第159話 もう終わりか? なら、次は俺の番

 奏がボス部屋の扉を蹴蹴飛ばすと、ボス部屋の中には奈落タルタロスと同じように階段の上に玉座があった。


 その玉座では、翼を生やしたミノタウロスの見た目をしたザガンがふんぞり返っており、奏達がボス部屋に入って来たのを見て下種な笑みを浮かべた。


「ぶっ飛べ!」


 ドガァァァァァン! ゴォォォォォッ!


 突然、奏達の立っていた場所が爆発した。


 しかし、その爆発は奏の【嵐守護ストームガード】によって防がれた。


「馬鹿な!?」


 初見殺しと呼べる罠を破られ、ザガンは狼狽した。


 まさか、罠を漢解除おとこかいじょされるとは夢にも思ってなかったからだ。


 実際、奏の高いVITと【嵐守護ストームガード】があって初めて成り立つ体を張った罠の解除方法である。


 奏が罠を自ら発動させ、後から続くルドラ達の安全を確保する行為を一般的な冒険者がする可能性なんて、ザガンは全く考えていなかった。


「罠か。そりゃ、仕掛けてくる奴もいる


「バアル、それってダジャレ?」


「・・・あっ、違うからな!? これは偶々だ!」


 偶然、自分の言葉がダジャレになってしまったことに気づき、バアルは慌てて否定した。


「はいはい。それで、罠はもうないな、ザガン?」


「さ、さあな? な、ないんじゃないか?」


「「絶対ある」」


 罠を破られたことで、未だに動揺しているザガンの反応を見て、奏とバアルの反応がシンクロした。


「じゃあ、ここから攻撃するか。【技能付与スキルエンチャント無限収納インベントリ>】」


 ズズズズズッ!


 天叢雲剣が紫色のユラユラしたオーラを帯び、それによって刀身がぐーんと伸びた。


 そのまま、奏は【刀剣技ソードアーツ】に身を任せ、思いっきり天叢雲剣を振りぬいた。


 スパパパパパァァァァァン!


「ヌァァァァァッ!?」


 ザガンの額から生えた角が一刀両断され、そのまま亜空間に収納された。


 突然の攻撃で、避けることができなかったザガンは、2本の角を折られた痛みと驚きから叫んだ。


「すごい・・・」


 ボス部屋に入ってすぐの場所から移動せず、ザガンの角を切断した奏を見て、ルドラは感嘆の声を漏らした。


「ぐぅぅぅっ、おのれ! 【毒錬金ポイズンアルケミー】」


 ジュボボボッ、ヒュン!


 痛みを怒りにして、ザガンは手を上に掲げた。


 その手の先から、毒々しい球体が発生し、ザガンは奏に向かって放った。


 しかし、奏は全く焦る様子がなかった。


「【螺旋風刃スパイラルエッジ】」


 ビュオォォッ! スパパパパァァァン!


 いくつもの回転する風の刃が、ザガンの放った毒々しい球体に命中し、飛沫が奏達に飛ばないように勢いで押し勝った。


 バシャバシャバシャッ、ドガガガァァァァァン!


 毒液がボス部屋の何ヶ所かに飛び、地面に触れた瞬間に爆発した。


「なるほど。触れたらドカン系の罠か」


「おのれぇぇぇっ! 【麻痺眼パラライズアイ】」


「無駄」


 ザガンがスキル名を唱えると、奏を麻痺させようとザガンの両目が赤く光った。


 だが、それは失敗に終わるとわかっていたので、奏は効かないことを端的に告げた。


 【生命呼吸ライフブレス】を会得している奏の前に、状態異常をもたらすスキルは効果がない。


 ザガンはそうとも知らず、スキルを無駄撃ちすることになった。


「もう終わりか? なら、次は俺の番」


「させねえ! 【ポイズン・・・」


「【創造クリエイト】」


 バッシャァァァン!


「もがっ!?」


 ザガンの頭上に、奏は大量の水を創り出して落とした。


 それにより、ザガンは頭に落下エネルギーたっぷりの水を喰らい、スキルの発動が阻止された。


「【透明腕クリアアーム】」


「グハッ!?」


 その隙に、奏は飛んでザガンの目の前まで移動しつつ、透明な腕をザガンに伸ばして捕まえた。


 ザガンが自分の全身を握られたと感じた時には、肺から息を吐き出していた。


「今から、俺の質問に答えろ」


「ふざけんな! クソッ、動けねえ! 何故だ!?」


 奏の態度に苛立ち、奏を殴ろうと体を動かそうとしたが、見えない何かに動きを封じられており、ザガンは少しも動けなくて叫んだ。


「質問するのは俺だ」


「グァァァッ!?」


 【透明腕クリアアーム】で握る力を強めると、ザガンは痛みを堪えられずに叫んだ。


 そこに、バアルが奏の隣まで飛んで来た。


「ザガン、悪いことは言わねえ。言う通りにしとけ」


「煩いぞ、この裏切り者が、グァァァッ!?」


「無駄口を叩くな。唾が飛ぶだろ?」


「あーあ。折角、俺様が比較的痛みを感じずに済む方法を教えてやったのに」


「バアル、それ、わざとやってるじゃん。顔が笑ってるぜ?」


「そんなことねえよ」


「見た目は良いんだから、ゲス顔なんかするなよ」


「な、何言ってんだ奏!? 俺様を褒めるよりも先に、さっさと尋問しろよな!」


 いきなり奏に見た目を褒められたことで、バアルは動揺してしまった。


「それもそうだ。ザガン、黙って言うことを聞け」


「ザガン、マジで言うこと聞いとけ。ベリアルと同じように、酷い最期を迎えたくねえだろ?」


 奏が何をやろうとしているのか気づいたため、バアルは先程よりも真剣な表情で忠告した。


 奈落タルタロスでは、奏がベリアルの骨を容赦なく折り、痛みをじわじわと蓄積させ、ベリアルがそれに耐え切れずに自白した。


 それが再び行われるのは、バアルは3度目だから慣れているが、今回はルドラ達の目がある。


 奏の尋問を見たら、間違いなくルドラがビビるので、奏にできた国外の友達がいなくなるのを避けたいバアルは、どうにかベリアルにこの段階で自白してほしいと望んだ。


 そんなバアルの表情を見たことで、ザガンは冷静さを取り戻した。


 いや、正確には恐怖を感じたと表現した方が相応しいだろう。


 現に、ザガンは冷や汗を滝のように流していた。


 魔界で傍若無人な振舞いで、ソロモン72柱の序列1番目の王となったバアルが、真剣な表情で言うことを聞いておけと言ったせいで、ザガンの心を恐怖がどんどん締め始めたのだ。


 実際、ソロモン72柱にとって日本の砦だった奈落タルタロスを統治していたベリアルが、気づけば倒されていたことはザガンも知っている。


 それを行った張本人が、自分の目の前にいて自分には理解できない力で拘束している。


 この状況が怖くないはずがない。


「わ、わかった。知ってることを話そう。何が知りたい?」


 ザガンは恐怖に屈した。


 そして、奏はインドの情報だけでなく、ソロモン72柱について知っていること全て吐かせた。


 それにより、ベリアルからは聞き出せなかった情報を得ることに成功した。


 ベリアルを奏が倒したことで、ソロモン72柱の王すら倒せる冒険者がいるとわかり、各国に散ったソロモン72柱は情報交換をするようになったのだ。


 どんな冒険者が厄介で、何が得意なのか等、以前は同じソロモン72柱同士でも、それぞれのプライドが高くて協力するような関係にはなかった。


 ところが、今は以前とは違って生存しているソロモン72柱が情報を交換している。


 冒険者が掲示板機能を使うように、ソロモン72柱も各国の情報を共有し始めたのだ。


 そして、生存しているソロモン72柱は、日本のソロモン72柱を倒した者の正体を探っていた。


 奏にとって都合が良かったのは、まだソロモン72柱に奏の正体がバレていないことだ。


 もし、奏のことがバレたとしたら、ソロモン72柱は各地のダンジョンを放棄して一斉に奏を攻めに行くだろう。


 それぐらい、日本のソロモン72柱を倒した冒険者を危険視していた。


 その情報に加え、奏はもう1つだけ新しい情報を手に入れた。


 それは、現在生き残っているソロモン72柱の数である。


 残りは42体だった。


 アメリカ、中国、ロシアにはそれぞれ5体、インド、エジプトにそれぞれ3体イギリス、フランス、ドイツは残り2体いて、後はポツポツと生存している。


 ついでに、インドのどこに残りのソロモン72柱がいるかも確認した。


 これだけの情報が引き出せれば、奏としてはもう十分だった。


 ザガンに用がなくなったので、とどめを刺すことにした。


 誤解のないように言うならば、奏に嗜虐趣味はない。


 あくまで情報収集の手段として、ザガンを力で脅して尋問しているだけだ。


 実際、ベリアルよりも従順な態度のザガンには、骨を折るような真似はしていない。


「情報助かった。せめて一瞬で終わらせてやる。【蒼雷罰パニッシュメント】」


 バチィッ! ズドォォォォォォォォォォン! パァァァッ。


 蒼い稲妻がビームのように放たれ、ザガンの頭を撃ち抜いた。


 それにより、ザガンの体が消え、魔石とモンスターカード、宝箱が代わりに出現した。

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