォッ!
爆発は奏とルナの【
『この荒々しさ、間違いない。須佐之男ね』
『あの愚弟、余計なことしてくれちゃって』
天照と月読は宝箱が爆発したのは須佐之男の仕業だと断定した。
煙が収まると、宝箱があった場所には
それを奏が視界に捉えると、神の声が奏達の耳に届いた。
《おめでとうございます。個体名:高城奏が三貴子の神器を勢力下におきました。それにより、日本の復興速度に補正がかかります》
《バアルと天照により、神器須佐之男が奏のユニーク武器になることを阻止されました。それにより、力の蓄えられていた須佐之男は天界へと送還されます》
シュイン。
須佐之男が光ったと思ったら、すぐに光の粒子になって消えた。
「『これで良し』」
バアルと天照は、息ピッタリに頷いた。
須佐之男が奏の神器にならなかったのは、バアルと天照が須佐之男を奏の神器にしたくないという思いが一致し、須佐之男の介入を防いだからだ。
この時だけはバアルも天照もいがみ合うことはなかった。
《おめでとうございます。須佐之男が天界に送られたことで、天照の復活率が30%になりました》
神の声が止むと、奏は首を傾げた。
「えっ、どゆこと?」
「きっと、
『その通り。お母さん、胸がスッとしたわ』
「えぇ・・・」
『姉様、良かったね』
『ありがとう、月読』
「天照、これで良いのか?」
『良いのよ。どうせ、須佐之男は母上に会いたいって泣き喚くだけだもの。だったら、天界に行ってもらった方がみんなが幸せになれるわ』
「おうよ。天界は神不足だしな。そうじゃなきゃ俺様が天界に送ったりしねえよ」
『私が奏を守り、バアルが須佐之男を天界送りにする。完璧なコンビネーションだったわ』
「なるほど。一応、役割分担してたのか」
「おう」
『そうなの』
バアルと天照の息の合いっぷりに、実は2柱は仲が良いのではないかと奏が思うのは当然のことだと言えよう。
さて、結末は横に置いておくとして奏は月読の願いを叶えた。
だから、奏は月読の方を振り返った。
「なあ、月読。覚えてるか?」
『な、何をだい?』
奏が話しかけて来た瞬間、月読は何を言われるのか想像がついたので、とりあえずしらばっくれた。
「とぼけんなって。お前、復活したらずっと天界のトイレ掃除な。これ、決定事項」
『嫌だぁぁぁぁぁっ! 僕だけでトイレ掃除なんて嫌だぁぁぁぁぁっ!』
『奏、どういうこと?』
展開がわからない天照が、奏に説明を求めた。
その質問に対し、答えたのはバアルだった。
「実はな、天照と須佐之男を宝箱から解放したのは月読の願いを聞いたからだ。だが、こいつが奏に対してその願いを聞き届けなきゃ、日本の復興速度が上がらないっていう嫌な手口で頼んだから、奏が怒った。んで、伊邪那美が謝罪して月読が復活後に奏の気が済むまでトイレ掃除をすることで手打ちになった」
『・・・月読?』
『はい、なんでしょう姉様!』
天照から、今までには全く感じられなかった冷たいオーラが噴き出し、それによって月読が背筋を伸ばした時のような声を出した。
『貴女、私の奏に何してくれてるの? 私、許容できないわよ?』
『ごめんなさい! トイレ掃除、喜んでやらさせていただきます!』
『よろしい』
『はい!』
このやり取りを見て、奏は初めて天照も立派な神であることを認識した。
それから、奏達は昼も近くなってきたので、双月島に【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます